第33話 続・ロストマジック教室




「それじゃあ、まずはトラポから教えるとしましょう!」


シュパッ

「はいっ、先生っ!」


「はい、母さん。」


「トラポって、どういう意味ですかーっ?」


「ふむ。なかなか良い質問ですね。トラポとは、旅行を意味するトラベルと、瞬間移動を意味するテレポート。それらをくっ付けただけの造語です!なので、瞬間移動的旅行がトラポなのだと認識して下さいね。」


「なるほどぉ。瞬間移動的旅行、、確かにその言葉通りの効果だったわね〜。」


と、現在ジッポン王国の側に出したワカバの別荘にて、ロストマジック教室を開いている。



「トラポの基本スペックは、消費MP8・必要Lv10もしくはING25以上・魔力操作Lv3以上で発動可能だよ。」


「む?そんな低コストなのじゃ?」


「うん。トラポはただの補助魔法だからね。冒険の旅をスムーズにする為だけに存在するの。だから気軽に使えるコストに設定されてるんだ。」


「なるほどのぅ。ならば後は、イメージの仕方じゃな!」


「そうだね。まずは行きたい場所を思い浮かべて、そこに向かって超高速で飛んで行く感じだね。もう音も光も追い越して、一瞬で目的地に到着する旅路。あっでも、旅は安全・快適である必要があります!到着した先にクレーターを作らないように、そっと着地するイメージが大切だよ。」


「ふふっ♪あの時は店の前が凹んじゃったものねっ♪」


「あ、あれは初めてだったからね。」


「途中経路はどうイメージするのじゃ?」


「それは必要ないよ。どこに居ようと、目的地に向かって飛んで行く。これを強く意識していれば、問題なく移動出来るよ!」


「じゃあ、建物の中からだとどうなるのかしら?光より速いスピードで壁にぶつかったら、壁も自分もブッ壊れちゃうんじゃ?」


「う〜ん。本来この魔法は屋外で使うものだから、発動しないんじゃないかなぁ?」


「あら?あの時は発動したわよね?」


「アレね?だってアレは東京ドーム『結界』だから、屋外扱いになってたんだと思うよ?」


「なら、今いるこの家も屋外扱いになるのかしら?」


「いや、これは結界じゃなくて別荘だから、屋内だね。まぁその辺の枠組みは、魔法を使った本人しか分からないだろうから、トラポは基本的には屋外で使う魔法だって覚えておいてくれればオッケーだよ。」


「分かったわ。」


「それじゃ、早速外で試してみよう!」


「おーっ!」なのじゃ!」


3人で外の原っぱに出て、トラポを実践してみる。



「じゃあ、まずは見える所で試してみようか。あの辺に自分が瞬間移動するイメージだよ。」


俺は100mほど離れた場所を指差して、初トラポの目的地に指定した。目的地が見えていれば、そこに居る自分をイメージするだけで良いから、練習には最適だからだ。



「では行くのじゃ。」


そう言うとルシフルは意識を集中させ、、パッと目的地へ瞬間移動的旅行した。


移動先からこちらに向かって手を振っているので、サムズアップで成功を称えると、パッと目の前に帰って来て大興奮。


興奮しすぎで何言ってるかよく分からなかったが、まぁ喜んでくれているのは分かったので良しとしておこう。



「さっ、次は母さんの番だよ〜!」


「わ、分かったわ。、、いくわね!」


母さんも意識を集中し、魔力を放出する。

次の瞬間、100m先の目的地で小規模の爆発が発生し、砂埃が立ち上った。


砂埃が落ち着くと、母さんが『えへへ、やっちゃった!』という表情で苦笑いしているのが見えた。


移動することに意識が向いてしまって、そっと着地する事が抜けてしまったようだ。


まぁその辺の事は、何度か練習すれば改善するだろう。



「あはは、やっちゃったわ。」


「おかえり!でも帰りはちゃんと成功したから、心配いらないよ。とりあえず10分くらい行ったり来たりして、トラポの感覚に慣れてみよう。」


「分かったわ!」のじゃ!」


素直に練習に励む2人。初めの何回かは着地失敗する事もあったが、10分経過する頃にはスムーズに移動出来るようになっていた。



「はい、練習終わりーっ!」


「うむ。次はいよいよ本番じゃな?」


「その通り!次は、実際に行った事のある場所に移動してもらうよ。まぁ今の練習通りにやるだけだから、なんの心配もいらないんだけどね。」


「そうじゃな!では、行ってくるのじゃ!」


その言葉にコクリと頷くと、ルシフルの姿はパッと消えた。



「私も行ってくるわね!」


と、続けて母さんもパッと姿を消した。


まぁ消えたとかって表現してみたが、俺はスーパー動体視力で飛んで行ったの見えてるので間違えないでもらいたい。


あくまでも、一般的には消えたとしか思えない速さって意味だからな。



そして1分ほどして、ルシフルがパッと現れた。、、1人の美女を連れて。



「おかえり〜。」


「なははっ!大成功なのじゃ、魔王様よっ!」


「それは良かった。、、で?」


「うむ!こやつはムルムル、妾の元部下なのじゃ。ほれっ、挨拶せい。」


「はっ!お初にお目にかかります、魔王様。元魔王軍諜報部隊隊長、ムルムル・ラ・リルリルと申します。どうぞ私めの命、ご自由にお使いくださいませ。」


ルシフルに挨拶を促された途端、いきなり跪いての自己紹介、、からの忠誠の儀!


急すぎて若干引いたぞ!?



「わ、分かった。ムルムル・ラ・リルリルの命、99代目魔王 ワカバが預かろう。よろしくね!」


「はっ!」


ムルムルが返事をして顔を上げた。そこで予想通りのアレが発生した。


まぁね、ベリアルで経験済みだからさ、別に驚かないよ。



そう。つい先ほどまでは30代半ばくらいの、人妻系美女だったのが、20歳なりたて美女になっていたのだ。


おそらくは、俺の眷属になったのが原因だと思うけど、確認してみない事には何とも言えないからな。



「む?ムルムルよ。おぬし、さっきよりも若くなっておるのぅ。」


「若く、ですか?、、確かに魔力が全盛期より漲っているように感じますが。」


「そうじゃな。実際、昔より能力値が跳ね上がっておる。ふははっ!さすがは魔王様なのじゃ!」


どうやらルシフルにプライバシーの概念は無いらしく、勝手にムルムルを鑑定したようだ。


ベリアルも勝手に見て良いって言ってたくらいだから、魔王の特権みたいな感じ、、なのかな?


まぁ俺はちゃんと許可をもらってから見るけど。


、、うん。日本人らしさが残ってて安心するね。



「ムルムル。俺にもステータスを見させてもらって良い、、


俺がそこまで口にした時、上空から何かが急速に迫ってくる気配を感じた。


俺はバッと空に視線を移す。



「あー、そういえば跳んで行ったままだったよ。」


シュタッ!

「魔王様!只今戻りました。」


綺麗な着地を決めて、礼をしながら帰還の報告をしてきたのは、グラビティ1/1000をかけて彼方へと跳び立った、ベリアルであった。



「おかえり。軽くなった状態はどうだったかな?」


「はっ!まるで自分の体ではないような、万能感を味わわせて頂きました。」


「楽しめたみたいで良かったよ。」


「はいっ、ありがとうございます。」


ベリアルは大満足といった表情を見せた。

部下が喜ぶ事をしてやるのも上司の務め!また今度、何かしてやるとしよう。


その分ちゃんと働いてもらうからなっ!?



「おや?ムルムルではないか。その姿、、魔王様の眷属にして頂いたのだな?」


「、、ベリアル、か?お前こそ若い頃の姿に、強者の気配。一体何があったのだ?」


「ふっ。これも全て、魔王様より授かった恩恵だよ。ルシフル様には申し訳ございませんが、今代の魔王様は我々魔族を救って下さる救世主なのだよっ!!」


「ぬぁっはっは!よいよい。妾も同感じゃからなっ♪ロストマジックを使いこなす、天才魔王様なのじゃーっ♪」


「そ、そうでございましたか。救世の魔王様、お与えくださったこの力、存分にお使い下さいませ。」


「あ、、うん。ありがと。」


なんか救世主扱いされとるんだが、めちゃくちゃ盛り上がってるから否定しづらいな。


まぁ魔族を勝利に導く者だから、救世主っちゃ救世主なのか?



パッ、、

「ワカバちゃんっ!ちゃんと出来たわーっ♪」


「母さん、おかえり〜。どこまで行って来たの?」


「ママンの家に行って、お茶して戻って来たわっ♪」


「うんうんっ♪2人とも完全にマスターしたね、おめでとう!」


「ありがとうっ♪」なのじゃっ♪」


「という訳で、次は重力操作魔法を教えるね!」


「ま、魔王様!」


「ん?ムルムル、どうかした?」


「はっ!貴重なロストマジックを、我々にも授けて下さるのですか?」


「ああ、もちろんだよ。10年後に起こる戦い、敵は86億人くらいいるから。少しでも戦力を強化しておくべきだよね?」


「86億、、。かしこまりました。この命、少しでも魔王様のお役に立てるよう精進して参ります!」


「そ、、そうね。頼む、、よ?」


「はっ♪」


なんかムルムルは、自分の命を粗末に扱いそうな雰囲気だなぁ。

『いのちだいじに』という作戦を知らないんだろう。

まぁ元上司のルシフルが、『ガンガンいこうぜ』しか知らない脳筋バーサーカーだったみたいだから、仕方ないのかなぁ。


その辺りも、追々教えていかなきゃだね。



「コホン。それでは、重力操作魔法 グラビティについて説明していくよ。まず、重力って何か分かってるかな?」


「妾も詳しくは知らぬが、チタマの中心に向かって引き寄せられる力と、チタマの自転による遠心力を合わせたのが重力じゃな。」


ルシフルの答えに、他の皆もコクコクと頷く。



「正解っ♪そこまで分かってるなら話は早い。そう、重力はチタマ上にある全てのモノに等しく掛かる力。人であれば爪先から頭、髪の毛1本に至る全身に重力は掛かってる。なら、その重力を+1000kgにしてやれば?」


「普通の人は重くて立ってられないわねっ♪」


「そう。では逆に、100分の1にしてやったら?」


「とても軽く感じると思います。」


「ふふっ。ムルムル、軽く感じる程度で済む話ではないぞ?例えば体重50kgの人が1/100の重さになるとする。体重500gになる訳だ。」


「ベリアル、勿体ぶらずに早く言え。」


「そう焦るな、ムルムル。、、体重500gになろうとも、ステータスは変わらず。ここまで言えば分かるだろう?」


「、、単純計算でも、100倍の素早さになると?」


「その通りだ。更にそれだけじゃない。50kgを支えてきた筋力が、枷を外して解放されたように、無限に力が湧き出てくる!あの感覚、素晴らしかった♡」


ベリアルは自分の体を抱きしめるようにして、うっとりと頬を赤く染める。


、、うん、キモい。



「と、とにかく!使い方によっては、即死魔法にもなるって事だね。」


「うむ、そうなるのぅ。魔王様よ、グラビティは特定の部位に掛けられるのじゃろ?」


「うん。さすがはルシフルだね!俺の言葉の意味をよく理解してる。」


「なははっ、伊達に魔王をやっとった訳ではないからのぅ!ムルムルはイマイチ分かっておらぬようじゃな?魔王様よ、ムルムルに体感させてやるといいのじゃ。」


「そうだね。んじゃ、死なない部位で!」


俺はグラビティを使って、ムルムルの両手を1000tにしてやる。



ボギボグッベゴベゴベゴ、、



鈍い音が聞こえたと思ったら、ムルムルの両手は地面に埋まっていく。


ムルムルは立っていられず、地面に這いつくばる。、、いや、もう地面に力強く頬ずりしている。めちゃくちゃ涙目で。



コレはちょっとやり過ぎたかな?と、即座にグラビティを解除してあげる。


スッと立ち上がったムルムルだが、両腕をダラ〜ンとぶら下げて、、あー!さっきの鈍い音って、両肩が脱臼した音だったのか!


俺は慌ててムルムルにフルケアヒールをかけた。

脱臼なんて一瞬で完治!


これでムルムルも、俺の言った『即死魔法にもなる』って言葉の意味が分かったと思う。



治った両手で涙を拭い、ジッと俺を見つめるムルムル。



あ、あれ?少し怒ってらっしゃる?


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