第2話
水の上を徘徊し、買い物をして部屋に戻ると、彼は机に突っ伏して眠っていた。ずっと机に向かって勉強してるせいで運動不足で眠りが浅いと言っていたから、夜によく眠れていないのだろう。
彼の眠る四畳半の畳の部屋から離れ、小さな台所で料理を始める。キッチンに面する小さな窓を開けると、豆腐でも売っているのか、ラッパのような音が聞こえた。
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食事を終えると、彼は「今日もおいしかった。ありがと」と勉強に戻っていった。真面目で優しい人である。同棲してよかったと思う。付き合ってもう五年になるか。同じ大学に通う同級生の彼とは、二十歳から付き合い始めた。
社会人四年目を迎える前に、二人同時に新卒で入ったそれぞれの会社を辞めた。彼の会社は過重労働を強いるブラック企業だった。私の勤める会社は比較的ホワイトな中小企業だったが、配属された部署がまずかった。
彼女の下に就くと長くて一年、早ければ一か月で皆辞めると噂される女課長の下に配置されたのだ。彼女の気性は噂通り(いや、それ以上に)凄まじく、我慢強い私でも三年が限界だった。
三年、よく我慢したと自分を称え、私はぷー太郎生活に入ろうと彼に相談すると、彼も退職して行政書士の資格をとりたいと言う。
これまではお互いの職場が離れていたので考えられなかったが、ならば一緒に暮らして生活費を浮かそうということになり、同棲に踏み切った。互いにその先の結婚を考えていないわけではないが、それより目の前の問題の対処に必死だった。
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この選択をするまで、彼にも葛藤があったようで、飲み歩いたり、意見の合わない友達と口論したり、似つかわしくない行動をとったこともあったらしい。そんな行動をわざわざ教えてくれる親切で厄介な同窓生も居て、それで彼がちょっとした浮気をしたことも知った。
同棲をスタートした後のことだった。知っていれば一緒に暮らさなかっただろう。しかし、彼の苦しかった気持ちを思うと、一直線に責めるのもどうかと思った。あまりにも狭量だし、視野が狭い。
彼はその相手には「君とは遊びだから。ごめん」と謝ったそうだ。相手の女性にとってはとんでもないことかもしれないが、彼の行動は一歩ひいてみると正しい。いろんな人の傷を最小限に抑えることができているし、混乱しておかしな選択をするといったことも防げている(自分を選ぶことが最良と思っているところが我ながら嫌だが)。
何度も考えた後、選ばれた優越感でそう考えているのではないと、毎日通う園の中で結論付けた。
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