第7話 体育祭
「あれ? 日和ちゃん!」
「朱音先輩! 先輩も応援団だったんですね」
「ああ、私は生徒会できた応援団のまとめ役なだけだよ。でもクラスは二組だから同じ団だね! 頑張ろうね!」
「はい」
応援団には朱音先輩の姿があった。そして少し遠くには吉柳くんの姿も。立花くんは吉柳くんを見つけると一早く優吾くんの下へ走った。何かあったのかな?
朱音先輩の下を離れると野依が誰かと尋ねて来たので吉柳くんの従姉だと教えると驚いたような顔をしたが似ている顔立ちに納得した。そしてどこで出会ったのか更に尋ねられ少し大変だった。
「はーい。静かにしろー! 赤団の団長を務める三年の
「副団長の同じく
「生徒会の吉柳です」
「この三人が赤団のまとめだから何かあったら誰かに聞くようにー」
それから応援団の説明が始まった。主な仕事はお昼休憩と昼一種目の間にある応援合戦。あとは種目ごとの応援。ここは個人で出場する種目以外で交代制らしく後々調整されるとのこと。
女子はチア、男子は学ランでの応援で普段はブレザーなので新鮮。はちまきの色は勿論赤。男子は単純なことが多いらしいが女子はダンスを入れるらしくこれから放課後、できるだけ来れる日に集まり練習するらしい。結構ハードかも、と野依と二人で顔を合わせる。
帰りは久々に野依と帰ることになった。私の家の方面に野依が用事があるらしく途中まで一緒。
「応援団結構きつそうだよね~日和大丈夫?」
「ん~ギリギリかも。服もチアだしスカート短くなかった?」
「日和ああいう服苦手?」
「どちらかといえば……人に見せれるような足してないし」
「そんなことないって! チアも日和が一番似合うよ」
「そうかな? そうだったらいいけど……」
「……榊原のために頑張ろうね。惚れさせればいいだけだよ」
「でも、それって水無月さんを傷つけるんじゃ」
「日和はあの子を気にしすぎ。もし振られたらそれは日和のせいじゃなくてアイツが決めたことなの。日和がそこまで気にする必要ない。日和だって傷ついたじゃん」
「……応援団は頑張るよ。足引っ張るわけにはいかないし」
優吾くんにいいとろこ見せれたら、なんて考えてることは野依にはお見通し。私はどこまでいっても優吾くんが大好きで、優吾くんのことを一番に考えてしまう。
諦めるなんて、今更できっこない。
「っしゃあ!! みんな気合い入れてけよー!!」
早いもので体育祭初日。団長の気合いが入った掛け声から始まった応援。私は短いスカートの裾を一生懸命引っ張っていた。中に見せパンを履いているとはいえ、見えるものは見える。
「もう。日和自信持って! めっちゃ可愛いよ!」
「ありがと……野依も可愛いよ」
「あったり前じゃん! 気合入れて化粧したからね!」
「化粧……」
「日和もする? お昼休憩の時してあげようか?」
「うん。お願い」
「……先輩! 私達当番まで時間ありますよね? ちょっと抜けます!」
「早めに戻ってね~」
どこからか持ってきたポーチを持ち野依と共にトイレに走る。野依は輝いた目で私に化粧を施していく。瞼に乗る色、あがるまつ毛。色つく唇。ものの五分ほどで終わったメイクはいつのも私と違う。世界が変わったようだ。
「可愛すぎる……」
「野依、ありがとう。私がんばる」
「うん。誰よりも応援してる‼」
放送では次の競技のメンバーを招集する声が聞こえる。私達は急いでトイレを出て応援場所へ戻った。そこには学ラン姿の優吾くんがおり小さな女子の黄色い声があがる。そんな優吾くんの隣にいるのは水無月さん。彼女も応援団をしているようでチアを着ており、優吾くんと笑いあっていた。
久々にみる二人に私は無意識に手を握りしめいたようで野依に解かれた。肩に添えられた手は暖かくて、悔しさが少しなくなった。
「日和! 野依!」
「陽太! 学ラン似合ってるじゃん」
「ありがと! 二人もめっちゃ可愛い! え、日和もしかして今日メイクしてる?」
「よくわかったね。すごい」
「私がしたのよ! 可愛いでしょ!」
「……もしかして優吾? 頑張れ! 俺めっちゃ応援してる!」
「ありがとう。今日頑張るって決めたの」
私は二人に宣言するように意気込んだ。頑張るって決めたんだ。無理なら今日で気持ちを終わらせるしかない。それぐらいの気持ちでやるんだ。二人でいる所で悔しがってる場合じゃない。
それからは応援合戦に参加し一生懸命選手を応援した。化粧をして変わったからか男の先輩から声をかけられることが多かったがその度に立花くんや野依が追い払ってくれた。朱音先輩からも可愛いと褒められ、珍しく吉柳くんからも褒められた。今日の私はたぶん可愛い。今日、頑張るしかない。
五種目目、朝の部最後の借り人競争が始まる放送が聞こえた。私はあらかじめ体操服に着替えておいたの余裕を持って集合場所へ向かう。そこには水無月さんの姿もあった。私を見つけるとにっこりと笑いかけた。余裕のある笑みだ。私は必死の自分を隠すため同じように笑顔を向けた。
そして私は運悪く水無月さんと同じ第五走者。最後だった。
人が借りられていく度に盛り上がる外野。お題は様々でアバウトなものから際どいものまで。どうか、優吾くんを借りれるようなお題が出ますように。
私は位置につく。
「最終走です! 位置について、よーいドン!」
私は走り、お題の紙を掴んだ。お題は〝仲良い異性〟優吾くんがそう思ってるかなんて分からないけど私にとってはチャンスだ。ちらっと横を見ると水無月さんはまだ紙を開いている最中。急いで優吾くんのいる場所へと走る。
「優吾くん! 一緒に来て!」
優吾くんの腕を掴みそういうと彼は頷いた。少し離れた場所にいる野依がガッツポーズしているのが見えた。テントを抜けゴールへ走っていると優吾くんの足が止まった。視線の先には優吾くんの腕を掴む水無月さんがいた。
「優吾! 私と一緒に来て!」
「おっと! これは借り人被りだ! 水無月さんと斎藤さん! どちらが彼を借りれるのか!」
周りに響く放送で煽る声。周りからもどちらが借りれるかわくわくしている声が聞こえる。私は、負けるかも。だって相手は彼女だ。相手のお題が何かなんて分からない。でも私のお題なんて優吾くん以外にも当てはまる人はいる。諦めたほうがいいのだろうか……。
「優吾くん、私は別の人と……」
「加恋ごめん。日和ちゃん行こう」
「え、優吾⁉」
私は優吾くんに強い力で引かれ、ゴールへ走った。悔しそうな顔で立ち尽くす水無月さんが見える。優吾くんの表情なんて分からない。どうして私を選んだかも分からない。でも単純嬉しかった。彼女よりも私のことを取ってくれたことが。
「一位は二組の斎藤日和さん! お題は仲良い異性でした!」
「腕引っ張っちゃってごめん。大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとう。その……」
「気にしないで。日和ちゃんのせいじゃないよ」
「……分かった」
髪のせいで顔に影がかかり彼の表情は見えない。でも明確に何も言うな、と線を引かれたようだった。少し先を歩く彼を見上げるとそこにあるのは四月に見たあの横顔と全く一緒だった。
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