第9話 服は良くても
さて、オカンさんのステータスを見せてもらった訳だが、これはなんてコメントをするのが正解なのだろうか。
案としては3つ。
①「いや〜、全然43kgには見えないっスよ!引き締まってるからっスね!」
②「水色も良いけど、オカンさんには黒!もしくは赤っ!この2択ですよっ!!」
③「オカンさん、アラサーだったんスね!スッゲー若く見えてたから、23くらいかと思ってましたよーっ!!」
、、てところだな。
う〜ん。女性に体重の話を振るのは、危険な香りがするな。①は止めておこう。
となると、②か?いやしかし、昨今のセクハラゲージは一瞬でメーター振り切る爆発力があると聞く。下着の話はアウトだろうな。
残すは③の歳の話か。まぁ本来なら女性に歳の話はマナー違反だと言われるだろうが、今回は別だ。だってステータスの名前の横に、普通に表示されちゃってるからな!
よし、③でいくぞ!!
「え、、え〜っと、オカンさんってアラサーだったんですね。」
「アラサーって何かしら?」
そこから説明が必要なんだな。サスイセだね。
「アラサーっていうのは、あらっ!気づいたらもうすぐ30歳!?私も歳とったわ〜。、、って人の事ですね。」
バキンッ!!
「ふ、ふぅんっ!!?私をオバさんだって言いたいのかしらっ!!?」
オカンさんは応接室のテーブルを叩き割った。
「いっ、いやいやいや!逆です逆っ!!28には見えないって言いたかったんですよっ!!」
慌ててコメントの続きを口にしたが、オカンさんは疑惑の眼差しを向けてくる。
「ほ、本当ですって!23くらいかと思ってたんですからーっ!!」チラッ
「えっ、23だなんてっ♪いくらなんでも、それは言い過ぎよ〜っ♪」
ふむ。どうやら山は越えたようだな。
「それでね、ワカバちゃん。」
「はい、何でしょうか?」
「どうして私の歳を知ってるのかしら?」
「え?だってオカンさんが鑑定して良いって言ったから、、??」
「、、ワカバちゃんの鑑定には、歳まで表示されるのね?他には?」
「あ、えっと、身長・体重と水色のセット下着って、、。」
「そ、、そう。他は?」
「え〜っと、スリーサイズは鑑定Lv15までお楽しみにって。」
「ワカバちゃんの言ってた意味がよく分かったわ。そうね、、プライバシーの侵害よね。」
オカンさんは両手で顔を隠しながら言った。
耳まで真っ赤になっているのを見るに、よほど恥ずかしいんだろう。
落ち着くまで待ってあげるとしよう。
「もう大丈夫よ、ありがとう。」
「いえいえ!」
5分ほどで正気を取り戻したオカンさんは、鑑定について話し始めた。
「鑑定Lv1で見えるのは、名前・種族・性別・能力値までなの。Lv3でスキル、Lv4でパッシブスキル、Lv5で魔法までね。」
「なるほど。じゃあLv6以降はどうなんですか?」
「Lv6からは犯罪歴が見えたり、隠蔽を見破ったり出来るそうね。隠蔽Lvが高い奴なんて、クラスが隠密とかアサシンの奴らだから、ギルドの鑑定水晶はLv10あれば充分なのよ。」
「ふむふむ。」
「でね?普通は歳とか身長とか体重とか、その、、し、下着の色なんて分からないのよ。」
「ふむ。その原因が知りたいと?」
「ええ、そうね。何か心当たりが?」
う〜む。多分だけど、俺の異常なINGが原因なんじゃないかなぁ?
キュアを遥かに超える回復効果も、巨大隕石を発生させたのも、チタマ常識では考えられないINGが原因、、だと思う。
もし俺が一般的なINGで鑑定Lv5を使ったとしたら、おそらくオカンさんが言った効果にとどまったのだろう。
だがそれを素直に伝えても大丈夫なのだろうか。
実験サンプルとして何処かに幽閉されちゃったりするのだろうか。
俺が返事に困っていると、応接室の扉が勢いよく開かれた。
「おおう、オカンよ!久しいじゃないか!!」
「やっと来たわね、ギルマス。」
「ガッハッハ!悪い悪い。明日の作戦の事で、ちょっとした会議をしてたんでな!それより、、その子が?」
「そうよ。エド家の、奇跡の天使様っ!超絶カワイイっワカバちゃんよーっ♡」
「ふ〜む!確かに天使様と言われても納得の可愛さではあるな!!初めまして、天使様。わしは冒険者ギルド・サイショノ支部ギルドマスター、、兼、サイショノ町長をしている、ギルマッチョだ。」
「あ、初めまして。ワカバです。よろしくです。」
と、簡単に挨拶をした。天使どころか魔王ですけど〜っとは言わなかったが。
しかしなるほど。ギルマスが町長だったのね。
名前負けしない、ガチムチ具合ですこと、、。
なんて思いつつ、皆がソファーに腰掛けたところで、本題である俺のステータスについての話が始まったのであった。
「あ〜、、こりゃ凄い数値だなぁ。わしでも瞬殺されちまうぞ?ガッハッハ!!」チラッ
「私もビックリしたわよ。それにアイテムBOXなんて、渡り人(わたりびと)か使徒様か、九死に一生を得た人が覚醒するくらいしか聞いた事ないわよね。」チラッ
コクコクッチラッ
ギルマスとオカンさんがチラ見してくるなか、受付お姉さんもうなづきながらチラ見してくる。
だが、3人からのチラ見攻撃に対応するには、いささか情報不足である。
下手な事を口走る前に、まずは情報収集しなくてはなっ!
「あの〜、渡り人とか使徒様っていうのは何ですか?」
「ガハハッ!ワカバくらいの歳の子じゃ、知らないのも当たり前だな!渡り人ってのは、なんの因果か、チタマとは別の世界、、いわゆる異世界ってやつだな。その異世界からチタマに来てしまった奴らの事だ。」
「奴らって、、そんなに沢山いるんですか?」
「沢山って言っても、10〜20年に1人確認されるくらいか。渡り人は98%の確率で冒険者になるんだ。原住民のわしらからしたら、管理しやすくなるから助かるんだがな?ガハハッ!!」
「なるほど。でも、どうやって渡り人だと判断するんですか?」
「ん?そんなの簡単だぞ?クラスが『渡り人』だからな。」
「そ、、そですか。」
「渡り人の特長としては、アイテムBOX持ち・異常な能力値・チート?と呼ばれるスキルや魔法を一つ持っている事です。例えば剣技Lv99とかですね。」チラッ
受付お姉さんから再びのチラ見を頂きましたが、クラスがロリ剣聖の時点で、俺=渡り人の説は証明出来ませんよって話だ。
さて、次は使徒様についての情報が欲しいね。
おそらくだが、俺の現状はコレに当てはまるか、当たらずとも遠からずってとこのような気がするんだよなぁ、、。
「使徒様っていうのも、渡り人と似たようなものよ。違う部分といえば、神様に会って直接力をもらっているって事かしらね?」
「そうだな。渡り人は世界を移動する時に、何らかのエネルギーがどうのとかで〜、、まぁ未だに解明されてない現象のおかげで力を得るらしいな。」
「ふむふむ。じゃあ使徒様もクラスが『使徒』になってたりするんですか?」
「いやいや。使徒様のクラスはバラバラだな。勇者だったり聖女だったり、、中には『剣聖』も居たって聞くな〜?」チラッ
「な、なるほど。」
今度はギルマスから再チラ見だ。
しかし、使徒の発見方法が分からないと、どうしようもないしな。
「、、なんてな!ワカバのスキルには神の加護が無いから、使徒様じゃないってのは分かってたんだ!ガッハッハ!!」
「、、神の加護?」
「ええ。神が力を与える時に、自分の加護も一緒に与えるそうです。例えば火の神に力を貰った場合は、パッシブスキル『火神の加護』が。神によって加護の効果に多少の違いがあるようですが、状態異常無効・異世界語翻訳は共通みたいですね。」
「なるほど〜。という事は、残った可能性は〜、、。」
「そうね。ワカバちゃんが死と隣り合わせの過酷な状況に置かれていた、、という事になるわ。」チラッ
オカンさんから再びのチラ見であるが、、。
実際、中身が飛び散っ、、ゴフンゴフン!九死に一生を得たというのは全否定出来ないね、うん。
まぁこれ以上詮索されるのも面倒だし、この説に乗っかるとしようかな。
「じ、実は、俺の家は凄く貧乏で、ご飯も3日に1度豆を数粒食べられればマシな方で。でもある日気づいたんです。森の中には、食べ物が沢山あると!」
「、、、。」」」
3人とも、食い入るように俺の話を聞いている。
その様子を確認しながら、地雷を踏まないように話を続ける。
「それを両親に伝えると、家族総出で狩りに行く事になりまして。木の棒を握り締め、皆で獣をめった打ちにする日々が続きました。しかし、父がやられ、、次に母が、、。残るは俺だけとなった時、自分の内側から何かが解き放たれたのが分かりました。」チラッ
「ふ〜む。おそらく、その時にワカバは覚醒したんだろうな。」
「きっとそうね。ワカバちゃん、辛かったね。私がワカバちゃんのママになるから。たくさん甘えてね?」
オカンさんは俺をギュッと抱きしめ、頭を撫でながら優しくそう言ってくれた。
こんなにも真正面から受け止めてもらえると、俺の良心が抉(えぐ)られるんだが、、。
しかし、『俺のステータス異常じゃね?問題』も片付くんだから、まぁ良しとしておこう。
「さて、、それで、だ。ワカバは冒険者に興味があるって事で間違いはないか?」
「え、、はい、間違いないです。」
「分かった!じゃあ特例として、ワカバを、、
「ダメよっ!!絶対ダメっ!!!ダメったらダメよーーっ!!!」ギューーッ!!
ギルマスの言葉を抑え込むように、オカンさんはダメを叫ぶ。
その腕にも力が入り、抱かれたままの俺を強く締め付ける。
下手に抵抗するとオカンさんが爆発してしまう危険がある為、俺は黙って柔らかなポヨンを満喫するとしよう。
「いや、そうは言ってもだなぁ。本人の希望ってのも聞いてやるべきだろう?」
「、、別に冒険者になるなって言うつもりじゃないの。でも、少しくらい子供らしい生活をさせてあげたって良いじゃない。」
「あ〜、、なら、ワカバは冒険者になりたい時になれるって事でどうだ?」
「それなら、まぁ、、。」
「よし。、、本部に伝えておいてくれ。」
「かしこまりました。」
受付お姉さんは俺のステータスの紙を手に、応接室から出て行った。
何やら置いてけぼり感がすごいが、どうやら俺は、いつでも冒険者になれる資格を得たらしい。
なんか良い方向に話が進みすぎてる気もするが、変な方向に進むよりはずっといいよね!
と、自分に言い聞かせていると、オカンさんとギルマスが揃ってため息を吐く。
「はぁ〜〜。さて、茶番は終わりだ。ワカバ、本当の事を話す気はないか?」
「えっ!?ほ、本当の事!?」
「あのなぁ〜?そんな立派な服や靴を身につけてて、凄く貧乏だって!?そこらの貴族よりも良い服だぞ、それ!」
ふむ。これはミスったな。しかし、日本にはこんな言葉があるのですよ。
『武士は食わねど高楊枝』ってね。
凄く貧乏でも身嗜みを整えてる人だっているかもしれないじゃないかっ!!
今から別の設定を考えるのも面倒だ!!
このまま押し通す!!
「いえいえ。この服が仮に高い物だとして、それを売ってしまったら俺は全裸ですよ!?ギルマスは俺に全裸で生きていけとっ!!?」
「い、いやいやいや。そうは言ってないだろう?その服を売った金で安い服を買えば良いだけ、、
「だからっ!!安い服を買うにしてもっ!!全裸で買いに行く事になるでしょうがーっ!!高い服を買い取ってくれる店に安い服なんて売ってるわけないのです。逆に、安い服を売ってる店でそんな高い服を買い取ってくれるはずないのです。オーケーっ!!?」
「は、はい。ごめんなさい。」
何故か床に正座してるが、ギルマスは説き伏せたぞ!
さぁ次はオカンさんの意見を聞かせてもらうとしましょうか!
俺は、何て言われるのか少しドキドキしながら、オカンさんの言葉を待つのであった、、。
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