第8話 告白

「日和! やったじゃん!」

「おめでたいな!」

「ありがとう」


 昼休憩。私は立花くんと野依と教室でお弁当を食べていた。二人は借り人競争で私が優吾くんを借りることができたことを喜んでくれた。野依に至っては少し涙目。周りは静かで今日は色んな所で食べることができるから教室で食べている人は少ない。

  

 優吾くんも例に漏れず、不機嫌になった水無月さんに連れていかれた。そんな二人を見ても心に余裕は持てているのは水無月さんより優先してもらえたからだろう。


「水無月、悔しそうだったね。なんていうか」

「ちょっとな……まあでも優吾が日和を選んだから気にすんなよ!」

「それ優吾くんにも言われた。そんなに私が気にするように見える?」

「「見える」」

「えぇ……」

「ま、午後一発目は応援団だし張り切ってかないと!」

「そうよね! そろそろ集合時間だし着替えて行こうか」


 私はお弁当を片付けチアの服を持って教室を出た。すると扉の近くで私を待ち構えていたかのように水無月さんに遭遇した。私と野依は顔を合わせ、見ていないフリをしたがそうはいかなかったようで。


 呼び止められた私は野依と立花くんに先に言うように言ったが二人は聞く耳を持ってくれなかった。心配なんだろう。でも立花さんも応援団だし話す時間は短いだろう。私は無理やり二人を送り出し、水無月さんと共に無人になった教室へ入った。


「なんのつもり? 優吾に手出して」

「手を出したつもりはないけれど。水無月さんこそ優吾くんと一緒にいなくて大丈夫なの?」

「……煽ってるつもり? ずっと一緒にいたからそうはいかないけど」

「そんなつもりはないわよ」

「借り人競争。優吾は先に連れ出された斎藤さんに気を遣っただけだから。図に乗らないでよ」


 本人から言われると胸に刺さるものがある。優吾くんだってもしかしたらそのつもりで私を選んだのかもしれない。彼女には自分が説明して機嫌を取るから気にしないで。聞いたはずもない言葉が彼の言葉で脳内再生される。優吾くんが水無月さんを大事なのは分かっていた。分かっていたはずなのに彼女の口からずっと一緒にいた、気を遣ってるだけなんて言われると持っていた自信が、余裕がなくなる。


「優吾は私と別れてないし尻軽女になりたければなれば? まあ、私は取られる気ないけど」


 強気な発言をして彼女は教室から出ていく。時計を見れば集合時間はもう迫ってる。


 でも私はこの場から動くことができそうになかった。


「そのままでいるつもり?」

「……吉柳くん」


 扉を開けて学ラン姿の吉柳くんが教室へ入って来た。私達の会話を聞いていたのだろう。不機嫌そうな顔が目に入る。


「あんな女に負けっぱなしでいるつもり? 彼女なんてただの立ち位置に過ぎないじゃん。法に触れるわけじゃないんだし取っても問題ないよ」

「そんなの分かってる。分かってるけど……」

「うじうじしてたらそれこそ優吾に嫌われるよ。アイツ弱い女好きじゃないよ」

「なら。なら私はもうすでに無理じゃない」

「まあね。でもまだ手遅れじゃない。だって優吾にバレてないじゃん」

「それ、は」

「応援してくれる友達、いるんだろ? なら負けるわけにいかないじゃん」


 そうだ。私には野依と立花くんがいて。二人は少しのことを成功しただけであれだけ喜んでくれた。私が人を蹴落としたのに喜んでくれた。誰よりも、私と優吾くんのことを気遣って。


 私バカじゃん。ほんと自分のことしか考えられてない。誰だけ分かっていたはずなのに。


「吉柳くんありがとう」

「分かったならいい。今度朱音にでも相談すれば? 彼氏いるし親身になってくれるよ」

「うん。体育祭終わったら相談してみる」

「なら早く着替えて。時間、間に合わなくなる」


 吉柳くんが教室を出て行った。私は急いでチアに着替えて吉柳くんと共に集合場所へ向かった。


 そこには心配そうな顔した野依と優吾くんと話しながらもどこか不安そうな顔をした立花くんがいた。二人は私の姿を見るとほっとしたような顔をした。


 私には大事な友達が沢山いる。傷つけたくない友達が沢山いる。頑張ったら、頑張っただけ幸せになってくれる友達がいる。


 私は優吾くんを諦められない。そんな気持ちをみんな分かってくれている。そんな人をもう一度傷つけることがないように。私は頑張らないと。


「赤団行くぞー‼」


 団長の掛け声で始まる応援合戦。私達赤団は一番手。毎日毎日練習したダンス、掛け声。前には学ランを着た優吾くんが汗を流しながら精一杯頑張っている。その明るくて、誇り高い背中を見ながら私も精一杯頑張った。不純な動機って言われても仕方ない。でも、私はその背中を見つめることで更に頑張ることができたのだ。


「赤団お疲れ! めっちゃよかったよ!」


 全団の応援合戦が終わり、涙目の団長が称賛した。私達はそれだけでここまで積み上げてきた努力が報われたような気がした。応援合戦に順位はないし点数だってない。ここでの頑張りが団のためになるわけではない。でも確かに誰かの勇気になることができた。誰かの背中を押すことができた。応援とはそれだけで成り立っている。団長の掛け声で全員円陣を組み、ここからの応援に更に気合いを入れた。


「日和ちゃん」

「優吾くん。どうかしたの?」

「ちょっといい?」

「うん。ここから応援は当分ないしいいよ」


 私は深刻そうな声をしている優吾くんに連れられ、空き教室まで戻った。皆グラウンドにいるからか校舎は静かで二人っきり。こんな状況は久しぶりで心臓が高鳴っているのが分かる。


 優吾くんはどうして私を連れ出したのだろう。でもそれは私にとって良くないことだった。


「加恋が日和ちゃんに詰め寄ったって吉柳から聞いた。本当にごめん」

「気にしないで。借り人競争のことは彼女として思うことはあっただろうし、大したこと言われてないから気にしなくても大丈夫だよ」

「加恋は自分の思い通りにならないとちょっと駆け足で詰め寄っちゃうから。日和ちゃんのこと怖がらせたかと思って……俺の責任だしもしそうなら本当にごめん」

「……悪いと思ってるなら私のお願い、聞いて」

「なに?」

「私のこと好きになって」

「え?」





「私、優吾くんのこと出会った頃から好きだった」

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