第34話 母さんの一撃!!




ふむ。俺はやり方を間違えたのかもしれない。


いくら魔法の効果を体験してもらう為とはいえ、両肩脱臼させて這いつくばらせ、固い地面に強制頬ずりさすとか、、鬼か!?、、いや、魔王なんだけども。



ムルムル、よっぽど屈辱だったんだろうな。


脱臼治してから、何も言わずにジッと見つめられてるもん。


あぁ、圧が凄い。後、近い。


鼻と鼻がくっ付く寸前だよ?


し、しかし、ここで俺が先に目を逸らしたら、なんか負けな気がする。


どんな勝負であれ、魔王が負ける訳にはいかん!!



よ、よぉしっ!俺も漢(おとこ)だ、覚悟を決めろ!!


絶対に目を逸らさねーぜっ!!?



「ふっ、、。」


「、、ふ?」


「ふふっふっふっふ、、あははははっ!!」


俺が決心を固めた時、ムルムルは突然お腹を抱えて笑い始めた。


あまりの屈辱感に、精神崩壊を起こしたのか!?


と、心配しながら見ていたのだが、どうやら違ったらしい。



「はーっ、ふふっ、、申し訳ございません、魔王様。」


「え、いや、、え?」


「いえ。私を魔法1つで完膚なきまでに屈服させたお方が、このような美しいお嬢様とは。驚き過ぎて、精神を保つ為に笑わせて頂きました。」


「そ、、そか?」


「はい。それと、グラビティ?でしたか。その魔法の効果ですが、身をもって理解させていただきました。こちらの魔法、例えば心臓に、、もしくは頭部に掛けられれば、敵は死に至ると思われます。いかがでございましょうか。」


「そうだね。心臓だけが10000tになったら、心臓に繋がる血管は全てぶっち切れてお腹辺りから体外に飛び出してくるだろうし。あたまが10000tになったら首が折れる、じゃ済まないか。首が取れちゃうかもね?」


「はっ!偉大なる救世の魔王様。私は貴方様専用の豚になり、この命尽きるまでブヒブヒと鳴いてご覧にいれます。」


「い、いや、そういうのは遠慮しとくよ。」


「そうでございますか。非常に残念ではございますが、魔王様がそう仰るのであれば仕方ありません。普通に仕えさせていただきます。」


「う、うん。頼むね。」


何やら雲行きが怪しくなってしまったが、もう大丈夫みたいだな?



「さ、さて。グラビティの説明を続けるとします!え〜っと、、どんなイメージをすれば良いかってところからかな。まぁコレは簡単。重くしたいなら、チタマがその部位を○○kgで引っ張ってる!って感じだね。」


「なら軽くするのはどうするのかしら?」


「軽くするなら、チタマが引っ張る力を○分の○に緩める感じだね。普通の状態を1とか100とか、自分なりに決めとくとイメージしやすいかも。俺は1を基準にしてる。」


「なるほどのぅ。では、ムルムルよ。ちぃっとばかし試させてもらうのじゃ。」


「はっ!」


ムルムルが返事をしたと思ったら、急に尻もちをついた。



「なるほどのぅ。100kg程度でも、突然ケツが重くなったら、バランスは保てんよのぅ。」


「はっ!これが戦闘中でしたら、致命的にございます。」


「うむうむ。100kgで消費MP10とはのぅ。これも低コストなのじゃなぁ。」


ルシフルが感心したようにそう呟くと、ムルムルがスクっと立ち上がる。

おケツ100kgが解除されたのだろう。



「では、ルシフル様。よろしいですか?」


「む?妾のケツを重くしようなぞ、そんな命知らずな行為をしようとは、、のぅ?」


ビクッ!

「いっ、いえっ!滅相もございません。ルシフル様のお美しい御御足を、軽くして差し上げようと思った次第にございます。」


「たっはっは!冗談じゃ、冗談。じゃが、軽くなる感覚というのは興味深いのじゃ。ほれ、やってみぃ。」


「はっ!では、失礼致します。、、グラビティ。」


ムルムルがグラビティと発すると、ルシフルの両脚に魔力が集束したのを感じた。


、、ん?『両脚』に?


あっ、いかん!



「どれ、試してみるのじゃ!」


「ちょっ待っ、、


バビュンッズザザザザザザザ〜、、


静止も虚しく、ルシフルの両脚は勢いよく走り始めた。その勢いは上半身を置き去りにするかのごとく。


まぁ繋がってるんだから、実際には置き去りにはならないよ?


ただ、地面に後頭部を擦り付けるようにして、両脚だけが前進しまくるという、悲惨な状況になるだけだよ?



そんな走り方じゃ、せいぜい200m進めば良い方で、案の定200m先でコテンと倒れた。


軽くする時は全身に掛けないとバランスが取れなくなるって、ちゃんと言ったのになぁ〜?


、、なんて言い訳をしたところで、言ってないのは明らかでございます、はい。


これはムルムルが怒られる前に、俺から謝罪をするべきだな!



「ちょっと待ってて。ムルムルは悪くないから、そんな死にそうな顔しないで?」


俺は1人、地面に横になっているルシフルの元へ。


どうやら、下手に動くと再び両脚に引きずられると思い、グラビティを解析して解除するつもりらしい。



「ルシフル?大丈夫?」


「う、うむ。まさかムルムルに謀反の気があるとは思いもせんかったのじゃ、、。」


「いっ、いやいやいや!違うんだよ、今回のは俺が悪いんだ。軽くする場合は、全身に魔法を掛けないとダメなんだ。じゃないとバランスが取れないんだけど、それを伝え忘れちゃったんだよ。本当にごめんっ!!」


「ふふっ、分かっておる。妾も走り出してから気付いたのじゃ。魔王様の静止を振り切ってスタートした罰が下っただけの事。誰かを責める気など全くないのじゃ〜。」


「ルシフル、、。ありがとね!」


俺は寛大なルシフルにお礼を告げて、フルケアヒールをかけてあげる。


まぁルシフルのステータスなら、このくらいでケガをするなんて事はないだろうが、感謝の気持ちを込めてってことで!



「して、魔王様よ。グラビティの効果時間はどのくらいなのじゃ?」


「あ〜、確か24時間だね。」


「な、長いのぅ。じゃが、また引きずり回されるのは勘弁なのじゃ〜。」


「ルシフルでも解除出来ない?」


「うむ〜。やはりロストマジックは、現代魔法と構造が違うようでな?妾でも解除は出来んのぅ。」


、、ふむ。これは大問題だぞ?今は魔法を掛けたムルムルに解除させれば済む話だが、もし敵にグラビティを使える奴がいて、全員のおケツが100tにでもされたら、地面にケツをめり込ませる変態集団になってしまう!!


しかも24時間も!!


これは事前に発見できた事を喜ぶべきだな。



今のうちに解決策を考えておこう。


しかし、グラビティの効果は状態異常になるのか?もしそうなら、状態異常無効があれば解決するんだけど、、。



「ルシフル、ちょっと俺に、重くなる方のグラビティを掛けてみてくれる?」


「う、うむ。、、どうじゃ?」


「なるほど。んじゃ、今度は軽くなるのを。あっ、全身にお願いね?」


「わ、分かっておる。、、どうじゃ?」


「ふむふむ。どうやら重くなる方は状態異常としてカウントされるね。軽くなる方はバフとしてだから、状態異常無効では防げない、、いや、右手だけ軽くしてもらっていい?」


「う、うむ。、、どうかのぅ?」


「なるほどなるほど。部分的なグラビティには状態異常無効が作動するね!これなら、状態異常無効を覚えれば解決するよ。」


「なるほどのぅ。じゃが、状態異常無効は結構レアなスキルじゃからなぁ。妾も持っとらんのじゃ。」


「ふ〜む。ちょっと待ってね。」


「う、うむ。」



俺は考える。

今まで状態異常無効のスキルを持っているのを見たのは、俺以外では母さんのみ。


母さん改造手術をしてから生えたのだから、あの手術が原因なのは確かなのだが、エチゴさんには生えなかった。


この2人の違いといえば、消費MPの規模か。


俺はLvアップで自然に覚えた。という事は、俺の魔王魔力にスキル状態異常無効の遺伝子みたいなのが含まれていて、それを多量取り込んだから、母さんにも状態異常無効が生えた、、というのが有力な説であるな。



「ルシフル。もし、、もしもね?状態異常無効のスキルを覚えられるとしたら、覚えたい?」


「覚えたいに決まっとるじゃろ。、、まさか?」


「うん、多分だけどね。母さんはそれで覚えたから。」


「な、何をすれば良いのじゃ?」


「あ〜、えっとね?」


俺はルシフルに、母さん改造手術について教えた。人族から魔族に変わった事も含めてね。



「う〜む。寝てる間に終わるのであれば、迷う必要などないのじゃが、、。」


「それは大丈夫だと思う。俺のスリープなら、死んでも起きないよっ♪」


「死んで起きたらゾンビなのじゃ。、、じゃが分かったのじゃ!魔王様よ、妾をいじくり回してくれなのじゃーっ!!」


「い、いや、いじくり回さないからね?でもまぁ、終わるまでゆっくり寝てて。」


「うむっ♪」


ルシフルにスリープをかけると、一瞬でぐっすり夢の中へ旅立った。



「母さんっ!ちょっと来て!!」


パッ、、

「どうしたのかしら?」


「トラポ使いこなしてるね!、、じゃなくて、今からルシフル改造手術をするから、協力してくれるかな?」


「あら、ルシフルちゃんでもダメなのかしら?」


「うん。ルシフルでも多分破裂しちゃうと思う。だから、1番ステータスが近い母さんに頼みたいんだ。お願いできるかな?」


「ふふっ、可愛い娘の為だもの!断るわけないわよっ♪、、私と同じ、両腕・両脚で良いのかしら?」


「あ〜、どうしようかなぁ。今回はステータスの強化が目的じゃなくて、スキル状態異常無効を覚えさせたいだけなんだ。」


「それなら、右腕破壊したら治して鑑定。ダメだったら次は左腕破壊、、って感じで、1箇所ずつ破壊していけば良いんじゃないかしら?」


破壊って言うと物騒過ぎるんだけど!?まぁ、破壊で合ってはいるんだが、、。



「その案でいこうか。母さん、ハンマーは持って、、るね。まぁ知ってたよ。」


「うふふっ♪それじゃあ、いくわよーっ!!」


気合い充分!母さんはハンマーを手に大きく振り上げると、何の躊躇もなくルシフルの右腕に打ち下ろした。


ズドンッ!!!ビシャビシャビシャッ、、


鋭く暴力的な重低音が地面を揺らし、真っ赤な鮮血が飛び散る。


母さんが地面に食い込んだハンマーを持ち上げる。


、、うん。もうね、完全に千切れちゃってるね。


これ、右腕だけでも母さんよりMP使うんじゃないの?



俺は急いで自販機を出して、午前の紅茶レモンを10本買って並べた。


別にコーラじゃなくてもMP回復するのに気づいたからね!



さておき、早く治さないとな!!



最高・最大・究極の回復魔法、アルティメットヒールを使う。


これは母さんの時にも使ったのだが、何故か魔法リストに追加されなかった魔法だ。


追加されない理由は分からないが、フルケアヒールより遥かに強力なのは間違いので、使う事に迷いはない。



さあ、俺の魔力を喰らえっ!!


LvアップしてMP28600になったが、みるみるうちに0が近づいてくる。


やはり一気飲みして回復しないとダメか!?


俺がペットボトルに手をかけた瞬間、、



『ふっはっは!前より高純度の魔力になりやがったな!これなら充分だ。任せとけっ!!』


そんな声が頭に響いた。



そして始まる閃光の宴。あまりの眩しさに目を閉じるが、肌で感じる猛々しい熱気。気分が高揚する。


宴が終わり、ゆっくりと目を開くと、傷跡など微塵も無い美しい右腕がそこにあった。



、、まぁ、そうだろうとは思ってたよ。



ルシフルの髪は輝く銀髪に薄桃色を混ぜたような、透明感のあるピンクシルバー?とでも言えばいいのか。

とにかく美しい髪色になっていた。


顔も美少女から美幼女仕様になり、背も15cmほど縮んだね。


俺より5cmくらい高いから、まさに俺の姉ポジションをゲットしたと言っていいだろう。


マジ美幼女!!



、、なんて、見惚れてる場合じゃないよな。

まずは鑑定して、状態異常無効を覚えたかを確認しなきゃな!


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