ミリオン・スター
不細工マスク
「What do you imagine?」
世界は毎秒変わり続けている。見えないところで知らない人が死んでるし生まれてる、新しい草木が生えてたり枯れてたり、毎日同じ日が繰り返すことはない。失ったものは帰ってこない。今がどれだけ尊いものかなんて失ってからしか分からない。だから俺は…
ビービービービー
いつも通りの目覚まし音で目が醒める。同じ天井、同じ布団、同じ香り。ベッドから起き上がりクローゼットから制服を出す。着替えを終え一階のリビングへ向かう。ベーコンと卵の匂いを辿っていくかのように体が自然に。
「おはよ、父さん。」
「おはよう、柊二。」
いつも通り台所に立つ父さん。変わらない1日。席につき朝食を食べる。
『U.E.Aアメリカは日本時間午前2:00にテロ組織ソロ…』
ニュースは相変わらず世界で起きてる戦争についてだった。毎日同じような内容で反吐がでる。けどいつもと同じってだけで安心する。
「ご馳走様。いってきます。」
「おおう、気をつけてな。」
朝の匂いはどこか独特だ。新鮮で香ばしい、まるでついさっき世界ができたみたいだ。いつもの景色、いつもの通学路。毎日挨拶してくる畑のおばちゃん。何も変わらない。いい事だ。俺は
「おはよぉう、柊二。」
「おはよ、瑛人。」
「今朝のニュース見たか?怖いよなぁ、あれ。いつ日本にも来るか分かったもんじゃないぞ。」
「ああ、そうだね。」
なんの変哲のない会話。いつも通りだ。やっぱり変わらない日常が一番だ。
教室が生徒で満ち始めた頃に先生が来た。いつも通りだ。
教室はさっきとは打って変わって静かになり起立、礼、着席をする。いつも通り…。
「えー、今日は転校生を紹介する。
いつも通りじゃない《イレギュラー》。
「はい。西河美恵です、よろしくお願いします。」
教室中がまた騒がしくなる。いつも通りじゃない《イレギュラー》。
「はいじゃあ奥の空いてる席に座って。」
「はい」
彼女は、西河美恵は、目を奪われるほど美しく、その黒髪はサラサラしてていい匂いがした。幸か不幸か彼女は俺の隣に座った。
休み時間になると女子も男子もみんな彼女の話題で持ちきりだった。まるでアイドルのような扱いだった。
「ねぇねぇ、どこ出身?」
「東京よ」
「わぁー!東京から来たのー!?すごーい!」
「なんで愛媛に来たの?」
「親の仕事の都合でこっちに来たの。」
「こっちは田舎だから東京とは違うでしょー?」
「えぇ、視界が開けてて気に入ったわ。」
「よかったぁ!」
といかんいかん、盗み聞きは良くない。まぁでもあんだけのでかい声で喋られたら嫌でも聞こえてくる。
「なーなー柊二。」
「ん?なんだ」
「西河さんってモデル級に可愛くねーか?」
「あー、言われてみれば。顔は整ってるし高身長だし。どっからどー見ても美人だ。」
「あー、このクラスでよかったわー。俺、一生の運使ったかもしんねー。」
「んなわけ。」
まぁこれぐらいのイレギュラーなら数日で日常風景になる。結局は何も変わんない。また明日も変わらない日が続く。
学校の帰り道いつも通り重信川を渡る。重信川を右手に歩いてく。犬の散布をする田中のじぃちゃん、チャリで下校する生徒、あぁ何も変わらない。誰もいない家に着くと真っ直ぐに二階の自室に上がった。電気をつけて勉強机に課題を広げる。数時間課題と予習をして父さんが帰ってくるのを待つ。帰ってきたら晩飯を一緒に食べ、風呂に入り床に着く。そしてまた変わらない明日を…
自然に目が覚めた。これもまたイレギュラー。時計に目をやる、ディスプレイが消えていた。遅刻だ。急いで服を着替え階段を下ってく。水曜はいつも早めに出勤する父さん、だから遅刻しても気づかない。悠長に朝飯を食ってる場合じゃなかった。とりあえずリビングにはいかず玄関に行き靴を履いて走った。畑のおばちゃんはいない、他の生徒もいない。イレギュラー。走って走ってついた学校。でも不思議と学校は静まりかえってた。上履きに履き替え教室に歩きながらスマホに目をやった。7:40 分と表示されてた。つまり俺は遅刻したんじゃなくて早起きしたと言うことだ。あーあ、早とちりしちまった。仕方なく教室に入ると先客がいた。美しいぐらいに綺麗な姿勢で静かに本を読んでいた。
「あら、あなた早いのね。」
「あ、いや、今日はたまたまというか…」
「お名前、なんでしたっけ?」
「大馬柊二。隣に座ってる…」
「ええ、そこは覚えてるわ。おはよう、大馬くん。」
「あ、おはよう。」
さりげなく後ろを通り席に着く。二人っきりの教室で特に話すこともなかったので気まずい雰囲気が漂った。
「大馬くんはずっと愛媛に住んでるの?」
「え、ああうん。生まれた時から。」
「じゃあここらへんも詳しいのね。」
「それほどでも。俺はあんまり外出しないから。」
「あら、お友達は?」
「ストレートに訊くね… いるにはいるけど俺は外出するより家でのんびりしていたい性格だから。」
急な質問に少し困惑した。
「西河さんはなんでこの時間に学校にいるの?」
「んー。家にいても別にする事がないと言うか、たまたまかな?」
「そう…」
気まずい。ああ早く誰か来い。気づくと着々と生徒たちが登校してきた。30分もしないうちに学校は生徒で満たされていった。いつも通り授業は進行していき、予想通りいつもと変わらない1日になった。なったはずだった。
「ねぇ大馬くん、君もカラオケ行かない?」
「へ?」
「今日どうせ暇でしょう?鳥居くんと田中くんも来るって言ってるし。」
鳥居とは瑛人のことで田中も親しい友達ではある。
「いやぁ、俺は…」
「私は大馬くんが来てくれたら嬉しいかな?」
「えぇ。」
さぁどう断ろう。西河さんの後ろで女子がヒソヒソしながら睨んでくる。正直面倒事は起こしたくない。ここは潔く断って…
「え!柊二も来んのか!珍しいな!」
「え、いやまだ決まったわけじゃ…」
「ええそうなのよ。大馬くんも行きたいって。」
ニヤリと笑いやがった。西河さんは何を考えてんだ。これはもう引き下がれない。
「分かった、行くよ。」
「そう言ってくれるって期待してたわ。じゃあいきましょう」
言われるがままカラオケに行くことになった。男子メンバーは俺を含め田中と瑛人の3人だ。女子は西河さんを筆頭に松浦さんと樋口さん。3人とも美女だ。それにこの5人はどれも陽キャだ。それはどちらかと言うと陰キャ寄りだ。
「なーなー柊二!なんで今日は参加するって言ったんだ?お前まさか西河さんに気が…」
「なわけねーだろ。あれは半ば脅迫だよ。」
「そーなのかなー。」
カラオケに着いて室内に案内される、どうやらネットで予約してたみたいだ。
「みんな何歌う?」
「おれ『白雪』!」
「あたしは『メリーブルー』がいいかな。」
「じゃあ私は『六本木ナイト』を歌いたいかな。」
「おー、だいぶ渋いねぇ!」
「お母さんが好きで良く聞いてのよ」
各々が好きな曲を端末に入れてった。
「大馬は?何にする?」
「ええとじゃあ『タイム・シェイプ』で」
「はいよー」
「その曲10年以上前の曲よね?」
「ああ。父さんが好きで良く聴いてたんだ。」
「親の影響って意外と強いわよね。知らず知らずに自分にも染み付いてしまってるもの。」
そう言う彼女はどこか寂しいような悲しいような目をしていた。室内は音楽が響き周りはノリ良く相槌を打つ。
「ねぇ、西河さん。」
「なに?」
「なんで俺を誘ったの?」
「なんでって、んー?さぁなんでだろうね。」
そう笑った彼女の顔を見て胸がドキンとした。あぁ、これが恋なのか。俺は今、西河美恵に恋をしている。そう実感した。
1時間半で俺たちは解散した。たまたま俺と西河さんは同じ道を通った。大通りをずっと真っ直ぐ沈黙のまま歩いていく。何を話せばいいか全くわかんない。でもその沈黙を破ったのは意外にも彼女だった。
「ねぇ、大馬くん。」
「な、なに?」
「君を誘った本当の理由、知りたい?」
意外な質問だった。けど答えは決まってた。
「もちろん知りたいさ。」
「うーん。じゃあ私と100回デートしたら教えてあげるわ。どう?乗る?」
おちょくってるのかマジなのか分かんない返答だった。
「なんだよそれ。冗談?」
「あら?私は至って真面目よ?」
「じゃあ考えとくよ。」
「それは要求を飲んだってことでいいのよね?」
「好きにしろ。」
「じゃあ私が君に連絡するから絶対返事をするのよ。絶対よ?」
「わーったって。」
「ん」
「え」
「ほらスマホ出しなさい。連絡先交換するわよ。」
「え」
「何よ、RIMEぐらい持ってるでしょう?ほら貸して。はいこれでいつでも連絡できるわね。」
「そんな強引な。」
「じゃあ私こっちだから。また明日、大馬くん。」
「ああ、また明日。」
なんか知らんが胸バクバクする。いや知ってる、はぐらかすのはやめよう。俺は西河美恵に恋をしてる。この気持ちは嘘をついちゃいけない。
いつもの橋を渡った。でもいつもと違う。外は暗かったし人もそんなにいなかった。たまにはこんな日もいいな。そう思いながら帰宅した。
To be continued...
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