「Summer Idle Never Leaves Me Alone」

 あの日から一ヶ月が経ち西河美恵もクラスに馴染んできた。俺の「変わらない毎日」はもう帰ってこない。彼女へ対する感情、恋がそれを妨害してる。もうすぐで期末だ、高二の全てが掛かってる。土日は自室に篭りテスト勉強に励むのが俺の当たり前だ。が

 西河美恵『明日、時間があればカフェで勉強会しませんか?』


 大馬柊二『断ります』


 西河美恵『君に選択肢は無いですよ?』


 大馬柊二『行きたくないです』


 西河美恵『場所はモールの一階にある前田喫茶、時間は13:00ね。待ってるわ。』


 大馬柊二『強制ですか…』


 という事で土曜日はカフェに行く事になった。別に西河さんも頭が悪いわけじゃない。どちらかというと頭のいい部類だ、なのになんで勉強会など開くのか分かんない。ここで考えられるのは他の人が主催しているものに参加している、ということ。まぁ誰かは検討がつく。樋口さんか瑛人か、この二人のどちらかだろう。樋口さんはともかく瑛人はバカだ。全教科の総合点数ですら平均点を越えられないほどにバカだ。正直行きたくはないが西河さんが誘ったんだ、行くしかない。


 ピーピロピロピー


 携帯の目覚ましで目が醒める、時刻は10時だ。俺は洗面台で顔を洗い一階のリビングへ向かった。ドアを開けると父さんがソファに座りながら優雅にコーヒーを飲んでいた。

「おはよう、柊二。今日はやけに早いな、図書館か?」


「おはよう。今日はちょっと友達と勉強会に行ってくる。」


「おお、そうか。珍しいね。」


「まぁね。朝飯はこれ?」


「ああ、チンしてね。」


「はいよ」


 テレビではまたテロ組織のニュースが流れてた。世界は今半ば戦争状態だ、日本も軍制度を復権させたし数多の国が同盟書にサインをした。あー数百年後に生まれてたら間違いなくテストに出てたぞこれ。

「柊二、軍には入るなよ。今世の中危ないからな。」


「分かってるよ、入る気はないよ。」


「そうか。」


「じゃあ父さんは今日からインドネシアの方に出張だ。一ヶ月ちょっとぐらいは帰らない。ちゃんと戸締りをするんだぞ。」


「わーってるって。行ってらっしゃい。」


「ああ、行ってきます。」


 一ヶ月か。それまでは自分で飯を用意しなくちゃいけないのか。だりぃ。


 朝食を終え自室に戻り少し課題をやってからモールに向かった。今日は珍しくチャリで行く事にした。住んでる場所が田舎だからモールは少し遠い。今日は風があって涼しい、日差しは強いがまだ我慢できる。10分ぐらいで着き、時間もまだあったから先に中で待つ事にした。前田喫茶のドアを開けて入ると奥の4人席に西河さんが座っていた。そっと近づき挨拶をする。

「おはよう、西河さん」


「あら、大馬くんじゃない。本当に来るとは思ってなかったわ」


「強引に呼んだのそっちでしょ…」


「ふふふ、私は場所と時間を送っただけよ?別に強要した覚えはないわ。」


「はいはい。で?他のメンバーは誰だ?」


「なんのこと?今日は二人だけよ?」


「マジ?」


「ええ。」


「俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」


「えー?その時は樋口さんや松浦さんを呼ぶわ。そんな事よりテスト勉強するわよ。まずは数学からやりましょう。」


言われるがままに数学の教材を出し二人で過去問を解いた。コーヒーやパフェを頼みながらなんだかんだ言って2時間はカフェで勉強した。

「今日はこれぐらいでいいでしょう、時間も時間ですし。」


「あぁ、同感だ。じゃあ帰るか。」


「じゃあ会計は割り勘でいいわね?」


「え、」


「流石に私も払うわよ。そんなにお金に厳しい女じゃないのよ?」


「じゃあ割り勘で頼む。」


会計を済まし店を後にした。

「あ、俺買い出ししてから帰るから西河さんは先に帰ってていいよ。」


「あら両親の手伝い?」


「いや今日から一ヶ月父さんいないから自分で夕飯作らないといけないんだ。」


「へぇ。じゃあ今日は誰も家にいないの?」


「ああ」


「じゃあお料理作ってあげるからお邪魔していいかしら?」


「へ?」


「いいでしょ、別に。そうと決まれば買い出しに行きましょ!」


なななな、なんだこの状況は!なんで西河さんがウチに来る流れになるんだ!?何かおかしいぞ!あぁ、俺の普通の生活が… いやそんな事より女子が、それも初恋相手がウチに来るのは一大事だ!ああああああああ頭がぁぁ!


モールのフレッシュマートに入り、買い物かごを片手に店内を見て回る。この間、西河さんは周りをうろちょりし色んな物をカゴに入れようとしてきた。まるで子供だ。

「なぁ。」


「なに?」


「なんで俺にグイグイ来るんだ?別俺じゃなくても…」


「…嫌なの?」


「いやそういう意味じゃなくて、なんかこう、まだ会って数回なのに家に上がり込もうとするのってなんか、奇妙というか何というか…」


「…そう、じゃあ私帰るわ。また来週ね、大馬くん。」


「え、ちょっと西河さん?」


まずい。非常にまずい。彼女の気に触ったかもしれない。あああああ、失敗した!あんな質問しなきゃよかった!ああああ!怒ってるかな!?怒ってるよな!?ああああ分かんねー!どーしよ!ああ!


帰宅し一人薄暗い家で軽く晩飯を作り食べた。心の中ではモールのことを後悔して、嘆いて、どうにかなりそうだ。勉強もする気力が起きない。歯を磨きそのままベッドに入り寝た。


日曜日の記憶はない。覚えてることといえば、土曜日の出来事の後悔でずっと挫けてたことだ。今でもその日のことを考えるとどうにかなりそうだ。そんな精神状態で迎えた月曜の朝、テスト当日。学校へ着くと西河さんのことで頭がいっぱいになった。どー会話しよう、そもそも会話できるのか?まだ怒ってるかな?流石に怒ってるよな!?教室に入り着席し西河さんをチラ見する。俺のことなんて見向きもせずに本を読んでいる。あー完全に怒ってるわ。でも一応声はかけておこう。

「あの、おはよう西河さん。」


「おはようございます、大馬さん。」


ああああああああ怒ってるぅぅぅ!なにその敬語俺知らない!「くん」から「さん」にランクダウンしてるし、詰んだ…。

「あの一昨日のこと謝りたくて…」


「一昨日がどうかしましたか?大馬さん。あの件のことでしたら私、怒ってませんわ。」


「ごめん。俺は俺が一方的に悪かった。」


「ふっ。そんなに真剣に謝られたら怒れないじゃない。」


彼女の顔は笑っていた。

「ええ、大馬くんに対して腹は立ってたけどもうどうでもいいわ。」


「え、じゃあ許してくれた…?」


「えぇ、許すわ。でも次はないから。」


ひえぇぇ!怖ぁぁ。

「じゃあお互い、テスト頑張りましょう。」


「ああ。」


「グッドラック!大馬くん。」


「え、ああ。グッドラック、西河さん。」


そして始まるテスト。教室に響き渡るシャーペンを削る音。問題用紙には西河さんと対策した問題がでた。それを見た瞬間、土曜日の記憶が蘇る。1時間半のテストを終え、一気に気が抜ける。

「なーなー柊二ぃぃ!今回、俺やばいかも!」


「今回も、だろ。お前が赤点じゃないテストはテストじゃない。」


「何だよそれぇぇ!ひでぇじゃねぇかぁ!」


まぁこいつは絶対赤点だろうな。で俺は今回のテストは多分80近くは取れると睨んでる。

「大馬くん、どれぐらい自信ある?」


「80近くってとこかな。」


「あれ意外と高いのね。」


「まぁな。自信はある。」


その日は他に物理と化学のテストを終え帰宅した。一週間のテスト期間を終えようやく長い夏休みに入る。長い長い夏休みに。


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