第10話 本当に大丈夫?




ギルマスを正座待機させ、オカンさんに顔を向けた。


さぁ、何て言われるのかなぁ!



「ワカバちゃん。」


「はい。」ドキドキ


「あなたには、黒系より明るい色の方が似合うわっ!!」


「、、え?」


「『え?』じゃないわよっ!!ほらっ!持ってる服全部出しなさい!どうせアイテムBOXに山ほど入ってるんでしょっ!!?」


「わっ、分かりましたー、、?」


俺はオカンさんの勢いに負けて、アイテムBOXから100cm女の子用洋服セット[春]×99を取り出した。


応接室の中に所狭しと立ち並ぶ99体のマネキン達。



「まぁっ♪まぁまぁっ♪こっちの黄色のワンピースっ良いわ〜っ♪あっこっちのブラウスも素敵ーっ♪」


「、、ワカバ。こんなにあるなら、裸で買いに行くってのは、、


キッ!!!


ビクッ

「な、なんでもないです。ごめんなさい。」



オカンさんが色んな服を品定めしているなか、正座待機中のギルマスが余計なことを口走りそうになったので、殺気を込めたひと睨みで黙らせた。


すでに論破された君に、発言権はないのだよ、まったく!



「ふふっ♪このシャツとスカートを合わせたら、絶対ワカバちゃんに似合うわよーっ♡ほらほらっ、アンタは外で待ってなさいなっ!!」


オカンさんはギルマスの襟首を掴み、応接室の外にポイっと放り出した。


そして俺の服をパパッと脱がすと、自分が選び出した服をパパッと着せる。



「うんうんっ♪やっぱり明るい色の方が似合うわっ!」


「あ、あの〜、、オカンさん?」


俺が続きを口にする前に、優しく頭を撫でながら言葉を掛けてきたオカンさん。



「ふふっ♪ワカバちゃんがどんな過去をもっていても、これからは一緒に笑って、一緒に悩んで、一緒に幸せになりましょっ♪もう私達は家族なんだから、、ねっ?」


「は、、はいっ、お、、お母さんっ!」


「うふふっ♪ワカバちゃ〜んっ可愛すぎるわーっ♡」


俺をギュ〜っと抱きしめながら頬擦りしてくるオカンさん。



まさか異世界で家族と呼べる関係を作れるとは思ってなかったな。


これはこれで、、うん。悪くないね。



「それじゃあ、次に行こっか!あっその前に、服を片さなきゃね。」


「はいっ♪」


俺は立ち並ぶマネキン達を、ササっと一瞬でアイテムBOXに回収した。


ふむ。どうやら直接手を触れてなくても大丈夫らしいな。まぁその辺は、これから色々と試していくとしよう。



2人で手を繋ぎ応接室から出ると、扉の横で正座待機しているギルマスがいた。



「アンタ、そこで何してんのさ。」


「え、いや、ワカバの着替えが終わるのを待ってたんだが、、。」


「うわ〜、、まるで変態みたいね。ほらワカバちゃんっ、こんな変態は放っといて、次は美味しいケーキでも食べに行くわよーっ♪」


「おーっ♪」


「あっ、ちょっ待っ、、足っ足が痺れて、、



正座待機し続けたギルマスを放置して、冒険者ギルドを後にした俺たち。


次の目的地は、サイショノ街で1番人気だというオシャレナ・カフェだ。


そこで3時のおやつに美味しいケーキを堪能する予定である。



「ふふふっ♪」


「ん?どうかしました?」


2人で手を繋いで歩いていると、急にオカンさんが笑い出した。


何か面白いものでも見つけたのか、、まさか俺の服に値札タグが付きっぱなしだったり!?



「いえね?ずっと夢だったのよ。こうして娘と一緒に街を見て回ったりねっ♪ふふっ、これから楽しい事いーっぱいしましょうねーっ♪」


そう言うとオカンさんは俺を抱き上げ、クルクルと回り出す。


その顔は幸せに満ちていて、とても止めろとは言えなかった。

周りの通行人に俺の足が当たりまくっていたが、、。


爆散被害にならなかったのは、せめてもの救いだ。

やはり、俺が攻撃行動だと認識していなければ大丈夫みたいだな。




そんなこんなありながらも、オシャレナ・カフェに到着した俺たちは、テラス席に座りメニューを眺める。



「どうしようかな〜。アップルパイは昨日食べたし〜、、。あっ!好きなの頼んで良いからねっ♪」


「はいっ♪」


、、と言っても、俺は甘いもの苦手男子だったんだよなぁ。

甘さ控えめのケーキなんてあるのかな〜?



「おっ、これにしよっかな。」


「ふふふっ♪決まったかしら?」


「はいっ♪」


テーブルに置いてあったベルを鳴らし、店員さんを呼んだ。



「お待たせしましたー。ご注文をどうぞ?」


「私はプリンアラモードとピーチティーをホットでお願いね?」


「あ、俺はチーズケーキとホットコーヒーのブラックをお願いします。」


「、、、。」」


「ん?何か?」


「い、いえっ、失礼しました。ご注文を繰り返させて頂きます。プリンアラモードとホットピーチティー、チーズケーキとホットコーヒーをブラックで。以上でよろしいでしょうか?」


「え、ええ。お願いね。」


店員さんはペコリと頭を下げて去っていった。

そしてオカンさんが心配そうな顔で、こう聞いてきた。



「ワカバちゃん、大丈夫なの?店員さんも聞き間違えたんじゃないかって不安がってたわよ?」


「えっと?、、あ〜、チーズケーキですか?もっと甘いケーキじゃなくて大丈夫って事です?」


「いやいや。まぁ確かにそれもあるけど、その後のでケーキの事は吹っ飛んだわ。」


「その後、、あっ!ブラックコーヒーですか!」


「そうよ〜。私でさえ、砂糖とミルクを入れなきゃ飲めないのよ?」


「あははっ!大丈夫ですよ〜。コーヒーの香りと苦味。それと少しの酸味を舌の上で楽しむ。とても贅沢なひととき、、。」


「そ、、そう。ワカバちゃんが良いなら良かったわ。」


と、話したが、まさかチタマのコーヒーは苦さ5倍増しとかじゃないよな?


少し不安になってきたぞ?



「お待たせしましたー。こちらプリンアラモード、ホットピーチティーです。こちらチーズケーキと、ブラックコーヒーのホットですね。ごゆっくりどうぞー。」


「あはっ♪それじゃあ頂きましょうっ♪」


「頂きまぁすっ♪」


店員さんが運んできたのは、やはり日本でもお馴染みのチーズケーキとコーヒーであった。


まだ見た目だけの話だが、この見た目で食べたらショートケーキの味でした!、、なんて事はないだろ。


コーヒーも同様、飲んだらメロンソーダの味でしたー!って事はないはずだ。


しかし、忘れてはいけない。ここは異世界。現代日本ではあり得ない、魔法なんてものが実在している世界だ。


食べてみるまで、安心は出来ない。


、、いざっ!!



俺はフォークでチーズケーキを一口大にして、恐る恐る口に運んだ。



「ふあっ♪美味しい。チーズケーキだよ〜っ♪」


ということは、コーヒーも大丈夫だろう!


俺はカップを手に、まずは香りを楽しむ。


挽きたての香ばしいコーヒーの香りが、鼻腔を抜けていく。経験からして、これは美味しいやつだ。


期待を胸に、ズズッと口にした。


その瞬間!!俺の身体に電撃が走る!!


舌の味覚神経から本能を司る右脳へ。右脳からカップを持つ右手の筋肉細胞へ。


『これ以上カップを傾けてはいけない。』と電気信号を送ったのだ!


俺の右手は脳からの命令に従い、ピタッとその動きを止める。


左脳では緊急会議が行われている。

議題は『コーヒーはなぜ苦いのか』。


「やはり異世界産だからじゃね?」

「見た目・香りは地球と同じだが?」

「味だけ違うというのはないだろ。」

「違うものというと〜、、。」


「俺の身体だっ!!!」」」」


どうやら、会議の結果が出たようだ。


『5歳児の舌にブラックコーヒーなんて、虐待だぞ!!』


、、という事のようだ。


ふむ。虐待レベルなら、本能的に拒絶反応で動きが止まったのも頷けるな、うん。



しかし!!あれほど余裕かまして大丈夫と言ってしまった手前、引くに引けない状況であるのも確かだ。


仕方ないっ!99代目 魔王の底力を見せてやろうじゃあないかっ!!!



俺は目をカッと見開き、熱々のコーヒーを勢い良く口に流し込む!!


ゴッゴッゴッゴッと喉を鳴らし、一気にカップの中身を空にした。


ふぅ、、。飲み終わってみると、大した相手ではなかったな。まぁ、熱すぎて味どころの騒ぎじゃなかっただけなんだが。


俺は口内及び食道、胃から腸に至るまで、コーヒーでダメージを受けたであろう部分に意識を集中し、頭の中で『ヒール』と呟いた。


すると一瞬で火傷による痛みは嘘のように消え、健康そのものという状態に。


ふっふっふ!ブラックコーヒーを克服してやったぜ!



「ワ、ワカバちゃん?なんか今、体が光ってたように見えたんだけど。」


「え、ええ〜?き、気のせいじゃないですか?ほ、ほらっ陽の光がこうっ!ねっ!?」


「そ、そうかしら、、ね?ま、まぁいいわっ♪それより、コーヒーのおかわりは?」


なんとか誤魔化せたようだが、また光ったら流石に誤魔化すのは無理だろう。

残念だが、、本っっ当に残念であるが、コーヒーは止めておくとしよう。


5歳児らしい飲み物にしておくのが、賢い選択というものだ。



「え〜っと、オレンジジュースにしておこうかなぁ、、なんて。」チラッ


「ふふっ、分かったわっ♪」


何故コーヒーじゃなくてオレンジジュースなのかは聞かないでくれた。優しさだね。



「じゃあ、本屋さんで買い物してから帰りましょっか。」


「本屋さんですか?」


「そっ♪ワカバちゃんも読みたい本があったら言ってね?」


「はいっ♪」



食後のオレンジジュースを味わいつつ帰りの予定を立てて、さぁ行きますか!というところで、オシャレナ・カフェに招かれざる客がやって来た。


そいつはズカズカとテラス席の方に歩いてきて、俺とオカンさんの座る席の前で立ち止まる。



「やっと見つけたぞ!!ガハハっ!!」


「はぁ〜〜。ギルマス、なんか用なの?私たちはもう帰るところなんだけど。」


「ガッハッハ!ちょっとワカバの力を貸してもらえないかと思ってな!明日の作戦に同行してもらいたい。」


「はぁ?そんなのダメに決まってるでしょ!」


「明日の作戦の結果が、サイショノ街にどれだけ影響を与えるか、、オカンも分かっているだろう?」


「そりゃあ、、。でも、だからってワカバちゃんを巻き込むのはどうなのよ!」


やって来たギルマスとオカンさんとで口論が始まってしまった。


だが、再びの置いてけぼり感っ!!



本人を差し置いて話がどんどん進んでいるのは、当事者の俺としては看過できないし、したくない。


という事で、白熱しているところ悪いんだが、がっつり介入させていただきますよー!!



「マッチョさん。明日の作戦って何ですか?」


俺は思い切ってギルマスに声をかけた。


ギルマスの呼び方がマッチョに決まった瞬間であった、、。(別にどうでもいい)


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