「New Year, New Me」
夏休みも残り2日となった。相変わらず外は暑く、とても運動できる環境ではない。暑さで何をするにもやる気が出ない、困ったもんだ。いつも通り朝飯を作りテレビを見ながら食べる。テレビではまだテロリストのことでいっぱいだ。正直うんざりだ
「速報です!たった今インドネシアで大規模な攻撃がありました!」
嫌な冷たさが全身を駆け巡った。
「テロ組織でしょうか?今U.E.Aと思しき者と交戦中です!煙が立ち上がっているのは工場のように見えます!」
悪寒。
「向井さん、そちらの状況は!」
『ただいま数キロ離れたところに居ます。奥に火の手が見えます!U.E.Aの先制攻撃との情報がありました!ものすごい音です!』
おかしいな、真夏なのに体が震えてる。
「そちらの状況は把握できますか?」
『いえ、U.E.Aアジア本部はまだ作戦内容については言及しない方針のようです。途中、U.E.A兵士に−…』
目の前が暗くなり体が落ちる感覚がした。胸の鼓動は体全身が脈打つかのように大きく鳴り、脳に響く。立ち上がろうにも足に力が入らない、体が拒絶している。あぁ…
一本の電話が鳴った、あれから何時間立ったかは知らない。全身の力を足に集中させ何とか立ち上がり携帯を手にした。端末には「父さん」と表記されてた。恐る恐る電話に出る。
「もしもし」
知らない日本人の声だった。
「…誰ですか?」
「ええと、U.E.Aの者です。大馬柊二さんで間違いありませんか?」
「はい、僕です」
「大変言いづらいのですが、あなたのお父様、大馬光太郎さんは先ほどお亡くなりになりました」
「…」
「彼は最後にあなたに電話をしようとしていたところで息を引き取ったようです」
「…」
「お気持ちは分かります。どうかお気を強く保ってください」
俺の気持ちが分かるものか薄情者め、唯一の親を亡くして正気を保っていられるか。あぁダメだな最近、ずっとイレギュラーが続いてる。何でだ何でだ。何で俺ばっかり。
何時間経ったかわからない 今どこにいるかさえも 薄暗く冷たい 何も聞こえない。いいやこのままじゃダメだ、父さんも見て呆れるだろ。立ち上がってちゃんと現実を見なきゃ。立て立て立て立て!
「柊二!」
聞き慣れた声がした。声の主は俺の体を支えて起き上がるのを手伝ってくれた。
「さ…いかさん…?どうして…ここに…」
「そんなことより大丈夫あなた!?連絡がないから家に来てみれば…」
「実は…さっき」
事の顛末を簡潔に話した
「そう…それは辛かったわね」
「…」
「ねぇ、少し外歩かない?」
「…ああ」
外は少し肌寒かった、コートを着ていて良かった。俺たちは大通りとは真逆の方向に歩いて行った。俺の覚えている限りではこっちは廃墟があったり、森があるだけだ。特に面白くはない。道中会話はなく俺たちの間にはただただ沈黙が流れ、俺は彼女の後ろを歩くことしか出来なかった。長い長い間歩いた気がしたしあっという間だった気がする、たどり着いたのは森の奥深くにポツンと点在する古い民家と開けた土地だった。不意に懐かしいと感じてしまった。
「昔はよくここで星を眺めてたわね」
「え?」
彼女の顔はどこか寂しそうでもあり遠くを見つめていた。見上げた空には埋め尽くすほどの星があった。星は空全体にぎっしりと敷き詰められていた、家でも見た事ない光景だ。
「多分、ここがあなたの夢の発射地点だったのよ」
「どうして…」
「どうしてって、あの日ここで私と見たじゃない。思い出しなさい」
あぁそうか、どうして記憶の隅なんかに置いてたんだろう。俺は彼女を知ってる。そうか君が、
「岩倉美恵ちゃん。そうか、君だったのか」
「やっと?本当に感心しないわね、」
「いや、分からないよそんなの。ここに来なかったらマジで分からなかったよ」
10年ぐらい前の夜、俺らは家族でバーベキューをしていたが、1時間も経つと親は酒を飲んでるだけだった。そこを狙って俺らは森に探検しに行こうということになったそしてここを見つけた。
「ねぇねぇ、しゅうちゃん!こっちこっち!」
「ねぇ、ちょっと、まって…はっやい!」
「もー!早よしてー!ほーらー!」
「そのちっこい体のどこに…そんな体力、あるんだよ…」
森の中をまっすぐ躊躇なく進んでいった彼女、岩倉美恵の後を追ってついたのがこの古民家だった。
「なにあれ、ハイキョ?」
「みたいだね」
「わぁー!見て上!」
「上?あ、」
はじめて見る100%の輝きだった。
「きれーねー」
「そうだね」
「こんなにきれーな星見たことないなぁー」
「…」
「?どうしたの?」
「おれ、将来宇宙飛行士になりたい」
「うちゅう…?なにそれ」
「君はちゃんと授業聞いてるのか…?まぁ簡単に言えば空よりも上にある場所に行く人のことだよ」
「ヒコーキの人みたいなぁ?」
「うーん。それよりもっと上」
「そんなところ行ってどうするのー?」
「いろんな星を見に行きたいかな」
懐かしい記憶。過ぎ去った記憶。ああ、
「思い出したよ、全部」
「それで?言わなくちゃいけないことがあるんじゃない?」
「え?」
「はー、まったく… ちょっとそこ座りましょう」
「あ、ああ」
俺達は芝生に座った。木々の隙間から流れる風が心地よい、なぜかずっとこうして居たかったかのような感覚だった。
「すこし前の話をしましょうか」
「うん」
「私の家族はお父さんの仕事の都合で東京に引っ越すことになったの。今でも覚えてるわ。引越し当日、私たちは会えなくなるのが嫌で二人泣きながらこの森に走って逃げてきたの」
「そーだっけ?ごめん、まだ思い出せないや」
「でね、その時に柊二は私に言ったの『また会ったらずっと一緒にいられるようにケッコンしよう』って」
「え」
「もちろんそれをずっと信じてたわけじゃないのよ?でもね、また会えるってわかった時、少しドキドキしてたの、あの日を言葉を思い出しちゃって。もしかしたら柊二もあの日のこと覚えてるのかなーなんて思ちゃったりして。でも、修二は私のことなんて覚えてなかった…」
「ご、ごめん…」
「ううん、いいのよ。10年も前のことなんて覚えてる方が変よ」
「…」
「あーもう!焦ったいんだから。要するに、私は今でも柊二のことが好きなの!それぐらいわかってよ!」
「え、ああ…ちょっと急すぎて、色々ありすぎて、脳の処理が追いつかなかった。ごめんだけど、答えは保留にしてもらえる?ちょっとね…」
「あ、うん…それはもちろん!もう10年待ってたんだから、数日末ぐらいへっちゃらよ!じゃあ私は先に帰るね、バイバイ!」
「え、ちょっと!…10年前と大して変わらないなぁ、彼女は」
変わらない?ちゃんと変わってるじゃないか。俺はいつまで逃げるつもりなんだ。俺が過ごしてきた中で、ただの一度でも変わらない事があったか?いいや、なかった。現実から目を背けないで、ちゃんと受け止めないと一人の人間として失格だ。なら今どうする?あのまま彼女を一人にしていいのか?
「美恵!俺は…!くっ…!まだ間に合う、そう遠くまで行ってないはずだ!」
俺は走った。暗闇の中をがむしゃらに。何度転けたか、何度滑ったか。でも立ち上がった、立ち上がってまっすぐに、そして確実に彼女、西河美恵の元へ
「美恵ぇぇ!!俺はぁ、君が好きだぁ!!それが俺の、答えだぁ!!」
ああもう走れない、さっきのが全力だ、もう足に力が入らない。心臓の鼓動と息を取り込む音で周りの音はかき消される、ただ耳鳴りだけは確実に聞こえた。
「柊二!!」
「美恵さん…!俺…うぐっ、俺は、逃げてきた。現実から逃げてきた!そんな…うっ…そんな俺をッ!許してくれますかッ!」
「…はいッ!!もちろんッ!」
〜数日後〜
あの後は何があったか覚えていない。でもすごく恥ずかしいことをした気がする。でもそれでいいんだ。何もかも逃げてやらないよりはやって後悔した方がずっといい。だから俺は今日から全く違う生き方をしようと思う。もっと人と関わって、もっと笑って、幸せになろう。毎日を新鮮な1日にしよう。そうして迎えた高校3年の新しい朝、一見いつもと変わらない空気の教室のようだが、俺にはそれすらも新鮮に感じる。そして、
「おはよう、柊二」
聞き慣れたようで、待ち続けていたような、そんな声に、俺は胸の高鳴りの意のままに返事をしよう。
「あぁ、おはよう美恵」
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