第26話 理不尽




食後のティータイムを楽しんだ後は、魔の大森林での土木工事だ。



東京ドーム結界を解除して、ベリアルに魔の大森林までの道のりを確認する。



「この街道を進むと、3kmほど先で2つに別れます。左の道を7kmほど進めば、魔の大森林入口が見えてきますね。」


「ふむふむ。まぁ10kmくらいならすぐ着くね!サクラちゃん、疲れたら無理しないで言ってね?」


「うんっ!」


「よしっ、それじゃあ出発ーっ!」


「おーっ!!」」」」」



こうしてピクニックはスタートしたのだった。


、、そう、実はまだスタートしていなかったのだ。始まる前から休憩していたのだが、ママンさんに事情を説明したりしなきゃだったからね?


とっ、とにかく!ここからがピクニックの本番だよっ!!



と、心の中で誰かに言い訳する俺なのであった。




皆でのんびり、世間話をしながら街道を進んでいると、サクラちゃんが街道沿いの草原に何かを見つけて指を差した。



「あっ!あそこにピッグラビットがいるよーっ!」


うん、ウサギなのかブタなのか、、。


その正解を求めて、サクラちゃんが示す方に顔を向ける。



そこにいたのは、体長1.5mほどのまるまる太った耳の長い白ウサギであった。



「な、なぁんだ。デカいけどウサギじゃ、、なかったね、うん。」


白うさぎは、俺の声に反応してクルッとコチラを見つめた。


その鼻はまさにブタっ鼻!!


ピッグラビット、、ウサギでもなくブタでもない。混ぜちゃってるんだもん!!



え〜っ?これはちょっとショックだわ〜。


ウサ耳・ブタ鼻・ウサしっぽ、、この組み合わせはないわ〜。



「あらあら。サクラはピッグラビットのお肉が大好きだからねぇ。ワカバちゃんのアイテムBOXに入れといてもらえるかしら?」


「あ、うん。それは構わないんだけど、、美味いの?」


「ワカバお姉ちゃんっ!食べた事ないの!?」


「う、うん。」


「アレはね〜っ!!一度食べたら定期的に食べないと、手が震えたりイライラしたりするくらい美味しいんだよ〜〜っ!!?」


「うん、それ、、アウトだよね?ママンさん、ちょっと待ってね。」


俺は狩る準備をしているママンさんを止めて、ピッグラビットを鑑定してみる。



[鑑定っ!!]



ピッグラビット

種族 ピッグラビット

性別 ♂

LV 8

HP 146

MP 0

STR 39

DEF 51

ING 13

DEX 19

AGI 22


[スキル]

体当たり、ハイジャンプ(16cm)


[補足]

温厚。雑食。臆病であるが、死を悟ると全身にアルカロイドの一種であるニコチンを生成する。ピッグラビットのニコチンは特殊で、無味無臭であるが加熱すると肉に旨みを与える。しかし毒性が消える事はない。


中毒性有り。致死量:成人男性が1度に約500kg食すと死亡する。




ふむ。500kgを1度に食べるような人は滅多にいないだろうが、食用タバコみたいなもんだよな。


4歳の子に食べさせて良いものではないね!



俺はこの鑑定結果を地面に写し出して、皆に公開した。



「ええーっ!!?アレの肉が毒持ってたなんて、初めて知ったよーっ!!」


「料理好きのエチゴさんが知らないって事は、全員初耳って事だよね?」


「わ、私も初めて聞いたわ。あの美味しさの正体が、まさか毒だったなんてねぇ。エチゴっ!アンタ私に毒盛ってたんだねっ!!?」


「いっいやいやいや!!僕も知らなかったんだってば!!」


「ねぇワカバお姉ちゃん?ピッグラビットは食べたらダメなの?」


「う〜んとね?さっきサクラちゃんが言ってた、定期的に食べないと手が震えたりするってやつ。それはあの肉の毒による中毒発作なんだよ。ずっと食べてると、手の震えが酷くなって、足も震えるようになる。」


「あ、足も〜?」


「そう。手と足が震えても食べ続けると、今度はお尻まで震えてくる。お尻の次は頭。頭の次は体。体まできたら、、。」


ゴクリッ

「か、体まできたら〜、、?」


「全身が超震えまくってる変な人になっちゃうんだよーーっ!!!」


ビクッ!!

「ええーーっ!!?」


「サクラちゃんは、そんな変な人になりたい?」


「絶対やだ!!!」


「だよね?じゃあ、ピッグラビットを食べるのは止めようか?美味しいお弁当なら、好きなだけ食べさせてあげるから、、ね?」


「うん、分かったーっ♪」


「ふふっ良い子だね!よしよしっ♪」


サクラちゃんが良い子すぎて、思わず頭をナデナデしてしまった。



、、背伸びしないとナデナデ出来なかったのは内緒だ。



「ワカバちゃん、私にもお弁当食べさせてくれるかしら?」


「もちろんだよ。サクラちゃんにあげて、ママンさんにはあげないなんて、そんな酷い事するはずないでしょっ?」


「そ、そうよねっ!私はワカバちゃんを信じてたわーっ♡」


ママンさんは大喜びでスクワットバンザイしている。


それを見た母さんとエチゴさんも、お弁当食べ放題権を主張してきたが、こちらは一旦保留とさせてもらう。


この2人が毎食お弁当ってなると、必然的に俺までお弁当になってしまうからだ。


たくさん種類があるから、毎食違うお弁当を食べれば良いじゃん。と思うかもしれないが、手料理とお弁当はやっぱり違うよな。


週に1回くらいなら、お弁当デーがあっても良いけどね。



「まぁそんな訳で、ピッグラビットは俺の中で害獣指定されました!異議のある人は?」


「はっ!」


「おっ、ベリアル君。この魔王様の決定に逆らうとは、覚悟は決まってるんだろうね?」チラッ


ビクッ!!

「いっいえっ!!滅相もごさいませんっ!!」


ベリアルは俺の前に跪き頭を下げ、ポタッ、ポタッ、と冷や汗が地面にシミを作る。



ふむ。ちょっと冗談が過ぎたな。



「あ、、あ〜、ベリアル?今のは軽い冗談のつもりだったんだけどさ。そんなマジに受け取るとは思わなくて、、ごめんよ。」


「ま、魔王様。、、も、もちろん分かっていましたとも!だ、だから魔王様が謝る事など、一切ございません!」


ベリアルはスッと立ち上がり、俺に非はないと断言してくれた。


なんか、、超良い男だぞ!?俺が女だったら、確実に惚れちゃうレベルだぞ!!


現にママンさんが、うっとりした目でベリアルを見てるもん!!

これはもしかすると、もしかするのか?



「そ、それで、さっき言いたかった事を聞かせてくれる?」


「はっ!ピッグラビットは死を悟ると毒化しますが、魔王様やオカン様、私なら死んだ事すら気付かれずに倒せます。」


「ふむ。それなら毒化しないって言いたいのね?」


「はっ!」


「それはそうなんだけど、1つ忘れてるよ?その毒が加熱処理されて旨みになると。」


「あっ、そうでございました。それが無ければ、食べられるが普通の肉でございますね。」


「そっ。なら普通のポークで良いよね?」


「仰る通りにございます。浅慮な発言、お許し下さいませ。」


「別に構わないよっ♪これからも、言いたい事・伝えたい事はちゃんと言ってよね!」


「はっ!ありがとうございます。」


「、、という事で、他に無ければ始末しちゃうからね〜?」


皆の反応は『どうぞ?』で揃っていたので、ピッグラビットの駆除を始めたいと思います。



とは言っても、小石を当てるだけで爆散するから、一瞬で終わる作業なんだけども。


、、いや、待てよ?


まだ皆には、俺の相棒をお披露目してなかったな。

あの辛い肉無しサバイバルを共に切り抜けた、俺の相棒、、魔剣・ダーインスレイヴ。


お肉大好きだし、丁度いいかな!



俺はアイテムBOXからダーインスレイヴを取り出し、右肩に担いでポーズを決める。



「ワ、ワカバちゃん、、それって、魔剣、、よね?」


「おっ、さすが母さんっ♪よく分かったね?」


「そ、そうね。その禍々しさで分からない方が凄いと思うわ。」


「そ、、そか。」


どうやらチタマでは、魔剣はそんなに人気がないらしいね。とっても良い子なのに。



「ワカバお姉ちゃんっ!その大きな剣、カッコいいーっ♡」


「サクラちゃんには、この剣のカッコ良さが分かっちゃうみたいだね?これは俺の相棒、ダーインスレイヴ君だよっ♪」


「魔王様。私もサクラ様と同意見でございます。まさか、ダーインスレイヴを直に見られる時が来ようとは、夢にも思いませんでした。感動と興奮で、、て、手が震えてしまいます。」


「ふむ。ベリアルはダーインスレイヴを知ってるの?」


「はっ!知っているのは伝承でございますが、魔族ならばダーインスレイヴの伝承を知らない者はいないかと。」


「なるほど。、、ちなみに?」


「はっ!遥か昔、チタマ創世期にまで遡る話なのですが、初代魔王 ヘグニ様が所持していたとされております。」


と、ベリアルは魔族に伝わるダーインスレイヴの伝承を語り出した。




初代魔王 ヘグニはダーインスレイヴを片手に、戦場を駆けていた。


敵を斬って、斬って、斬って、斬って、、。


幾万の敵を斬り殺した。


血で血を洗うという言葉では足りないほど、激しい戦いの日々。


美しく輝く刃も、そんな日々を続けていれば傷んでくる。


ヘグニにとって大切な、唯一の愛剣。


手入れは欠かさず毎日行っているが、ある日おかしな点を見つける。


あれだけ美しかった刃に、幼子の握り拳ほどの赤褐色の染みが出来ているのだ。


いくら磨いても落ちる気配はない。


しかし、染みは残れど敵は待ってはくれない。


そのまま戦いに行くしかない。


染みに気づいた時は凄く気になっていたが、それも数日が過ぎれば慣れるというもの。


特に気にならなくなっていた。



数年後、いよいよ戦いも佳境に迫る。


さぁ今日も敵を斬りまくるぞ!と、ダーインスレイヴを手に取るが、そこでまたおかしな点に気づいた。


あれ?ダーインスレイヴの刃って、こんなに黒かったっけ?



拭いきれない違和感を抱えたまま、この日も戦場を駆ける。


だが、敵の将軍が一騎討ちを申し出てきた事により、ヘグニの違和感が正体を現す。



一騎討ちを受けたヘグニは、敵の将軍と向かい合い、数回の剣戟で互いの体には無数の切り傷が。


そして命運を別ける鍔迫り合いとなる。


敵の将軍から流れ落ちる血が、流れを止めた。


いや、流れの向きが変わった?


その血が行き着く先を見ると、ダーインスレイヴの刃があった。



ヘグニはようやく理解した。


ああ、お前の刃には幾万の敵の血が染みついていたんだな、、と。


その考えは半分間違っていた。


染みついていたのではない。


ダーインスレイヴは、斬り殺した敵の血を『吸って』いたのだ。


ヘグニがその事に気づいたのは、この一騎討ちの決着の時であった。


鍔迫り合いを制したヘグニは、敵の将軍を押し退けると袈裟に斬り裂いた。


噴き出る鮮血はダーインスレイヴの刃に吸い込まれ、敵の将軍の亡骸はみるみるうちに干からびた。



そしてヘグニは気付く。


ああ、俺もここまで、、か。



何故そう思ったのか。


敵の血だけでは足りなかったのか、ダーインスレイヴがヘグニの流す血までも吸い始めたからである。


剣を離そうにも、禍々しい闇の靄が持ち手を包み込んで離すことを許さない。



ヘグニは覚悟を決め、一騎討ちの場に居た部下に、最後の命令を下す。


俺が死んだら、この剣を俺ごとここに埋めよ!



部下たちはその命(めい)に従いダーインスレイヴを地中深くに埋め、そこに初代魔王 ヘグニの墓を建てた。



それから数百年後、事件は起こった。


ヘグニの墓石が縦真っ二つに斬られているではないか!


ダーインスレイヴを狙って墓荒らしか!?


いや、地面には掘り返した跡が全くない。


墓石が斬られただけか?


そう思った墓守りが墓石をどかすと、地面に縦長の穴が開いていた。


底の見えない、深い深い穴が。


まるで地中から何かが飛び出してきて、出口を塞いでいた墓石を下から斬り裂いたようだ。


まさか、、な。



結局、詳しい調査はされずに、墓石は新しくなり、今でもダーインスレイヴはヘグニと一緒に、地中深くで眠っている、、。




「、、という伝承でございます。」


「なるほど。、、ベリアル、1つ言っても良いかな?」


「はっ!何か気になる事でもございましたか?」


「えっとね。、、長すぎるよっ!!!俺の思ってた10倍の長さだったよ!!!」


「こ、これは申し訳ございませんでした。」



ベリアルはサッと頭を下げて謝りながらこう思った。



理不尽である。、、と。


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