第11話 話せる境界線




現在、オシャレナ・カフェのテラス席にて、怪しいガチムチマッチョなおじさんに絡まれております。



「明日の作戦ってのは、ここで話せることじゃねえんだ。ギルドまで来てもらう必要がある。」


「なるほど。じゃあオカンさん。」チラッ


「ええ、そうね。」チラッ


「おぉ、じゃあ!?」


「帰るわよ!」ましょう!」


「えっ!ちょっ待っ、あっ足!足がっ!!」


マッチョをその場に置いて、俺とオカンさんは席を立つ。そしてお会計を済ませ、オシャレナ・カフェを後にした。


実はさっきの会話をしている間に、マッチョの足に超重力の魔法をかけておいたのだ。もちろんオカンさんにはアイコンタクトで報告済み。


ヒールの時に判明したのだが、どうやら俺は、わざわざ魔法名を口にしなくとも、頭の中でイメージと一緒に強く思えば発動出来るようだな。


まぁこれも色々と試してみないと分からないが。


ともあれ、マッチョの爪先から足首までの重さを片方5t(トン)ずつ計10t(トン)にしてやったのだから、いくら異世界ガチムチ野郎でもそう簡単には動けないだろ。


テラスのウッドデッキ、ビキビキ悲鳴を上げてたし、、。


と、ともかく!協力してもらいたいなら、誠意をもって行動すべし!勝手に話を進めるなんて、ダメ!絶対!!

この後、己が壊すであろうウッドデッキの弁償をもって、その罪を償うといいだろう。


ふっふっふ!と、悪い顔でニヤリとしながら歩いていると、不意にオカンさんから声が掛かる。



「ねぇ、ワカバちゃん。さっきのは魔法、、よね?」


「えっと、、はい、そうです。」


もう今さら隠し通すのも無理があると思い、認める事にした。

俺を家族とまで言ってくれたんだ。魔族で魔王ってのを除けば、後は受け入れてくれる、、と思う。



「ふぅん。あれは何て言う魔法だったのかしら?靴の裏に接着剤を付ける魔法?」


「いえいえ。接着剤だと、靴を脱がれたら意味ないですよね?」


「そうよね〜。、、正解は?」


「簡単な話ですよ。足をめちゃくちゃ重くしてやったんですっ♪両足合わせて10000kgにしてやりました!」


「い、10000、、ぷっ!あっはっは!!だからウッドデッキにヒビ入ってたのねーっ!?あはははっ!!はぁ〜おかしっ♪そりゃ、足っ足って叫んじゃうわっ!突然重すぎて動かせなくなったらねぇっ♪」


「ふふっ♪帰ったらオカンさんにも教えますね!」


「あら、良いの?でも私のMPとINGで使えるかしら。」


「え〜っと、ちょっと待って下さいね?」


ステータスを確認してみると、魔法に『グラビティ 5t』が追加されていた。


よしよし。これの詳細を見れば、消費MPとか載ってるだろ?と、意識をそこへ向けた。



[グラビティ 5t]

グラビティシリーズの5tバージョン。

対象の部位に5tの重力をかける。

持続時間24時間。

消費MP:555 ING:555 魔力操作Lv5



ふむふむ。グラビティ『シリーズ』ってなってるという事は、100kgくらいもありそうだな。オカンさんの能力値だと5t ver.は使えないが、100kgがあればイケそうだ!


それにしても、、俺の魔力操作だとLvが足りないはずなんだが?


、、まさかっ!?


心当たりがあるとすれば、これだろう!



[隠蔽 Lv16]

・<ON>使用者のステータス情報を隠し、偽(いつわ)りの情報に置き換える事が出来る。

鑑定Lv99まで対応可能。

※Lv10を超えた時点で、毎分MP1を消費し鑑定無効となる。

・<OFF>気配を隠し、気付かれにくくする。

索敵Lv16まで対応可能。



ふむ。隠蔽は解除しない限りLv上がり続けるみたいね。毎分MP1消費する代わりに鑑定無効というのは、素晴らしい効果だと思う。俺のMP自然回復が毎秒9だから、消費されてたのに気づかなかったよ。


んで、魔力使い続けてたんだから、魔力操作Lvも上がってるって事ね?



確認してみたところ、魔力操作Lvは7に上がっていた。



「ワカバちゃん、どうだったかしら?」


「あっ、とりあえず俺が使ったやつの弱い版なら大丈夫そうです。まだ5t ver.しかないから、少し待って下さい。抱っこしてくれたら、帰るまでに何とかなります!」


「まぁっ♪それじゃあ、楽しみにしてるわねっ♡」


オカンさんの問いにそう答えると、ヒョイっと抱き上げられ、お姫様抱っこ状態になってしまった。


これは恥ずかしい!!


早急に対処しなくてはなっ!!



俺は街中にある、重くなっても被害が出ないであろう物に、手当たり次第にグラビティを発動していく。


道端の雑草を1tにしてみたり、誰かが落としたハンカチを800kgにしてみたり、2階に干してあったパンティを500kgにしてみたり。

あ、パンティは失敗だったな。洗濯バサミから外れて、地面に突き刺さってしまった。


ま、まぁ多少の被害は出たものの、100kg刻みでグラビティを使いまくり、グラビティシリーズの5t以下はコンプ出来たと思われる。


試しにグラビティ100kgの詳細を確認してみたところ、消費MP10 ING10 魔力操作Lv1であった。


これなら普段使いするにしても良いコスパである。

オカンさんに自信を持ってオススメしよう!



「オカンさん、出来ましたよ!」


「えっ!?もう出来たの!?まだ5分も経ってないと思うんだけど、、。」


「い、いや、今回のはベースになる魔法を覚えてたし、その効果を微調整しただけですから!」


「ふふっ冗談よ♪じゃあ、家の手前にある公園で教えてもらえる?」


「はいっ♪あ、でも、本屋さんはどうしましょう。」


「本屋さんに行く必要はなくなったわ?本当はワカバちゃんに魔法書を買ってあげるつもりだったんだけど、そんなの無くても大丈夫そうだもんねっ?」


「あ、あはは。なんかすみません。」


「別に良いわよーっ♪その分ワカバちゃんと触れ合う時間が増えたんだものっ♡」


ご機嫌なオカンさんは、俺をお姫様抱っこしたまま軽やかにスキップで公園へ向かった。


お姫様抱っこ解除の為に急いだんだが、無駄になってしまったな。


ま、まぁ、、こんなに喜んでくれるなら、多少の恥ずかしさくらい我慢するとしよう。


だが!ただ我慢しているだけで終わる男だと思われては困る。、、今は女だけど。


と、とにかく!少しでも早く、この辱(はずかし)めタイムを短くする方法を試させていただくとしよう。


そうさな〜、、あっ!アレなんかいけそうじゃないか?


重く出来るって事は、その逆、、軽くする事も出来るはずだ!


軽くなればその分、前に進む力の影響が強くなる。という事は、スピードアップで目的地に早く着くという訳だ。



イメージを膨らませ、俺とオカンさんが反重力により現体重の1/10になるように。


魔法名は『アンチグラビティ』かな。

『レビテーション』だと浮いちゃうかもだし、、。


よし、いくぞっ!!



[アンチグラビティッ!!]


俺が頭の中でそう唱えた瞬間、街が消えた、、。



「キャーーーーッ!!!!!」


「あ、そういう事か。」


「ちょっ、ワカバちゃんっ!?何が起こってるのーーっ!!?」


「えへへ。ちょっと俺とオカンさんの重さを1/10にしましたーっ♪スキップしてたから、高さ30mくらいまで跳び上がっちゃいましたね。」


「そっ、そんな事よりっ!地面っ地面がっ!!」


「大丈夫ですよ。さっきまでと同じ感じでスキップして下さい!」


「ああーっもうっ!どうなっても知らないわよーーっ!!!」


ダッバビュンッ!!


「あははっ♪オカンさんっ凄く速いですっ♪」


「ほ、本当に大丈夫だったわ。、、ふ、あははっ!凄い凄ーいっ!!こんなに速く高く動けるなんてっ♪楽しいわーっ♪」


「はいっ♪最高ですーっ!ヤッホーーィ!!」


2人ではしゃぎながら、サイショノ街中を高速移動する。


一般人には視認出来ない速さなので、突風が吹き抜けたとでも勝手に思ってくれるだろう。



テンションアゲアゲで楽しんでいたのだが、楽しい時間というのは早く感じるもの。


あっという間に、夕焼け空になっていた。



「あら〜、そろそろ帰らないとだわ〜。」


「そうですね〜。ここが何処かも分からないですし、、。」


「そ、そうね。少しはしゃぎ過ぎたわ、ごめんなさいね。」


そう。現在、迷子中なのである。


サイショノ街なんて、3スキップ目で出てましたからね。

そこからは気の向くまま、あっち行ったりそっち行ったり、グルングルン20回転宙返りしたりしながら進んだ結果、現在地が分からない状態になってしまったのだ。


お日様が沈むのを見て方角は分かる。、、分かるのだが!!

現在地が分からないと、街が西にあるのか東にあるのか、はたまた北か、もしくは南か、、。


分からないのである。


体感的には2時間ほど遊んでいただろう。


そしてこちらも体感的なのだが、最高速度800km/h ほどだと思われる。


という事は、最長で街から1600kmの地点にいるという事になる。


まぁ一直線に進んで来た訳でもなく、800km/h を維持したままという訳でもないので、おそらく街から1000km圏内には居ると思う。、、思いたい!


とりあえず、動くのは明日の朝からだな。



「オカンさん、近くで野営出来そうな場所を探しましょうか。」


「それもそうね。日が完全に沈む前に、良さそうな場所があれば良いんだけど。」


今いるのは背丈2mほどの草が生え揃った草原の中なので、いつ敵に襲われるか分からない。

それに、焚き火なんてしたら自分達まで丸焼けになってしまうだろう。


野営には向いていないと言わざるを得ないな。


見晴らしがよく、出来れば水場が近くにあって、焚き木もあれば文句なしなんだが、、。



あ、ちょっと思いついたぞ!



「オカンさん!ちょっと抱っこしたままでいて下さいね!?」


「ええ、分かったわ!今度はどんな魔法を見せてくれるのかしら〜っ♪」


やはりクラスがソーサラーなだけあり、俺が常識はずれの魔法を使ってもすぐに受け入れてくれる。むしろ楽しんでくれている。


それなら、その期待に応えるのが漢(おとこ)ってもんです!!、、体は女だけど、心はって意味ね!!



「じゃあ、、『1/10スケール 東京ドーム』っ!!!」


俺がそう叫ぶと、フッと景色が一変した。



「やっぱり俺が居るところがピッチャーマウンドになるんだな。なんか小さいけども。」


「ワ、ワカバちゃん。これは?」キョロキョロ、、


「ふっふっふ!これはね、、野営用の結界魔法だよーっ!!」


「ええーっ!?だ、だって周りに観客席みたいなのがあるわよ!?まるで闘技場みたいな作りだわ!」


「あ〜、モデルにしたのはそれに近い建物で、球技やったり陸上競技やったり、コンサートやったりもしますね。」


「ねぇ、ワカバちゃん。、、いえ。やっぱりいいわ。でも、話せる時がきたら聞かせてね?」


少し寂しそうな顔で微笑むオカンさん。


ふむ。そんな顔しなくても、街を出る前に決めてたからな!か、、家族なんだから。



「オカンさん、驚かないで下さいね?これが俺の本当のステータスなんですっ!!」


俺はバッとバックスクリーンを指差し、オカンさんは追うように視線をバックスクリーンへと向ける。


そこに写し出されていたのは、隠蔽を解除した俺のステータスであった。


ここは俺の魔力で構成されているんだから、魔力操作Lvが上がった今なら、バックスクリーンに自分のステータスを写し出すくらい余裕っしょ!!




ワカバ・アサヒ(5)

種族 魔族

性別 ♀

クラス 99代目 魔王

LV 6

HP 8260

MP 10104

STR 6837

DEF 3652

ING 9971

DEX 4510

AGI 6822


[スキル]

鑑定Lv5、隠蔽Lv17

アイテムBOX


[パッシブスキル]

身体強化Lv99、剣技Lv99

無詠唱魔法、全属性魔法、魔力操作Lv8


[魔法]

ヒール、ロック・スター、フレア・バースト、東京ドーム、1/10スケール東京ドーム

グラビティ 100k〜5t

アンチグラビティ 1/10

ラストブリザード、カースメテオ、エターナルエンド


[補足]

更新中…




「、、、。」


オカンさんは口元を手で覆い隠すようにして固まってしまった。


まぁ無理もない。隠蔽で約1/10程度にしたステータスでさえ固まっていたんだ。

その10倍のステータスを見せられたら、固まるのは必然である。


オカンさんが落ち着くまで、少し待つとしよう。


あっ、その間に確認したい事もあったんだった。



「オカンさん。ちょっとドームの作りを確認してくるから、落ち着くまでゆっくりしてて下さい。」


コクコクコクッ

「、、、。」



変わらず言葉は出てこないようだが、頭を振って反応してくれたので、通常営業になるのもそう時間はかからないだろう。



俺はピッチャーマウンドにオカンさんを置いて、三塁側ベンチから奥へと入っていった。



「ワ、ワカバちゃんが、、魔王?」


と呟く声は、俺に届く事はなかったのであった、、。


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