第11話 三人組
「いやぁ、危なかったね」
エルフの行商人は、後ろの連れに愉しそうに声をかけた。
「あの門番クン、良い勘をしていたよ。ボクたちの正体に気づきかけていたみたいだ。いくらなんでもあんな場所で口封じするわけにいかないから、ちょっと焦ってしまったよ」
「我々が何であるか理解できていないので、困惑していたようだがな」
後方の護衛の竜人の一人が口を開いた。細身の体に軽量型の鎧を着用し、隙の無い身のこなしから軽戦士の雰囲気がある。
「念には念を入れての策が役にたったようだな」
「ああ、あの隊長サンには賄賂が効きそうだったからね。予めお金を握らせておいて正解だったよ。あそこまで効果がでるとは予想外だったけど。金で開かぬ扉はない。
されど開いた扉からは正直が出ていく、とはよく言ったものだね」
「賄賂を受け取る役人ほど無能で扱いやすい輩はいない。逆に賄賂を受け取らない役人は厄介と言える」
「同感だね」
行商人一行は西の大門より二区に入り、宿場街を通り過ぎ中央通りに差し掛かった。
「そんなに気になるなら、後で潰しておくか?」
一行の最後の一人、こちらは一般的な竜人の戦士と同じくがっしりと体格に重量のある鎧を着ている男が、薄笑いを浮かべながら前を歩くエルフに声をかけた。
エルフはしばし試案した後、頭を横にふった。
「いや、やめておこう。今騒ぎを起こすのは得策じゃないし、あの二人はただの門番にしては意外に戦える雰囲気があったよ」
「俺たち三人でかかれば確実に仕留められると思うぜ」
「うん、ボクたち三人で夜にでも不意打ちをしかければ、ほぼ確実に倒せるだろうね。でも絶対じゃない。抵抗されたり、逃げ出されでもしたら面倒だし、これからの任務に支障をきたすかもしれない。無理に手をだすのは避けておこう」
エルフの慎重論に、戦士はつまらなそうに舌打ちした。
「なんでぇ。つまらねぇの」
「お前はただ殺したいか、暴れたいだけだろう、自重しろケセド」
「相変わらずつまらねぇ奴だな、ティファレト。てめぇと話してると陰気がこっちにまで移りそうだぜ」
「私のほうこそ、貴様と話していると軽薄さと短慮さが移りそうで非常に不快だ」
口を尖らせて不満を述べるケセドに、ティファレトが忌々しそうに言葉を吐き出す。
二人の空気が剣呑なものになるのを察して、エルフが苦笑して声をかけた。
「二人ともすまないね。今回の任務は隠密行動が多いから、戦闘員である君たちにとってはつまらないものだったろう」
「サルマン様、申し訳ございません。無駄口が過ぎました」
「け、優等生ぶりやがって」
「ケセド、貴様!」
「さて、そろそろつまらない時間は終わりだよ。目的地が見えてきた」
サルマンと呼ばれたエルフたち一行が到着したのは、「海汪商会」と書かれた大きな看板を掲げる立派な造りの店だった。
サルマンが店に近づくと、彼らの到着を察した商人たちが出迎えに現れる。
「遠路はるばるようこそ当店にいらっしゃいましたサルマン様」
「御一同の無事のご到着、祝着至極に存じます」
「店主がお待ちしております。ささ、どうぞ奥へ」
馴染の客というよりは王侯貴族を出迎えるがごとき恭しさである。
サルマンは海汪商会の丁重な出迎えに、至極の笑みで応えるのだった。
「やぁやぁ、皆の暖かい歓迎に感謝するよ。それじゃあ中で始めるとしようか。大事な大事な話し合いをね」
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