第4話

 がんじがらめだ。貧乏のがんじがらめ・・・


 寝返りをうつと、埃をかぶりはじめたテレビのモニターが目に入ってくる。


「テレビ、捨てよっかな」


 莉子がテレビを見なくなったのは、芸能人の財布事情に嫉妬したからである。

 自分よりけた違いに稼ぐ芸能人に嫉妬しても仕方ないとは十分に認識している。


 しかし、ドラマのなかでキラキラしたり、バラエティのひな壇でケラケラ笑いながら大金を稼ぎ出す彼、彼女たちを見ていると、どうしても同じ人間とは思えなくなってきた。

 親近感がなくなると、嫉妬はより増した。


 そうすると「大した能力もないのに運がいいだけでのし上がった人たち」が画面の中に溢れているような気がして、吐き気を感じた。

 トドメは芸能人が画面の中で金のことを愚痴っているところを見たことだった。


 事務所の取り分が・・・昔だったらもっともらっていたのに・・・こんな安月給で・・・

 雑誌で年収が億を超えると噂される人たちがそんなふうにおもしろおかしく自分の状況を揶揄したりいらだちを示す様子を見ていて、莉子ははっきりと怒りを感じた。


 こんなあらゆる意味で自分とはほど遠い人たちに怒っても何もならないのに。

 というか、何を怒っているのだろう。


 莉子は恥ずかしくなった。

 職場でつらく当たられ、仕事終わりの疲れた心がさらに荒むのを防ぐためにテレビを見ることを止めた。


 そしてYouTubeに逃げたが、YouTubeの動画の中にも「格差」をぽろぽろと見つけるようになって、また逃げようとしている。

 自分の中のドロドロが抑えきれなくなっているのを感じて、胸がつかえるような感覚を覚えた。


 私の心が弱いのか、運や能力がないのがいけないのか、なんでもかんでも垂れ流す周囲が悪いのか。

 全部だと思ったし、全部どこか違うような気もした。


 もう考えたくない。

 莉子は寝転がっている布団のうえにスマホを伏せ置き、目を閉じた。


 ああ、まだお風呂も入ってない。電気も消さなきゃ。


 布団の中にちゃんと入って寝なきゃ、風邪ひいちゃう。。。


 そんなことを思いながら、眠気に抗うこともかなわず、莉子はストンと落とし穴に落ちるように眠りに落ちていった。

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私の中の小さなドロドロ 梅春 @yokogaki

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