【祝!優秀賞!】じつは披露宴で司会と余興をすることになりまして…
考えたい
じつは披露宴で司会と余興をすることになりまして…
「只今より、真嶋涼太並びに姫野晶両名の披露宴を執り行いたく思いますが、」
と、上田光惺はここで言葉を切った。何故か光惺が司会のテンプレを喋りだした途端に、式場スタッフがベリベリ天井を剝がし始めたのだ。
他の参列者たちも光惺と同様に突然天井の板を剥がし始めた式場スタッフたちに呆気に取られている。
(おいおいおい、こんな訳の判らぬサプライズするならせめて司会の俺に一言前もって言えよ。あ、今度の打ち上げの焼肉奢らせよ。)
「あの~、突然恐縮なのですが、これを参列者の皆様に被って貰うことになります。」と突然ガタイの良い式場スタッフから大声で宣告された。
で、配られたのはヘルメットであった。しかも鉄製で重たい。横には「陸上自衛隊」と白色のゴシック文字が印刷されてあった。
「皆様の安全のためにこれを付けていただくよう新郎新婦様から仰せつかっておりますのでご協力をお願い致します。なおこのヘルメットは近所の陸上自衛隊有栖駐屯地から貸し出されたものですので大切にお使いください、皆様の血税でございますので。」
光惺が式場スタッフの説明を聞き流しながら(ほう、これが音に聞くテッパチか。)とどこで仕入れたのか忘れた雑学を頭の中で軽く反芻しているうちに、天井板が粗方外し終わったようである。
天井を仰げばまあ吃驚、天井板外す前の高さの四倍近くはある天井と、その下に張り巡らされている複雑なケーブル。そして宴会場の真ん中に不自然に在る空いた広いスペース。
それらを見てあの二人が何をせんとしているのか察しがつかないほど光惺は間抜けではない。
ただでさえあの二人には俺が腐ってた時代の恩が山ほどある。その上、これは「メンデルの法則には血が通っていない」という涼太の自己呪縛から涼太が解放される最高の機会かもしれない、いや確実に解放される。そう考えるとあのチンチクリンの力も大したものだ。
そう思う光惺の口元は少し緩んでいた。さあ、あとはあいつらのお望み通りに。
時は幕末黒船来航による未曽有の国難の時代、多くの志士が明日の日本のためと或る者は技術を、或る者は商いを、或る者は言論を武器にして戦った時代であります。
そのような時代の中、古より続く武士道の範に法り剣で戦う者も居たのであります。
彼らの刃の鋭きこと、この上なし。その刃で突き刺すは太陽か月か、ここに徳川を背負いし徳川慶喜公と新撰組の女傑中沢琴の一騎打ち、始まり始まりィ!
光惺は見事にあの二人を読み切り、最高の援軍を出したのである。
光惺の語りが合図だったのか、天井の二か所で同時に穴が開き、ウィーンとゴンドラが二台降りてきた。それぞれに、侍の格好をした涼太と晶が乗り込んでいる。
そして二人は同時に抜刀し、睨み合った。
先に口火を切ったのは晶である。
「嫁に欲しくば、打ち負かしてみよ!兄貴!」
流石役者をやってるだけあってその演技力も光る。
「ならば勝ってやる!」
おっと、これは演技ではなくガチな様子。
そして二人は同時にゴンドラから飛び降りた。
滑車でワイヤーにぶら下がりながら、二人は空中で動線が交差する瞬間に刃を交える。そして壁に着地し壁を蹴り返す。
アクロバティックな剣の勝負に皆が圧倒される、光惺だってそうである、(実写版鬼〇の刃みてえ…)と。尤もモデルはまた別に在るのだが。
試合も終盤に差し掛かり、真ん中の空きスペースで純粋な剣道試合が繰り広げられていた。といっても剣道経験者からすればとんでもない試合ではあったが。
そしてとうとう、カキーンという音とともに、晶の剣が床に落ちた。
「クッ、降参だ兄貴。」と負けたのに嬉しそうな晶。
「降参だな、じゃあいくぞ。」と涼太は顔を晶に近づけていく、近づけていく、近づけていく……
「フヘ、フヘへへへへ。」となかなかに気持ち悪い笑い声に真嶋涼太は起こされた。
横を見ると幸せそうな顔で涎を垂らしながら寝ている晶の姿があった。がすぐに晶は薄目を開け、目を覚ました。
「あれえ兄貴、もうお色直しするの?」と寝ぼけた声で訊いてくる。
「おい晶、今何時だ?」
「えっと、ちゃんと披露宴を開くまであとすこしだからぁ~、」
「…えっ?」
「そうだね兄貴、早速余興でエンサムの真似したんだし、ひなたちゃんたちも待ってるから早く…」
そのまま晶はスピイと寝てしまった。
涼太は最初こそ恥ずかしさで眠れなかったが、頭が冷静になるにつれて「披露宴でエンサムの真似とは如何に…?」という疑問に不眠の原因がすり替わってしまったのであった。
【祝!優秀賞!】じつは披露宴で司会と余興をすることになりまして… 考えたい @kangaetai
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