第6話 エチゴ屋にて




「おっ!ほら、ワカバちゃん。サイショノ街が見えてきたよ。」


エチゴさんは、御者席で隣に座る俺に街を指差しながら声を掛けてくれる。


その指の先に目をやると、高い建物でも2階建てという、建築法で高さ制限でもされてるのか?と思いたくなる街並みが見えた。


現在地より若干低い場所にあるようで、見下ろすかたちになっているお陰で、街の全体像が手に取るように分かるという。



ふむ。とても攻めやすい街となっておりますな。

まぁ、サイショノ街という名前からして、周辺には雑魚モンスターしかいないのだろうが。


あ、でも、盗賊達からしたら、狙い目な感じじゃね!?


そう思い、エチゴさんに聞いてみる。



「エチゴさん、サイショノ街って盗賊達から襲撃されたりしないんですか?」


「はっはっは!確かに、ここから街が丸見えだから、襲撃計画もたてやすいね!と思ったんでしょう?」


「えっと、まぁそんな感じです。」


「ワカバちゃんはセンスが良いね!その通りだよーっ♪」


と、サイショノ街で起こりうる問題を俺が言い当てたのが嬉しかったのか、明るく笑いながら答えるエチゴさん。



いやいやいや!襲われるんじゃダメでしょ!!



「でもね?なんの問題もないのが、サイショノ街の凄いところなんだよ。」


「どうしてですか?」


「あの街に住んでいるのは、元冒険者だったり元騎士団だったりで、約8000人の住民が戦う術をもっているんだ。そこいらの盗賊団なんか、あっという間に鎮圧されて賞金に早変わりって訳さっ♪」


、、ちょっとした軍隊ですな。



「な、なるほど。」


「どういう訳か、サイショノ街から冒険者になる人が多くてね。引退後に戻ってくる人が結構いるんだよ。しかも、高ランクまで上がった冒険者の戻ってくる率が高いんだ。」


「やっぱり、自分が旅立つ時に世話になったから、その恩を返したいって思うんでしょうね〜。」


「そうかもしれないね!実際、僕ら夫婦もそのつもりで帰ってきたからね。」



サイショノ街情報を聞いて思った。

俺もこの街で、冒険者としてのイロハを学び、ゆくゆくは冒険者になるのもアリだと。


そうすれば、金を稼ぎながら色んな場所に行って、魔族の仲間探しも出来るからな!


うん、そうしよう!!



この後もサイショノ街周辺の情報や、美味しい料理屋情報などを聞いたりした。


そうこうしている内に馬車は、サイショノ街の入口付近まで進み、門が近づいてきた。

一応、街の外周には丸太で作られた、高さ3mの柵があり、普通に出入りするには門を通らなければいけないようになっている。


さらに門の側には見張り番の男性が2人立っており、魔物や不審者が入るのを防ぐのだろう。



「やぁ、お疲れ様〜。」


「あっエチゴさん!おかえりなさい。、、そちらの子は?」


「ちょっと色々あってね。ワカバちゃんだ。まだどうなるか分からないんだけど、しばらくウチで預かる事になると思う。よろしく頼むよ。」


「わ、ワカバです!よろしくお願いしますっ!」


「ワカバちゃんかっ♪サイショノ街へようこそ!詳しい事情は後日改めて聞かせてもらうかもしれないけど、、良いかな?」


「は、はい。でも、あんまり話せないかもです。、、き、記憶喪失なので!」


「、、、ふふっ、、あっはっは!記憶喪失かぁっ♪それじゃあ仕方ないね!じゃあ、今日からここがワカバちゃんの故郷で、皆が家族だ!それなら寂しくないでしょっ♪」


「あ、ありがとうございますっ♪」


記憶喪失で押し通すつもりだったのだが、門番の男性が優しい提案をしてくれた。



「後で、町長に挨拶に行くって伝えといて。それじゃあ、ウチに向かうよ。」


「はいっ!」


門番の男性に頭を下げると、「またねー♪」と手を振りながら見送ってくれた。



さて、サイショノ街に入る事が出来ましたが、エチゴさんに確認しておかなければならない事があります!



「あ、あの〜、、エチゴさん?俺をしばらく預かるっていうのは、、。」


「ワカバちゃんにはまだ聞いてなかったね、ゴメンよ。ワカバちゃんさえ良かったら、うちで一緒に暮らさないかなと思ってね。」


エチゴさんはそう口にすると、目的地に到着するまでの間、今後についての話をした。

俺が冒険者になろうとしてる事も話したが、正式に冒険者登録するには15歳にならないとダメらしい。15歳というのはチタマでの成人年齢だそうだ。


んじゃ、正式じゃない場合もあるの?という事であるが、7〜10歳で子冒険者、11〜14歳で見習い冒険者というのになれるらしい。


子や見習いは街中での依頼しか受けられず、依頼内容も掃除だったり買い物だったりと、簡単で安全なものであり、報酬も平均5大銀貨(日本円にして約5000円)という。


要は、孤児達の救済措置だ。


金を稼ぐ方法があれば孤児達も悪い事をしないし、大きくなる頃にはちゃんとした冒険者になっているだろう。



ふむ。ステータスの名前の横に(5)と付いてるのは、きっと年齢だと思うから、どうやら今の俺は5歳という事だが、、子冒険者にさえなれなくねっ!?


強引に、小柄な7歳と言い張れば通るかもしれんが、よくある異世界ものを思い返すと、恐らくチタマにもあるんだろうね?


冒険者登録時のステータス鑑定水晶みたいのが。



、、あれ?そう考えると、そもそも登録出来ないんじゃないの?


だって俺、『魔族』だぞ?


ま、まぁこの辺の問題は、これから考えるとしよう、うん。

もしかしたら、絶滅危惧種だからってめちゃくちゃ歓待してくれるかもだし。



後は、もし一緒に暮らすなら、店番のお手伝いをしてほしいと。

こんなに可愛い看板娘がいたら、大繁盛間違いなしっ!!なんて言われちゃ、断れませんよ。


ちゃんとお給金もくれるって事なので、それを貯金しておけば、旅立つ時に役立つだろう。



さておき、どうやら目的地である『エチゴ屋』に到着したようである。

サイショノ街中心部にほど近い、商店街の一角に店を構えていた。立地としては申し分ないと思う。


木造2階建ての建物で、1階が店舗、2階が住居という、良くある様式の建造物である。



店頭に馬車を停め、エチゴさんは店の中へ。

嫁さんを呼んでくるからワカバちゃんはちょっと待っててね。と言われたので、俺は御者席にて待機中。、、なのだが!



じ〜〜〜〜っ、、


「、、、。」チラッ


じ〜〜〜〜〜〜っ、、



さっきから、俺を見つめまくっている子供がいる気がするんだよなぁ。


ガキの相手はぶっちゃけめんどくさいので、あえて気づいていない体(てい)をとっているのだが、、。


どうやら、相手しないと終わらないようだ。


既に御者席にまで乗り込んできてるからね!


もっと言うと、俺の膝の上に座ってるからねっ!?



「え、、えっと、どうしたのかなぁ?」


「あっ!やっと気付いたっ♪私はね〜っ、サクラっていうの!あなたは〜っ?」


「お、俺はワカバだよ。」


「ふ〜ん?すっごく可愛いに、男の子なの〜?」


「あ〜、えっと、、女だけど、男だったり?」


「ふふっよく分かんな〜いっ♪」


「そ、、そだね。俺もよく分かってないからね。」


と、俺の膝の上でキャッキャとはしゃぐサクラであるが、明らかに今の俺より年上だろう体格なんだよ。


多分7歳くらいだと思うんだが。



「ねぇ、ワカバちゃんは何歳なの〜?私はね〜っ、昨日4歳になったの〜っ♪」


「えぇっ!!?」


「ん?」


「あ、い、、いや、なんでもないよ。俺は5歳になったばかり、、だよ?」


「そうなんだ〜っ♪じゃあワカバお姉ちゃんだねーっ!」


「そ、、そだね、ははっ、、。」



俺から聞く前に、サクラの方から聞いてきてくれて有難かったのだが、身長約20cmほど大きい子が、1歳年下とかっ!!


今の俺は、日本の5歳女児だったら平均的な身長だと思ったのだが、ここは異世界!

どうやら俺は、かなり小柄な部類に入るみたいだな。



「ね、ねぇサクラちゃん?」


「ん〜?」


「サクラちゃんのお友達も、皆デカ、、こほん。サクラちゃんと同じくらいの背なのかな?」


「うんっ♪私が1番だけど、皆同じくらいだよ〜?」


「そ、、そか。」


やはり俺はちびっ子なんだな。と思ったのたが、サクラは続けてこう言った。



「皆ワカバお姉ちゃんくらいかなぁ。ワカバお姉ちゃんだって私と同じくらいだもんね

〜っ♪」


「ん?、、あっ、あ〜、、そうだね、うん。そ、そうだったよ。」


「???」


サクラちゃんの中では、20cmの身長差は『同じくらい』のようだぞ?首を傾げているところからして、本心で言ってるな。


ここで、「は?俺を巨人と一緒にするんじゃねーよ!」と言うほど、俺は鬼畜ではない。



きっと、ご両親が身長2m級のパワフル夫婦なのだろう。サクラにはなんの責任もない。ちょっとくらいデカくたって、別に良いじゃないか!


もしサクラをイジメるような奴がいたら、俺が破裂させてやんよっ!!


と、俺は『サクラを見守る会』を勝手に発足したのであった、、。



俺が決心を固めたところに、エチゴさんが店から出てきた。



「おっ、サクラちゃん。今日も大きいね〜っ♪」


「エチゴおじちゃんだ〜っ♪ワカバちゃんと同じくらいだよ〜?」


開口一番にサクラちゃんをディスったエチゴさん。

会発足した直後にいきなり破裂させることになるなんてな。



バコーンッ!!バタッ、、


「あんたっ!女の子になんて失礼な物言いだよっ!!」


後から付いてきた女性は、エチゴさんに文句を叩きつける。、、物理的にも棍棒を叩きつける。


おかげでエチゴさんは店頭で寝っ転がる羽目になってしまったが、破裂するよりはマシだったな。



そんな自業自得のエチゴさんはスルーして、後から出てきた女性に目を向ける。



「あはっ♪あなたがワカバちゃんね?すっごく可愛いじゃないさっ♡この人に変な事されてないだろうね?」


「あ、はい。え〜っと?」


「私はこのバカの妻の、オカンよ!」


妻なの?妻の母親なの?



「サクラちゃんもお昼ご飯食べてくかい?」


「うんっ♪」


「じゃあ、ちゃんとママに言って、一緒にいらっしゃいなっ♪」


「うん、分かったーっ♪」


サクラちゃんは元気よく返事をすると、元気に手を振りながら向かいの店に入っていった。



「さて、ワカバちゃん。今日から一緒に暮らしていく訳だけど、何か言いたい事はあるかい?」


「え、、と。」


これから話をして決めるものだと思っていたのが、既に決定していたという事に驚き、上手く言葉が出てこない。



「あははっ、心配しなさんなっ♪住込み、3食飯付き、オヤツにお昼寝はもちろんのこと、週休6日で月給5金貨だよっ♪」


「え、、えぇーーっ!!?」


オカンさんの言葉を聞き、俺は驚愕の声を上げた。


それはそうだろう。週に1日、店のお手伝いをするだけで、月給5金貨(日本円にして約5万円)だぞ!?

どう考えても、明らかに赤字!大赤字だと言えるだろう!!



「あはっ♪驚いた顔も可愛いわね〜っ♡ほらほらっ、中へお入りっ♪」


「あっでも、まだ荷物とかが、、。」


「いいのいいの!そこに転がってる人がやるわよっ♪」


オカンさんは店先で失神KOしているエチゴさんをチラ見してから、俺の手を引いて店の中へ。



店内はそこまで広くもなく、現代日本で言うところの『コンビニ』って感じだ。


取り扱っている品も、日用品や生活雑貨、文房具に調味料など。、、うん。雑貨屋が進化したらコンビニになるんだろうね。



レジの裏にキッチン付きの8畳間があり、お客の居ない時はここでまったりしたり、ご飯を食べたりするようだ。



一先ずはこの8畳間にて、ランチタイムと洒落(シャレ)こむ事になった。



オカンさんがキッチンにて料理を始めたのを見計らって、俺は部屋を見渡し鏡を探す。


チタマ世界に転生して、かれこれ11日。


未だ自分の顔を見ていないのだ。


ダーインスレイヴの刃で反射して見えないかとも思ったが、纏っている禍々しい魔力のせいで、光を拒絶しているようなのだ。


反射しなけりゃ写(うつ)す訳もなく、、。



という事で、自分の顔を見るのがこんなに楽しみになるとは思わなかったよ。



と、まるで不審者のように、部屋の中をキョロキョロしまくる俺なのであった、、。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る