第14話 海
立花くんから告白されてから二週間ほどが経った。
私は立花くんから来た連絡にうん、とだけ返信しそれから連絡は取っていないし顔を合わせてもいない。あれから私は立花くんので頭がいっぱいになって、野依とのお泊りも、朱音先輩との遊びだって上の空で過ごしてしまった。
でも今日は立花くんが海の家でバイトしている日。すなわち海に出かける日。吉柳くんも朱音先輩も予定が合い、そこに朱音先輩の彼氏もいれた四人で海まで出かけた。電車の中は人でいっぱいで大変だったけど久々の海の匂いに苦労して来たかいがあったと思った。
「それじゃ、りんご飴の前集合で!」
男女で別れ、更衣室で着替えを済ます。私は海にもプールにも行くことがなかったので野依と水着を先日買いに行った。だから目をあまり汚すことはないだろう。
水着姿になった野依と朱音先輩は贔屓目に見ても綺麗でスタイルが良くて、到底隣を歩けそうにない。海にはしゃいでいる二人は私の腕を引き、集合場所へ戻る。そこからは慌ただしくて。浅瀬で足を水につけたり、持ってきていた浮き輪を膨らませて遠くへ行ったり。ラブラブしている朱音先輩カップルをからかったり。お昼になるまで日焼けを気にすることなく存分に遊ぶことができた。
「あ! 陽太いた!」
「おお。随分疲れきってるな」
「朝から出っぱなしだったからね! おすすめはなんですか~?」
お昼は立花くんが働いている海の家でご飯を食べる。人が多くて賑わっているそこはばたついていて、立花くんは到底出て来れそうにない。私は先に席取りをしようと周りを見渡していると。
「あれお姉さんひとり? 俺らと一緒にどう?」
「えっと。連れがいるので大丈夫です」
「そう言わずにさ~」
日焼けした肌に派手なネックレス。目元にはサングラスをしていていかにも、な人が声をかけてきた。私はただ席を取りに来ただけなのにどうしてこうなるんだろう。もっと他に可愛い子いたはずなのに、なんて溜息をつきながら考えていた。すると後ろから誰かに肩を抱かれた。
「お客さんすみませんね。この子俺の女なんで、ご勘弁ください」
「たち、ばなくん」
「うわ、イケメンな彼氏じゃん。美男美女イケてる!」
「あざっす! よければビールなんてどうすか?」
「最高じゃん!」
上手く別の方へ話題を寄せたようで、立花くんは少しの接待に行くため私の肩から腕を退けた。傍にあった熱がなくなって、どこか寂しさを感じた。接待はすぐに終わり、立ち尽くしたままの私のもとにすぐ戻って来た。
「日和大丈夫? 絡まれてるの見えたからつい。てかなんで一人行動してんの?」
「……席取ろうと思って」
「そういうこと。みんなの席は俺が予約席ってことで取ってるから大丈夫。ほらあっち」
私は立花くんに手を引かれ、少し遠くに見えたみんなのもとへいく。繋がれた手は思っていたよりも大きくて、熱かった。
辿り着いた席は広々としていて、日陰で最高だ。
「日和! どこ行ってたの? 絡まれなかった? 大丈夫?」
「そんな一気に言ったら日和困惑するだろ。男には絡まれてた。だからしっかり見ててくれ」
「日和ちゃんしっかり団体行動しようね?」
「……ごめんなさい」
そんな姿に朱音先輩と彼氏さんは大爆笑。まるで小さな子供のよう、だと比喩された。そして三人は保護者組と称された。立花くんは一通り笑うとバイトに戻って行った。今日は友達が来る、と言ったら休憩時間なしの十四時にあがりになったらしく、それから合流になった。
海の家でご飯を食べ終わり、私は少し疲れたのでパラソルの下で朱音先輩と休むことにした。浅瀬で三人が借りたビーチボールで遊んでいるのが見える。
「ねえ日和ちゃん」
「どうかしました?」
「私ね陽太くんから日和ちゃんに告白したこと聞いたの」
「……」
「日和ちゃんはそれどころじゃないって分かってるけどね、どうしても今の貴方の気持ちが聞きたいの。まとまってなくてもいい、ありのまままの気持ちを」
暑さでおかされていた頭が正常に働く。朱音先輩は知ってた。私と立花くんの今の関係。立花くんの口からいつかのタイミングで聞いたのだろう。たぶん、野依と吉柳くんも知ってる。
私は膝を抱えて俯いた。あれから沢山考えた。立花くんとどうやって話そう、どうやって接しよう。どうやって、どうやって。でもそれは考えれば考えるほど、まとまりがなくなって。でも確かなことは優吾くんの時とは違う思いがある。これは自分で知らないふりができないぐらい大きくなった。この気持ちにどう名前をつけるか私には分かる。
でも今の私は臆病で。その気持ちを素直に受け止めることができない。前のように恋愛で誰かを傷つけたくない。また上手くいかなかったら……。
黙り込む私に朱音先輩は気を遣い、質問を投げかけることにしたらしい。
「日和ちゃん。一つだけ、質問していい?」
「……はい」
「もし、陽太くんがナンパされてたとして。日和ちゃんはそれを見たらどうする?」
「……わかり、ません」
「分かった。急にこんな話してごめんなさいね? 私あっちに混ざってくるからゆっくりしててね」
立ち上がった朱音先輩を追いかける気力が私にはなかった。
立花くんがナンパされているのなんて想像がつかない。その場にいってみないと分からない。でもナンパさているのを優吾くんに置き換えてみても、私は今までと違い何も感じなかった。
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