「Summer Idle, Blue Memory」
夏休みも終盤に差し掛かった。あの日からいろんな場所に連れてかれた。釣りをした翌週、松山城を見に行きたいと西河さんからメッセージが来た。バカ暑い日にバカ遠出、今回ばかりは電車に乗ることにした。西河さんと合流し地獄のハイキングに出発した。俺は体力は自信のある方だった、宇宙飛行士を目指してる者としては体力は重要だ。だ・け・ど、リフトが用意されてるのに「景色を楽しみながら上がってみましょう!リフトもいいけど歩きも中々なはずよ!」と上級者向けの坂道を行くことになった。西河さんは意外にも軽々しくゴールした。とんだバケモンだ。辿りついた松山城前からみる愛媛の景色は中々に綺麗だった、その日は晴天で見晴らしが良かった。松山城にももちろん入り見て回った。松山城なんて何年ぶりだろうな、父さんと一緒に行ったのが最後だった気がする。帰りはリフトに乗って下り、下の商店街にあるお店で晩飯を食べることにした。っとものすごく疲れるデートだった(ん?デート?)。あれから買い食いに誘われたりはしたがどれも松山城巡礼の旅に比べたらマシだった。
西河さんに呼ばれない日は朝からランニングに出かけて、帰ってきてから勉学に励む。主に数学や物理といった科目をやる。このルーティンを6年間繰り返してきた。そんなある日…
西河美恵『明日空いてるかしら』
大馬柊二『いつも通り空いてるよ。今回はどこに行くの?』
西河美恵『道後水族館』
大馬柊二『集合は現地にする?それとも駅?』
西河美恵『駅にしましょう。あそこに新しいクレープ屋ができたの』
大馬柊二『食べ歩きね、オーケー分かった』
西河美恵『時間は3時ぐらいにしましょう』
大馬柊二『了解』
松山の名所といったら道後温泉、松山城と道後水族館だ。ちょうど道後水族館ができたぐらいの時に父さんと近所の人たちと行った覚えがある、といっても十年も前のことだから覚えてはないけど。
2:40に松山市駅に着いた、今日も雲一つない晴天だ。周りが人で埋まるほど居た、家族連れが特に多い。まぁ夏休みだしな、名所の松山城やら道後温泉に行く人が全国から来てんだろうな。家族か…俺の家族は父さんだけだしなぁ、仕事が忙しいから四国の外に出たことがねぇ。
「待ったかしら?」
後ろの改札口から白のワンピースを着た西河さんが歩いてきた。美しい。
「いや、全然。俺もさっき来たとこだ」
「そう。じゃあ早速お店に行きましょう!」
クレープ屋は駅から歩いて数分のとこにある。夏休みということもあってか、店は長蛇の列だ。まぁ、だろうなとは思っていた。
「すごい人の数だな」
「テレビでも取り上げられたからかしら?この様子じゃああと1時間は待ちそうね」
「どうする?どっか涼しい所で待っててもいいぞ?」
「優しいわね、でも一緒に待つは。元はと言えば私が行きたいといったもの」
暑い中並んでいると後ろから俺らを呼ぶ声がした。
「あーやっぱり美恵ちゃんだ!」
「なんで柊二がいるんだ?まさかお前…!デート…!」
樋口さんと田中だった。最近やった高校野球で田中のやつが樋口さんに告白したのは知ってたがまさか本当に付き合ったとは、こいつも幸せ者だな。
「なんで大馬くんといるの?まさかデート!?」
「んー、まぁそんなとこかなぁ?」
「へぇー!いつの間に付き合ってたの!?告白はどっち!?」
「おいおい綾香、別に付き合ってるとは言っとらんだろ」
「そうね、早とちりしちゃった。で美恵ちゃんたちは今日どこか行く予定あるの?クレープ買いに来ただけ?」
「このあと水族館行く予定なの」
「ほんとう!?私たちもなのよ!すっごい偶然ね、よかったら一緒に行こ!」
「えぇ、大馬くんが良ければ」
「え、俺は別にいいけど」
「んじゃあ決まりね!ついでに私たちもクレープ買っていこ、仁!」
「あんまりはしゃぐな、恥ずかしい」
こうして30分ほど喋りながら(主に西河さんと樋口さん)列に並んだ。ようやく俺たちの番になってクレープを買うことができた。店を後にし、道後水族館まではバスで行くことにした。バスでの席順は男組と女組で左右に分かれた。
「なぁ、柊二」
「ん、なんだ?」
「お前ら付き合ってるって噂本当だったんだな」
「噂ぁ?んなもんが出回ってたのか。いつからだ?」
「えー、西河さんが転校してきてから一ヶ月ぐらい」
「んな前から…!まぁ俺も実際どうなのか分かんねー」
「どういうことだ」
「話せば長くなるぞ」
「なら端的に頼む」
これまでの経緯を田中に打ち明けた。
「うーむ、なるほど。難しいな」
「だろ?俺も西河さんとの関係がよく分かんねー」
「でも多分、少なくとも西河さんには気があるんじゃないか?じゃなきゃ説明がつかん」
「そーなのかねー?俺は分からない」
「恋のシグナルなんて人それぞれだ、今は分からなくてもいいんじゃないか?」
「そういうもんかねぇ?」
男二人が恋バナをしてる最中に樋口さんが割って入ってきた。
「大馬くん、仁、着いたよー」
「おう、今行く」
「後でまた話すよ」
「話せる機会があればな」
道後水族館は当たり前のように人で溢れかえってた。家族連れやカップルなどたくさん居た。エントランスに入ると外と打って変わって静かだ。深い青色の天井と淡い水色の壁と床で魚やペンギンの絵がそこらじゅうにあった。窓口で切符を買い改札口を抜ける。最初、周りはエントランスのガラスから漏れる外の光で明るかったが螺旋構造のスロープを渡っていくと段々暗くなった。神秘的な雰囲気に包まれたところで大きな水槽がお出ましだ。ギラギラと光る水の中を泳ぐ魚たちは本当に神秘的だった。進めば進むほど見たことない魚や、珍しい魚が水槽を優雅に泳いでいた。
珍しいクラゲゾーンを抜けたとこで面白い形をした砂の水槽を見つけた。
「ミステリーサークルみたいね」
「あぁ、この魚は…アマミホシゾラフグっていうらしいぞ」
「この窪みの集合体はどんな意味があるのかしら?巣か何かかしら?」
「説明文があるぞ。ええと、『この砂の模様はメスが産卵するためのものです。』だって」
「へぇ、なになに?『オスが一生懸命作る巣』、『メスのアマミホシゾラフグに見せて求愛する』。これの出来次第でメスを取り合うなんて不思議ね」
バスでの仁の言葉が脳を過ぎる、『恋のシグナルなんて人それぞれだ』。そうだ、そうだよな。俺からはそうとは分からなくても、西河さんからしたらそれは…
「行くわよ、大馬くん」
「あぁ、うん。今行く」
ペンギンゾーンやイルカゾーンを抜ける頃には外は真っ暗になっていた。もう直ぐ閉園時間になる。最後にショップを寄っていこうとなり渋々入ることにした。ショップでぬいぐるみやらを触ったりどしたりしてたらあっという間に閉園時間になってしまい急いで会計を済ませ外に出る。
「いやぁ楽しかったねぇ」
「ええ、水族館なんて何年ぶりだったかしら」
「ペンギンが可愛かった」
「お前はそれしか言わねぇな、仁」
なんとかバスの最終便に乗り駅まで直行した。駅のあるデパートに着くと樋口さんたちは他に用事があるからと俺たちと別れた。俺と西河さんはそのまま駅に向かって歩いて行った。だが俺たちの行く方面は違うため途中で別れた。
「じゃあね、大馬くん」
「おう、気をつけてな」
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