「Summer Idle, Summer Memory」
高校生2年目の終わりはテスト返却だ。蒸し暑い朝、ギンギンに光る太陽の下を歩き学校に行く。少し歩いただけで汗が噴き出る。たかがテストの返却のためだけに行くのは頭がおかしい。
暑い教室の中、名前が呼ばれ受け取りに行く。受けとた瞬間絶望の顔を見せる者や安堵の顔を見せる者などさまざまだ。瑛人は相変わらず絶望の顔を見せてくれる。俺はまぁまぁの成績だった。悪くもなけりゃ良くもない。だが数学が返却された時驚いた。88点。今まで取った事のない成績だ。
「数学は西河さんが全学年一位だ。おめでとう」
歓声や褒める声が教室で響いた。
テストの返却と直しを終え、帰路についた。誰もいない家に帰り、自室に入りベッドに横になる。少しするとスマホに通知が来た。手を伸ばし名前を確認する。西河美恵、と表示されてた。開けて内容を見てみる。
西河美恵『今度の日曜空いてるかしら?空いてるわよね?』
ああ、またどっかに連れてかれるのか。
大馬柊二『一応』
西河美恵『よかったわ、少し釣りに行きましょ。』
大馬柊二『釣り?そんな趣味だったか?』
西河美恵『たまにはいいじゃない?釣った魚は持ち帰って一緒に食べましょう。』
大馬柊二『家に来るんですか…?』
西河美恵『あら、嫌なの?』
ここで嫌言ってしまったらまた怒るだろうな…
大馬柊二『いや、別にいい。少し片付けが面倒なだけだ』
西河美恵『じゃあそれで決定ね。場所はどこにする?』
大馬柊二『んー。北吉田はどうだ?昔家族で行ってたんだ』
西河美恵『ならそこでいいわ。10時でいいかしら?』
大馬柊二『いいけど、釣り道具はどうすんだよ』
西河美恵『古いけどあるわ』
釣りか。長い間してないな。昔は父さんと近所の人と一緒に釣りをしたなぁ。そーいや近所の人どうなったんだろう?確か都会に引っ越すつってそれきりだな。まぁ楽しくやってるといいけど。あそこの子供も今頃高校生か?たしか同い年だったはず。
あっという間に日曜になった。釣り道具を持って待ち合わせ場所に向かう。少し遠いのでチャリで行く。相変わらず太陽はギンギンに輝いてた。漕げば漕ぐほど汗が滲み出る。暑い。
目的地に着くと最下さんが立っていた。駐車スペースの奥に自転車を停めて彼女に駆け寄った。ちゃんと動ける格好で珍しくポニーテールをしていた。帽子をかぶってるのも初めて見た。
「おはよう、随分と早いじゃないか」
「さっき着いたばかりよ。さぁ行きましょう!」
「今日はやけにテンション高くないか?」
「そうかしら?私はいつも通りよ。」
「そうなのか…?」
波止を歩いて行って人の少ないエリアまで移動した。あらかじめ用意した椅子に座り針に餌をつける。餌はミミズだ。驚くことに西河さんは平気でミミズに触っていた。
「ミミズ…平気なのか?」
「えぇ、別に何ともないわ。」
「都会っ子だと珍しい方なんじゃないか?」
「えぇそうね。周りには触れる人いなかったわね。」
餌をつけ綺麗に海へと投げた。案外上手いな。と思いながら自分も投げた。魚が釣れる間俺たちはいろんな話をした。
「西河さんはずっと東京?」
「…ええそうよ。東京を出ることなんて滅多になかったわ。」
「へぇ。東京ってどんな感じなんだ?俺は行ったことなくて。」
「うーん…。とりあえず建物は高いわね。ほんと、コンクリートジャングルって言葉が似合うぐらいに。」
「そーなんだなぁ。こっちとじゃ差がありすぎるな」
「えぇ、そうね。」
「こっちと東京はどっちの方が好きなんだ?」
「断然こっちよ。」
「意外だな」
「東京なんてみんなが思ってるような場所じゃないわ。人は多いし、スクランブル交差点なんて臭いし。それに比べてこっちは空気が美味しい。近所の人もみんな優しいし、静かだし。最高よ。大馬くんは?東京に行きたい?」
「あー…いやここで十分だ。学生のうちはここでいい。」
「学生のうちは?じゃあ大学卒業したら東京に行くの?」
「東京は寄るだろうな、少しの間滞在してもいい。」
「お仕事はなにするの?」
「…宇宙飛行士を目指してるんだ、ずっと昔から。でも宇宙飛行士の募集はなかなか出ないから、出るまでJAXAがある茨城か近辺の東京に居ようかなって。」
「いい夢じゃない。応援するわよ。」
「それはありがたい。」
日が暮れる頃には二人合計で10匹ほど釣れ、その日は帰ることにした。もちろん彼女は家に来る気満々だ。チャリの後ろにタンクを紐で結び、釣り竿を肩にかけ出発の準備をした。西河さんもチャリで来てたらしく少し離れた場所に駐輪してた。
「一応確認なんだが…来るんだな?家に。」
「えぇもちろんよ。」
「分かった。じゃあちゃんと付いてこいよ。」
家の周りは田んぼに囲まれてることもあり、なにも見えない。チャリのヘッドライトが唯一の頼りだ。だがそのヘッドライトさえも前1mしか完全に見えない。俺は道を覚えてるため、大体はわかる。
「着いたぞ」
俺の家の他に何軒か家が密集してる、そのおかげで少し明るい。でもここに住んでる人数はそう多くない。三島のじぃちゃんが一人暮らししてるのと、田中のばぁちゃんとその娘がいるぐらいだ。あとは廃墟だ。
家に上がり、タンクをキッチンに運ぶ。
「晩飯はなにがいい?魚の蒲焼きとかならできるぞ」
「お邪魔させてもらってるから私が作るわよ」
「さすがに俺もなにもしないってわけにはいかない。手伝うよ」
取れたアジでアジのソテーを、アオリイカを刺身にして食べることにした。料理自体は簡単で1時間以内で終わった。
「今日は外も涼しいですし、庭で食べるのはどう?」
「あー、それもいいな。ちょっと待ってろ、今椅子探してくる。」
物置には椅子が2個と机がある。昔はよく父さんと一緒に星を眺めてた。幾千幾万とある星を眺めながら「いつかは俺も行くんだ」って妄想に慕ってた。中学に入ってからは勉強が忙しすぎてしなくなったが、たまにベランダから空を見上げることもあった。久しぶりにあの椅子を物置から出す。
「おーい、西河さん?もう庭にいる?」
庭へ向かうと縁側に座る西河さんがいた。
「ここから見る夜空は綺麗ね。とても東京ではお目にかかれないわ」
「周りは田んぼだからな、星がよく見えるんだ。よく父さんと夜空を見上げたもんだ」
「へぇ。昔から星が好きだったのね」
「あぁ」
「…じゃあ、あなたの初恋は?」
「なんで急にそんな話になる」
「いいじゃない、友達なんだし」
少し考えた。ここでド直球に「西河さんです」なんて言ったら嫌われてしまう。ならここははぐらかそう。
「俺は、この夜空に輝く幾千、幾万の星が好きだった。遠いのに眩しく輝いて俺らを見守ってる、いつだって。しかもその星にはまだ未知が溢れてる。ならそこに行って
その全てを見てみたい。からこれが俺の初恋かもな」
思えば俺の初恋は本当にこの幾千、幾万の星だったのかもしれない。
「…そう、ロマンチックね」
「?そうか?」
「そういえばあなたの趣味ってなに?釣りとか?やっぱり天体観測?」
「んーー。少し悩ましいな」
少し考えてみる。
「…天体観測も趣味とは言えるが、やっぱり俺は『変わらない日常を楽しむ』のが趣味な気がする。変わってるだろう?」
「『変わらない日常を楽しむ』?言ってることがまるで分からないわ」
「まぁ常人には理解できないよな。俺の趣味は簡単に言えば『日常を楽しむ』かな。逆を言えば『変化を嫌う』。俺は同じ毎日を過ごしたいんだ。もちろん世界は変わり続けるものだ。でも、いや、だからこそ変わらない毎日を楽しむ。いつなにが起こるか分かったもんじゃないからな」
「ふふ、変わってるわね」
「だよな」
「でもね柊二くん」
「ん?今、名前…」
「変わらないものなんて世界には無いのよ、たとえそれがあなたが過ごしてる毎日でも、あなたの世界でも」
「…どういうことだ?いや世界は変わり続けてるのは俺も分かってるぞ?」
「ううん。そういうことじゃない。あなたは『変わらない日常を欲してる』のよ、昔から」
「それ、どういう…」
「さぁ食べちゃいましょう!冷める前に!」
「お、おう」
数時間外で食べたり話したりしたあと、西河さんは帰った。洗い物をすると押しかけたが流石に時間も時間だし俺がすると伝え帰ってもらった。おかしな女だな、ほんと。あの言葉の意味はわからない。まるで俺のこと昔から知ってるかのような言い方だった。いや多分勢い余って言っちゃっただけだ、うんそうだ。
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