第5話 真夜中の訪問者?
「はい。これも」
「なぜ妾がこんな事をしないといけないのじゃ・・・」
俺から冷凍豚こま切れ肉を受け取りながら、居候は文句を垂れ流している。
耐熱容器に入った肉に向かって両手を向け、ふん!と力むと、肉はみるみるうちに解凍されていく。
「これくらい手伝えよ、居候のなんだから。ってかほんと便利なその能力」
レンジで解凍するよりも断然早いので感心していると、神宮さんは不思議そうに俺を見てくる。
「なに?」
「いや。ふと思ったんじゃが、お主もおばさんも妾の能力を見てもさほど驚かないんじゃな?」
「驚いて欲しかったの?」
「そういう訳じゃないんじゃがな。今までに力を見せた人はみな驚いていたからのぉ」
「まぁ普通の人ならそうかもね」
神宮さんは俺の返答に、ん?と更に不思議そうな顔をする。
「お主とおばさんは普通ではないのか?」
「亡くなった父さんが霊能力者だったからね。それを仕事にして除霊とかそういう事してた人だし」
普段なら変な目で見られてしまうのでそういう話はしないのだが、自称神様であり、実際に変わった力を持った神宮さんなら話しても問題ないだろうと判断し素直に答える。
「そうか。すまんかった」
俺がなにが?と聞くと、いや、その。神宮さんはと答えにくそうにしている。
たぶん父さんが亡くなった事に感じてだろうと思い、気にしなくていいよと言うと、すまぬと再度短く謝り、お互いに沈黙してしまう。
神宮さんでも人に謝ったり、バツの悪そうな顔をするんだなと、なんだか居心地の悪さを感じてしまう。
「ってかお主。妾と神社で会った時神様なんていないとかなんとか言ってなかったか!?なぜ霊能力者は信じて神様は信じないのじゃ!?」
今さっきまでの淀んだ空気はどこへやら、神宮さんはいつもの調子に戻って少し怒ったようにそう聞いてくる。
「・・・別にいいじゃん。幽霊はいたとしても神様はいないんだよ」
「この力を見ても、まだ妾が神だと信じないつもりか!」
どんどんと追加される肉を解凍しながらそう言ってくる。
でももし神様がほんとにいたならば、きっと父さんも亡くならずに済んだはずだ。
でもそんなこと言えばこの自称神様はまた謝ってくるだろう。せっかくいつもの調子に戻った神宮さんがまた申し訳なさを感じてしまうといけない。
ギャーギャーと騒いでいるうるさい居候に次はこれを手伝えと指示を出すと、だからなんで妾が!と言いながらも手伝ってくれる。
たぶん根はいい人なんだろうな。
______
トイレに行きたくなり目が覚める。
時計を見ると時間はまだ夜中の2時過ぎであり、当たり前だが、神宮さんは寝ていた。
彼女を起こさないように静かに襖を空けトイレに向かう。
トイレを終え扉を開けると、キッチンも居間も真っ暗だったが、居間の方でゆらりとなにかが立っているのが見えた。
父さんは霊能力者だったが、俺は母さんの血を引いたのか霊感はないはずだ。
なので、そこに立っているのは神宮さんだろうと決め込み、起こしてしまったのかと思い、ごめんと謝ろうとしたのだが。
「・・・ここどこ?」
暗闇で立つその人から放たれた声は神宮さんのものではなかった。
俺は一瞬泥棒でも入ったかと思い警戒するが、先程のここどこ?と言う言葉を思い出し、泥棒ではないと理解する。
「すみません。どちら様ですか?」
俺が声をかけると、窓の方を向いていたであろうその人は振り返り俺を確認する。
「えっ?誰ですか?この家の人?」
暗闇に慣れてきた目がその人の姿をしっかりと認識し始めるが、その人は俺を見ながら自分の体を守るように抱きしめ、薄らと見える表情からは恐怖や困惑といったものを感じる。
「はい。この家の者です。天井真司っていいます。あなたは?」
「私は
警戒しながら俺にそう聞いてくるタノシさんの足元を見ると、神宮さんの姿が無いことに気づく。
という事は丑三つ時だから神宮さんに霊が憑依でもした?と考えたが、それも否定される。
仮にタノシさんが神宮さんに憑依していたとしたら、その見た目は神宮さんのままだろう。だが、目の前の女性は、セミロングの髪に背丈も神宮さんとは違う。
神宮さんと同じように整った顔つきではあるものの、顔まで別人なのである。
「なんでタノシさんがここにいるのか俺にもわかりません。俺がトイレから出てきたらそこに立ってたので」
俺がそう伝えると、ちょっと待ってくださいと頭を抱え始めた。
「タノシさんは今まで何してたか覚えてないんですか?」
相手の正体はわからないが、敵意のようなものは感じられないので、とりあえずそう聞いてみる。
「今まで?私は今まで何してたんだろう。確か学校帰りで、横断歩道を渡って、それから・・・あれ?でも今まで眠ってたような・・・」
ちょっと待て。学校帰り?今は夜中である。だから学校帰りというのはありえない。
記憶が混濁しているのかもしれない。
「私何してたんだっけ?うまく思い出せない。なんで?どうして?ここどこ?怖い。怖いよ」
「落ち着いてください。とりあえず状況を―――」
整理しましょうと続けようとしたその時。
「ああああああああああ!!」とタノシさんが奇声を上げたかと思うと、眩い光が彼女を包み込む。
「なんだ!?」
突然のことに驚き、あまりの眩しさに目を閉じてしまう。
そして、次に目を開けた時にはタノシさんの姿は消え、彼女が立っていた場所には神宮さんが立っていた。
神宮さんは気を失っているのか、その場に倒れ込みそうになるので、俺は急いで駆け寄り体を支える。
「大丈夫か!?」
俺が焦ってそう声をかけると、すぅすぅと可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「いや寝てるのかよ!!」
夜中にも関わらず大声を出してしまったが、自称神様は「ううん」と少し嫌な顔をしただけで起きることはなかった。
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