第4話 黒竜族の兄弟

脂粉の香ただよう室内。

王侯貴族が使うような天蓋付きの寝台の上には、褐色というよりは漆黒というべき艶やかな色をした肌の青年と、数人の豊満な体つきの女性が一糸もまとわぬ姿で眠りについていた。

とっくに日は昇り、昼に差し掛かろうとしている時刻であるが誰一人起きる気配はない。

そんな室内の静寂は突如として破られる。

バンと大きな音を立てて扉が開け放たれ、こちらもまた漆黒の肌をもつ青年が部屋に入ってきた。

彼は大の字で寝台に寝ている男を見つけると、ツカツカと歩み寄り固めた拳を容赦なく頭に振り下ろす。

「いってぇぇぇ!?」

殴られた頭を抱えて青年が大声を出すと、一緒に寝ていた女たちもようやく目を覚ました。

それを確認した男は、表情を変えず女たちに冷たい声をかける。

「お前たちはさっさと部屋に戻れ。客を迎える準備をするんだ」

女たちは悪態をつきながら、床に放り投げられていた自分の下着や服をつかむと室内を出ていく。その間に男は床に落ちていた男物の腰布を拾い上げ、まだ頭をさすっている弟分の顔に投げつけた。

「お前はさっさと服を着ろ」

「ひでぇよ大哥!いくらなんでもいきなり殴って起こすことはないだろぉ」

「黙れヤン。婆さんから至急の呼び出しだ」

婆さんと聞いて、ヤンと呼ばれた青年は露骨に顔をしかめた。

「うへぇ、また面倒事かよ。俺はいきたくないぜ、ツァオの兄貴」

「お前に仕事の選択肢はない。手持ちの金に余裕はないだろう」

「どこへいっても金金金。世の中世知辛いねぇ。」

「武具も身に着けておけ」

「……荒事か?」

ヤンの問いにツァオはまったく表情を変えずに答える。

「さてな。どうにも婆さんの歯切れが悪い。何が起きているのか正確に把握できていないようだ」

「へぇ……。あの婆さんを悩ませる案件とは、ちょっとそそられるね」

「いくぞ、下で婆さんがお待ちだ」

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