第7話 サイショノ探索
俺は今、料理中のオカンさんの目を盗んで、8畳間の中を物色中である。ふっへっへ!
現代日本であれば、鏡に限らずその代用品くらいすぐに見つかるものだが、さすがは異世界。
窓のガラスは曇りガラスだし、家具は全部木製。
反射する物が全っ然見当たらないのだ!サスイセである。
早くしないとオカンさんが戻ってきてしまうな。
焦りを感じた俺の目に、ある物が止まった。それは鞘に収まった一振りのショートソードだ。
レジ裏の部屋に置いてあるのは、強盗対策なのだろう。
さておき、ダーインスレイヴではダメであったが、普通の剣であれば鏡代わりになるだろう。
俺はサッとショートソードの柄を握り、抜剣した。
剣の刃は良く手入れされており、部屋の内装を写している。
これならっ!!と、俺は剣の刃を顔の前に持っていく。
「お、、おぉ。これはヤバいな、うん。」
そこに写し出されていたのは、パッチリ二重のクリっとした可愛い目をした超絶キュートな女の子であった。
髪色が、白金が強めのピンクゴールドなのは分かっていた。腰に届く長さだからな、さすがに気づくわ。
髪色と同色のやや薄い眉毛に、ビューラー要らずのカールした長いまつ毛も同色であるな。
恐らく、大人になってワキ毛とか生えてきても、ピンクゴールドなのだろう。
少し小さめの可愛らしい鼻に、綺麗な桜色の唇がまたキュートッ!!
日本でこんな子が1人で歩いてたら、ロリコンとか関係なしに、間違いなく誘拐されちゃうだろう。
、、エチゴさん。良く我慢しましたね。
まぁそうなる前に破裂する事になるんだけども。
だがこれで、行き交う人達が可愛い可愛い言ってきていた訳が理解出来た。
俺でも声はかけないにしても、目で追ってしまっただろうな。
ともあれ、顔面エメラルドグリーンな結末を迎えずに済んでなによりだ。
「あら、ワカバちゃんには少し早いわよ〜?」
そう言いながら、俺の手からそっとショートソードを取るオカンさん。
自分の顔を見るのに夢中で、全く気づかなかったよ。
「あっ、いえ。ちょっと自分の、、。」
顔が見たくて。と言う寸前で言葉を止めた。
だって!!どんだけ自分好きなんだよ!!って、絶対に思われるよな!?
「ワカバちゃんの?」
「あ〜、、え〜っと、そっそう!俺の扱いやすい長さとか重さとかっ!どのくらいかと思って!!」チラッ
「あははっ!ワカバちゃんは騎士にでもなりたいのかい?」
「い、いえ、冒険者になろうと思って。」
「冒険者ね〜?思ってるより大変なのよ〜?」
ショートソードを鞘に戻しながら、オカンさんはそう言った。
元冒険者だったオカンさんが言う事だ。色々と苦労したんだろうな。
「私が組んでたパーティは、、」
「オカンーっ?お昼、ご馳走になりに来たわよ〜?」
「あら、もう来ちゃったわね。話の続きはまた今度ね?、、裏にいるわ〜っ!」
オカンさんの冒険者時代の話が始まる手前で、サクラちゃんとサクラちゃんママが店先から声をかけてきたので、お話の続きは楽しみに待っているとしよう。
オカンさんはキッチンの方へ。
そして、座布団に胡座で座っている俺に、後ろから抱きついてきたサクラちゃん。
その2人を軽々同時に抱き上げ、その場でクルクル回る女性。
サクラちゃんと似て幼さの残る可愛らしい女性であるが、この人がサクラちゃんのママなのだろう。
身体はシュワルツェ○ッガーだよ、うん。
未来から来たサイボーグなのかな?
「サクラから聞いてはいたけど、本当に可愛いわね〜っ♡でももう少しお肉を食べた方が良いわね〜っ♪」
俺をバーベル代わりに持ち上げながら、サクラちゃんママは呟いた。
俺は俺で、胴上げされてる様な感覚に、ちょっと楽しくなってきたのだが、サクラちゃんが羨ま視線を送ってきているので、ほどほどにして降ろしてもらった。
交代で今度はサクラちゃんでバーベル上げを始めたサクラちゃんママ。
サクラちゃんも大人になったらサイボーg、、ゴフンゴフン。り、立派な女性になるのだろうね。
「ほらほらっ、お昼にしましょーっ♪」
「はぁいっ♪」」」
俺たち3人ではしゃいでいると、お昼ご飯の準備が出来たようだ。
皆で席に座り、いざ実食!
本日のランチメニューは、鶏の照り焼き、ゴボウとレタスのサラダ、たまごスープにパンのセットである。
ふむふむ。これは普通に日本の食卓と遜色ないメニューだな。
これなら味の方も心配ないだろう。むしろ、匂いは超美味そう!
まずは鶏の照り焼きから攻めてみるか。
俺はナイフで一口大に切り分け、口へと運ぶ。
「っ!!美味しーっ!!これは止まらんっ♪」
俺は脇目も振らず、鶏の照り焼きを一気食い!
、、ホワイトシローの時と同じ過ちを犯してしまったよ。
と、鶏の照り焼きが消え去ってから気づいたのだが、後の祭りである。
ホワイトシローの時は、残ったご飯を目玉焼き丼にして食べたんだよな。
今回はパンにサラダを挟んで、レタスサンドウィッチにするか、、うん。
だがそうなると、ハムとチーズが欲しくなってくるが、そこは何とか我慢するとしよう。
そう思った俺なのだが、オカンさんから救いの声がかかった。
「あははっ♪そんなに美味しそうに食べてくれて、作った甲斐があるってものね!今おかわり持ってくるわねっ♪」
「あっ、ありがとうございます!」
「私もおかわりーっ♪」
「サクラちゃんもね?、、ママンもね?」
「うふふっ♪ワカバちゃんの食べっぷりを見てたら、私も負けてられないからね!」
サクラちゃんママ改め、ママンさんは何と戦っているのだろうか。
、、俺では無いことを祈る。
こうして皆で賑やかなランチタイムを満喫し、食後のティータイム。
ここで衝撃の事実が判明した。
「ええーっ!?オカンさんとママンさんって、パーティ組んでたんですかーっ!?」
「そうよ〜っ♪ママンとうちのが前衛で、パパン、、サクラちゃんのお父さんね。と私が後衛だったのよ。」
「オカンの魔法とパパンの弓、2人の支援が頼もしかったわ〜。」
「あら、ママンの挑発ポージングのお陰で、私たちは安心して自分の役割に集中できたのよ?」
ポージングでヘイト管理してたのか!?
「私も大きくなったら、ママみたいに冒険者になるんだ〜っ♪」
「あ、サクラちゃんも冒険者になるの?」
「うんっ♪ワカバお姉ちゃんも一緒に冒険しよっ?」
「そうだね!大きくなって、サクラちゃんの気持ちが変わらなかったらね?」
「私はもう決めてるもんっ♪約束だよ?」
「分かったよっ♪」
俺とサクラちゃんで約束を交わした。まぁ、4歳児の口約束なんて、明日には忘れているだろう。
そう思っていたこの時の俺を破裂させてやりたい!!と思ったのは、もう少し後のお話、、。
食後のティータイムを楽しんだ後は、お昼寝のお時間です。
とは言っても、お昼寝に入るのはサクラちゃんだけなので、ママンさんが抱っこして帰っていった。
2人を見送る時に、オカンさんが店先で転がっているエチゴさんをビンタで起こし、仕入れてきた品物の搬入などを指示。
どうやらエチゴさんは、お昼ご飯抜きで働く、、というより、働かされると言った方が正しいか。
オカンさん曰く、今まで横になって休憩してたんだから当たり前よ!との事で。
ま、まぁ、夫婦の事に口を出す必要はない、、よね?
俺は心の中で、エチゴさんにエールを送るのであった、、。
そんな一幕もあったりしたが、お店の方はエチゴさんに任せて、俺はオカンさんと一緒にサイショノ街を見てまわる事になった。
新たに住人となった俺の顔見せと、街の要所を覚えるためだ。
「それじゃ、ワカバちゃん。この街に入ってから、何か気になったもの、行ってみたい場所とかあったかしら?」
「う〜ん、、あっ!冒険者ギルドに行ってみたいです!」
「あははっ♪よっぽど冒険者に興味があるんだね〜?んじゃ、冒険者ギルドに行ってみましょっか!町長も今の時間ならギルドにいると思うし。」
「ありがとうございますっ!、、って町長が冒険者ギルドに?」
「ふふっ着いてからのお楽しみよっ♪」
町長に関してははぐらかされてしまったが、2人で手を繋ぎ、道行く人に挨拶しながら目的地である冒険者ギルドに向かって歩みを進める。
街の中央通りにあり、この商店街からゆっくり歩いても20分ほどの距離だと。
そんなこんなで、屋台で買い食いしたりしながらのんびり進み、やってきました!冒険者ギルド!!
「ここが冒険者ギルドよっ♪盾の前で剣が交差してる看板が目印ね!これは全冒険者ギルド共通だから、覚えておくと良いわね?」
「おおーーっ!!凄く凄いですね!!」
冒険者ギルドの入口前で、拙(つたな)い語彙力になってしまうほど驚いている俺ではあるが、それは仕方がない事だと思う。
この建物だけ何故か五重の塔なのだ!
しかも金キラキン!!
金閣寺とのコラボイベントで建てた、記念館か何かなのか!?
しかし、ここで一つの疑問が生まれた。
馬車からサイショノ街を上から見下ろす形で一望したが、こんなに目立つ建物を見逃すはずはないだろう。
だが俺の記憶には、金五重の塔を見た覚えなんかない。
本当に記憶喪失になってしまった、、なんてないよな?
「オカンさん。ちょっと気になった事があるんですけど、、。」
「あははっ♪街の外からは見えなかったって言いたいんでしょう?」
「は、はい。その通りです。」
「それはね?街を包むように結界が張られているからなのよ。空を飛ぶ魔物は珍しくないから、その対策としてね?」
「ふむふむ、なるほど。その結界の副次効果で、街の外側からは二階建ての建物しか無いように見えてるんですね〜。」
俺はそう言いながら、キョロキョロと辺りを見回してみる。
今まで気づかずにいたが、よく見てみると二階建てに限らず、三階建の建物や見張り用の塔みたいなものまであるじゃないか!
外から見た印象のせいで、『サイショノ街は二階建ての街』だと勝手に思い込んでいた。
人とは不思議なもの。そうだと思い込んでいると、そう見えてしまうのだ。
しかし、こんな印象操作のような事をする必要はあるのだろうか。
そう思ってオカンさんに聞いてみたところ、、
「あははっ♪ただのサプライズさね。ワカバちゃんも驚いたでしょう?」
、、と。
高い技術力を無駄遣いしやがるっ!!
サイショノ街の町長に会ったら絶対に文句を言ってやる!と、心に決めた俺なのであった、、。
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