第4話 お揃いの弁当

 あのピンク色が目に焼き付いて離れない。


 昨日からずっと神宮さんを意識しないようにしていたからか、余計にだ。


「なんじゃ真司。なぜずっと黙っておる」


「あなたのせいなんですけど!?」


 さっきの恥ずかしそうな態度はなんだったのか、ピンク色の神様はすっかりいつも通りに戻ってしまっていて、そんな彼女に強めにツッコミを入れるが、本人はあっけらかんとしている。


 昨日からこの人に振り回されっぱなしで疲れてきた。


 一度頭を振り、今日の授業はなんだっけと考えても仕方がないことを考え始める。

 こんな時、瞬時に思考を切り替えられない自分が嫌になる。


「せっかく一緒に登校しておるのにずっと黙っていてはつまらんぞ。なにか話せ」


「うるさいなぁ。なんで俺が話さなきゃいけないんだよ。ってかなんで一緒に登校してるんの?時間ずらせよ」


「はぁ?お主が着いてきたんじゃろうが!」


「俺の方が先に出たんだから着いてきたのはお前だろ!」


 他にも通行人がいることも忘れて俺たちはぎゃあぎゃあと言い合う。


「何してんの?」


 学校まであと半分の距離に差し掛かったところで、そう声を掛けられる。

 その相手は俺の幼なじみであり、親友の橘駿たちばなしゅんだった。


「おっ、駿。なぁ聞いてくれよこいつがさ―――」


「いや妾の話を聞くのじゃ!こやつがのぉ―――」


「待って待って。お前らっていつから付き合ってたの?」


「付き合ってない!」

「付き合っておらぬ!」


 2人同時に言葉を発し、俺たちは睨み合う。


「真似するでない!」


「真似したのはお前だろ!」


「なんだ。付き合ってなくても仲良しじゃん」


「これのどこを見てそう思った!?」


「いや、ただの痴話喧嘩にしかみえないんだけど?」


 駿は茶化すように笑い、「おじゃま虫は消えますねー」と俺たちを置いて先に行ってしまう。

 俺がそれを追いかけるように急ぎ足で歩くと、後ろから神宮さん着いてくる。


「着いてくるなって!」


「妾も同じ場所に向かっておるのじゃ!仕方なかろう!」


 こんなやり取りが教室に着くまで続いた。


 ______


「天井って神宮さんと付き合ってるの?」


「いや。付き合ってないけど」


「でも朝一緒に登校してたじゃん」


 トイレで手を洗っていると、隣のクラスの男子が話しかけてきた。


 もう昼休みだというのに朝からずっとこの手の質問をされ続けて疲れてきていた。

 なぜ俺と神宮さんが一緒に登校してたという話はすぐに広まるのに、俺が否定したという話は広まらないのか。


 俺は昼食を食べようと教室に戻り自分の席に座る。

 すると駿が俺の前の椅子に反対を向いて座って、俺の机に弁当を広げてくる。

 いつもの事なので特に気にしていなかったが、今日はそれがよくなった。


 隣の席の神宮さんも俺と同じタイミングで弁当を取り出す。

 俺と同じ弁当箱に中身までお揃い。


 駿はそれを見逃さず一言。


「あっ。真司と神宮さん弁当お揃っちじゃん」


 しまった!と思った時には時すでに遅し。


 教室中の視線が俺と神宮さんに集まる。

 そして。


「ほんとだ!えっやっぱ2人って付き合ってるの!?」

「朝も一緒に登校してたし、そうだったんだ!」

「まじかよ。俺神宮さん狙ってたのに・・・」

「あの神宮さんをどうやって射止めたんだ?」


 そんなセリフが教室を飛び交う。


「違う違う!これは偶然で!」


 俺が否定しようとした時だった。

 たぶんなにも考えていなかった自称神様は得意げにふふんと鼻を鳴らした。


「真司が作ってくれたのじゃ。美味しそうじゃろ?」


 その言葉で更に教室が盛り上がった。

 こいつ。ほんとに神様のくせになんでこんなにポンコツなんだ。


 神宮さんのせいで、過去一騒がしい昼休みになったのは言うまでもない。

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