第5話 異常さは自覚しておくべき




俺が着替えを終えると、タイミング良く馬車が停車した。


どうやら朝ごはんを食べるのに良さげな場所に到着したようだ。


幌車から降りると、街道沿いにある野営用の広場というか、まぁキャンプ場のような場所であった。


ここなら薪(まき)も用意されているし、竃(かまど)も共用のがあるので楽チンだ。使用料も2銀貨(日本円にして約200円)と良心的である。




「さ〜て!朝ごはんは何が良いかな?リクエストはあるかい?」


「お肉が、、あっいえっ!簡単な物で充分ですよ!」


「はっはっはっ!子供が遠慮なんてする事ないよ♪それに僕もお肉が食べたいと思ってたんだ。丁度良かったよ!」


俺に合わせてくれたのだろう。そんな優しいエチゴさんが料理を始めたので、俺は出来上がるまでの間に色々と魔法の修得に勤しむ事にした。


昨夜、エチゴさんの傷を治す為に、『ヒール』と魔法名を口にしたのだが、ちゃんと回復魔法が発動した。


さらに!ステータスの使用可能魔法の部分にも、『ヒール』が追加されていたのだ!


という事は、俺のイメージとイメージに合致した魔法名、発動可能な能力値を有していれば、誰かに教わったりしなくても覚えられるという訳だ!



まぁ現存する魔法とは名前に違いは出来てしまうだろうが。


それでも、自分がイメージしている現象と名前を、他人が決めた名前に当てはめるのはどうかと思う。


極端な話だが、俺が燃え盛る炎をイメージしているのに対し、「その魔法名はアイスニードルだね。」なんて言われても、絶対に発動しないだろ!という事だ。


なら初めから自分なりに「ブレイズ」と唱えた方が間違いない、、と思う。


現存している魔法名を知らないから、もしかしたらヒールもブレイズも合ってるかもしれないけどな。



ふむ。、、現存していない魔法名でも、ちゃんと発動するのか確かめてみないとダメな話か。



現存しなさそうな魔法という事で、俺は試しに星型の岩を作ってみることにした。多分無いだろうし、炎とかは失敗した時の被害がデカい気がするからな。



「ロック・スター。」


手を前に向け、魔法名『ロック・スター』と唱えてみた。



ギュイギュイ〜ンッジャカジャカジャカッ♪

「ヘイッカマーンッ!!」


エレキギターを激しく弾きながらヘッドバンキングで長い髪を振り回しているヤツが現れた。



、、ちょっと魔法名にイメージが引っ張られたようだ、失敗失敗。



俺が魔力の供給を止めると、「センキューッ!」と言い残して消え去った。


こ、コレはコレで使えるかもしれないな。


戦闘中、いきなり目の前にロックスターが現れたら、相手は動きが止まるだろう。


さておき、気を取り直して!



「ストーン・スター!」


岩だとまた激しいのが出てきそうな予感がしたので、今度は石にしてみた。



「、、あら、失敗か?」


目の前に変化はない。やはり既存の魔法名じゃないと発動しないのかも。


ん〜、、だが、魔力が消費された感覚はあったんだよなぁ。というか、消費され続けてる気もするんだが?



まさか!!


と、俺はバッと空を見上げた。



透き通るような青空の中、キラッと光る1つのお星さま。


ふむ。どんどん大きくなってきてる?気がする。


、、落ちてきてるね。



まずい!!

現時点で1cmほどの大きさに視認出来るという事は、100mクラスの隕石だぞ!?


恐らく落下予測地点は、俺の目の前!!



このままでは、衝突の余波でこの辺りにドデカいクレーターが出来てしまう。


エチゴさんや馬、この異世界キャンプ場でさえただでは済まないだろう。



なんとかしなくてはっ!!!



咄嗟に思い付く解決策としては、やはり隕石は爆破するものでしょう!というものである。映画とかでも、巨大隕石に爆弾を設置して〜、、っていうのは定番だからな!



俺は、落下中の星型の石を爆破するイメージをしながら、手を向けて魔法名を唱える。



「フレア・バーストッ!!」


体内からズオォッと魔力がごっそり抜け出る感覚に襲われ、体から力が抜けて片膝を地面についてしまう。


その時!!



ピカッ!ドガアアアァアァンッ!!!!!


カメラのフラッシュのような閃光が視界を一瞬奪うと共に、体の芯まで届く爆音が響く。

その直後、全てを揺るがす振動が衝撃波としてやってきた。


飛んでいた鳥は失神して墜落し、衝撃波は地表を激しく震わせる。


様々な物を巻き込みながらもの凄い速度で近づいてくる!


このままでは、隕石被害が烈風被害に替わるだけだ!


俺は両手を上にあげ、異世界キャンプ場を半球状の結界で囲うイメージをして魔法名を叫ぶ!



「え、えーっと、、とっ東京ドームっ!!」


俺の叫びに応えるように、異世界キャンプ場はドーム球場へと進化を遂げた。


慌ててたので、パッと頭に浮かんだ丈夫そうな半球状のものを魔法名にしてしまったのだが、ちゃんと発動して良かった。



そして『東京ドーム』が発動してから間髪入れずに、ゴォーーッという音が少し聞こえたが、何事もなく、無事に衝撃波をやり過ごせたようだ。


ちなみに俺はピッチャーマウンドの上にいた。

ピッチャーマウンドの上で片膝ついてると、サヨナラ満塁ホームランで負け投手な気分になってくるが、隕石&衝撃波を無傷で済ませたんだ。どちらかと言えば勝ち投手だろう!


ついでに言うと、エチゴさんは一塁側ベンチで料理中である。


料理に夢中で、全く気づいてないらしい。さっきの爆音にも気づかないなんて、悟りでも開いてるんじゃ、、?


まぁ、気付いていないのなら、俺としても言い訳せずに済むので有り難いが。



俺が魔力供給を止めると、スゥーっとドームはその存在を無くし、元の異世界キャンプ場へと戻ったのであった。



しかし、どうして星型の小石を作るつもりが、隕石になってしまったのだろうか。


と、俺は備え付けの木製ベンチに座って考えてみる。


イメージはちゃんと星型の小石だった。

魔法名も『ストーン・スター』で大丈夫そう?強いて言うなら『スター・ストーン』の方が良かったんだろうね。


後は〜、、過剰なMP・INGが原因か?


いやしかし、ヒールはちゃんと普通に発動していたしなぁ。


まぁ、他の人が使ったヒールを見た事ないから、俺のが普通だったのか分からんのだが。


あと考えられるのは、スキルの『魔力操作』がLv1だったからかな?


ヒールは魔力操作Lv1で対応していたが、星型の石を作るのにはLvが足りなかったから、過剰MP・INGが暴走した。


、、うん。原因としては、これが一番しっくりくるな。


でもまぁ、当初の目的『現存していない魔法名でも発動するか』というのは達成出来た。答えは発動する!だ。東京ドームなんてチタマ世界には無いだろうからな!


さて、まとめだよ!魔法はちゃんと、魔力操作のLvを上げてから使いましょう!以上!!



と、俺の1人反省会が終わりを迎えたところに、スパイシーな香りが鼻をくすぐる。


その匂いに釣られて目を向けると、エチゴさんが料理を運んで来たのが見えたので、運ぶのくらい手伝おうと思い、エチゴさんの元へと駆け寄った。



「じゃあ、頼もうかな。今日の朝ごはんは、ホワイトシローの骨付きスパイシーグリルをメインに、もう何品か作ったからねっ♪」


「わぁーっ!楽しみですーっ♪」


2人で協力し、次々とテーブルに料理を並べていく。


スパイシーグリルだけでもかなりの大きさなのだが、それに加えて、カツ煮や生姜焼き、ローストホワイトシロー、しゃぶしゃぶ、ピーマンのシロー詰めなどなど、、。


まさに肉満載!肉パーティーである!!



「パンとライス、好きな方でどうぞっ♪」


「は、はいっ♪いただきま〜すっ!」



俺は手当り次第に、ガツガツと食べまくる!!


どれも素晴らしい味で、地球に居た頃でさえここまで美味いと感じた事はなかったであろう。


ふむ。どうしてエチゴさんは、料理屋じゃなくて雑貨屋を営んでいるのだろうか?

これほどの料理でさえも、チタマでは一般的なレベルなのだろうか。



「エチゴさん、雑貨屋より料理屋を開いた方が良いんじゃないですか?」


「はっはっはっ!ワカバちゃんに気に入ってもらえたようで何よりだね。確かに料理をするのは好きなんだけどね?あくまで趣味としてって事なんだ。」


「あ〜、分かる気がします。仕事にしちゃうと、やりたくない時でもやらなきゃいけなくなって、、。」


「そうそう。責任や義務感が付きまとう趣味なんて、趣味とは言えないよね。」


「ですね〜。そんなの、嫌いになっちゃいますよね。」


「うん。だから、趣味で留めておくのが良いと思ってね!」


疑問が1つ解消されたので、ついでにもう1つ質問してみる事にした。



「そういえば俺の使ったヒールって、普通でした?」


「えっ?あ、あぁ〜、、そ、そうだね。うん、普通だった、、よ?」キョロキョロ、、



目を泳がせて微妙な返答をしてきたエチゴさんであるが、明らかに嘘ついてるよな?


きっと気を遣って、俺の異常性には触れないようにしてくれてるのだろう。


だがっ!!どう普通じゃなかったのかを知らないと、いつか問題になると思う!


既存の回復魔法では治るはずのない大怪我を治しちゃったりね。

んで、お貴族様の耳に入って、俺を囲おうと絡んでくる、、なんて、異世界ものトラブルとしては王道の展開だもんな。



ともあれ、俺はそんな王道を進むつもりはないので!



「エチゴさん、正直に言って下さい。どの辺がおかしかったですか?」


「え、、う〜ん。そんなにおかしくはなかったよ?ただね?普通の回復魔法『キュア』じゃ、昨日の怪我を治すのに2時間くらいは掛かるはずなんだ。ワカバちゃんの、ヒール?だったかな?初めて聞く魔法だけど、5秒で全快だったからね。」


苦笑いしつつ正直に答えてくれたエチゴさんであるが、やはり普通ではなかったようだ。


既存の回復魔法は『キュア』というらしいが、俺的にキュアは状態異常回復って感じなんだよな。


ちなみに、ケ○ルで発動しなかったのは、毛有るって意味を込めていたからで、ホ○ミはエチゴさんの体型をディスってたからだな、うん。


なんにせよ、異常だったのは回復効果だったようだが、俺が『キュア』を使っても普通の人より強い効果になると思われる。


早急に魔力操作のLvを上げて、効果を格下げして発動出来るようにしなきゃだな。



「でも、僕は剣士だったから初耳ってだけかもしれないし、聖女様が使う回復魔法は特別な魔法だって聞くから、、あれ?そうなるとワカバちゃんは聖女様だったり?」


「あははっ♪まっさか〜っ!」


正反対の『魔王』です。とは言えないが。




そんな話をしながら、肉という肉を堪能したのだが、食べ終わる寸前に、「嫁さんにはホワイトシローの肉は内緒だからね?」と言われたのには驚かされた。内緒だから帰る前に消費したのね、、。




「さぁて。お腹もいっぱいになった事だし、出発しようか。ここからなら、2時間くらいで帰れるからね!」


という事で、再び馬車に乗り込み、サイショノ街に向けて出発する。



チタマに来て初めての街。


どんな感じなのか、とても楽しみである。

と、期待に胸をふくらませる俺なのであった、、。


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