第13話 背中を押して

 俺は日和に告白したことを後悔していた。あれからお互い課題が全く手につかず、ものの三十分で解散することになった。今はそんな帰り道。暑く思考がぼやけるなか、それだけを考えていた。


 日和が俺を好きになることなんてない。俺は優吾みたいにイケメンじゃないし背だって低い。優吾が初恋だと言っていた日和にとって最初の男は基準になる。基準の男に俺は勝てそうにない。それでも、俺はまだ優吾を好きだと泣く日和を俺は慰めたかった。幸せにしてやりたい。


 ただ、最近はそれだけを思っていた。


「あれ? 陽太くんじゃない?」

「吉柳先輩……颯汰も一緒に親戚のところへ行ってたんじゃないんですか?」

「どうして知ってるの?」

「日和に聞いて……」

「そうなの。親戚のところへは行っていたわよ? でも早めに終わってね。日和ちゃん誘おうかと思ってたけど電話通じないから自宅に帰ってる途中なの」

「そう、ですか」

「何かあった? 日和ちゃんと」

「……どうして分かるんですか」

「だって陽太くん日和ちゃんのこと好きじゃない?」

「どうして⁉」

「まさか気づかれてないと思ってたの? 朱音さんにはバレバレです」

「相談、というか懺悔を聞いてくれますか?」

「勿論」


 俺は途中で遭遇した吉柳先輩と近くのファミレスに入った。辛気臭い空気を出す俺と家族連れで賑わうファミレスに俺の場違い感は半端なかった。

 ドリンクバーだけ頼み、俺は先輩へさっきあった出来事を話した。うんうん、と相槌を打ちながら話を聞いてくれる先輩に心が少し楽になったような気がした。


「そう……一概には言えないけどね、恋愛の辛さは恋愛で塗り替えるの」

「え?」

「私も私の友達も凄い辛い恋愛をしたけど今はお互い大切にしてくれる彼氏に出会って、その傷は浅くなった。なくなったわけじゃないけどいい経験として置き換えることができたの。私は日和ちゃんもそうなれると思ってる。だから日和ちゃんを追い詰めない程度だったらいいんじゃないの?」

「先輩……」

「私個人の意見だけどね。野依ちゃんにも言ってみたら?」

「野依には、怒られる気がします。日和をまた傷つけるのかって」

「案外そうじゃないかもよ?」

「……そう、あることを願って今日相談してみます」

「頑張ってね。後輩が幸せになることを誰よりも願ってるのは私だからね」


 そう言う吉柳先輩は俺の背中を押すだけ押して去って行った。

 

 背中を押されたままその足で野依の家へ向かった。中学は同じで家だって遠い距離じゃない。今日は颯汰と出かけるって言ってたしいないかもしれないけど、と思いインターホンを押すと野依のお母さんが出た。

 野依が在宅しているか聞くといるらしい。そこまで関係がいっているとは思っていなく驚いているとばたばたと中から音がし、勢いよく玄関が開く。


「陽太! ど、どうかしたの?」

「颯汰と遊んでるとこごめん。今話したいことがある」

「……それって吉柳も聞いていい話?」

「むしろ聞いてもらえる方が有難い」

「分かった。私の部屋に階段上って右側の部屋だから扉にプレートあるし! 先に入ってて」

「ありがとな」

「良いって。陽太のジュース持っていくから待ってて!」


 俺は階段を上り、〝野依〟と書かれたプレートのかかった扉を開く。そこにはベットで寝転んでいる颯汰の姿が目に入った。やましいことは一人でしていないとは思っていたがまさかベットに寝転んでいるとは思わず、お互いに固まる。


 少しすると慌てて颯汰がベットから下り、俺を中へ入るように催促した。


「……もしかしてもう付き合ってたりする?」

「まだ。でも日和ちゃんのことが落ち着いたら付き合おうって二人で話してる」

「マジか。ビビったわ」

「陽太にも近々話そうとしてたんだよ。悪いね」

「いや、別にいいんだけど」

「んで? 陽太はここに何の用?」

「野依に話したいことがあってな。颯汰も一緒なら話が早いし、聞いてくれ」

「それってナイーブな話? 今ナイーブはごめんなんだけど」

「日和の、日和関連の話。これならいいか?」

「分かった」


 それから飲み物を持った野依が戻って来た。座り込む俺らは全員真剣な表情をしていて。俺は今更ながらに自分のしてしったことへの責任を実感していた。吉柳先輩はああ言ってくれたけど二人がどう思うかは別で。俺はもう、二度と日和と話すことさえできないかもしれない。


 そう思うと辛くて、胸が張り裂けそうになった。

 沈黙が続く中、俺はようやく言葉を発することができた。


「……俺、日和に告った」

「え。冗談、きついわよ」

「冗談じゃない。俺、今日日和に告った」

「なんで。なんで今なの⁉ 今じゃなくても、もっと他にあったよね⁉」


 声を荒げる野依と何も言わない颯汰。こうなることなんてどこか想像していたはずなのに現実はその通りになった。俺はタイミングを間違えて、また恋愛で日和を傷つけた。


 今度は自分自身で。


「陽太が日和ちゃんのこと好きだって気づいてた。別にそれを咎めるつもりなんてないよ。でもね、どうして今告白した? 理由を説明して」

「……今日、日和があの日以来初めて一人で水無月さんと優吾に会った。俺は途中から割って入ったけど二人が出て行った後に日和、泣きながらこう言ったんだ。〝こんなに嫌われていても優吾くんのことまだ好きな自分にしんどくなった〟」


 二人は息を飲んだ。日和が優吾のこと完全に吹っ切れらなんて思ってない。でも今だ優吾のことを思い泣く日和に自分達の想定よりも回復していないことに辛くなった。


「俺、そんな日和を見てられなくて。つい言っちゃったんだ。俺を好きになってほしいって」

「……ごめん。ごめん陽太っ」

「誰も悪くない。ただ俺が早とちりしすぎた。それだけだよ」

「陽太。僕ら、陽太の背中押してもいい?」

「勿論」


 泣きじゃくる野依を颯汰へ託し、俺は野依の家を出た。

 帰り道、日和には〝告白のことは気にしないで。夏休み楽しみたい〟ただそれだけを送った。

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