第2話 一泊二日
五月。
学年全員で一泊二日の遠足に出かけた。遠足といっても名ばかりでほとんど班別行動で、クラスの交流を深めるものだった。私はもちろんあの三人と一緒。でも班は六人で編成しないといけない。
「あと二人どうする?」
「誰かいいやついないの? 陽太」
「んー余ってるっぽいやついるけど……」
「ならその子達でいいんじゃない? 迷ってても仕方ないじゃない」
「そうだよな! そいつら呼んでくるし待ってて!」
立花くんはその二人を呼びに行った。遠足は高校から少し離れた自然が溢れるキャンプ場。そこで自分達で炊事をし、それを食べて解散だ。食材も自分達で道中に買うこと。思っているより大変かもしれない。できれば男の子がいいなーなんて思っていると立花くんが連れきたのは女の子二人。それも優吾くんを見て目をきらきらとさせた。
私は野依と見つめ合った。お互いに嫌な予感を察知したようだ。
佐藤さん、鈴木さんの二人を加えた六人で私達は一週間後の遠足に出かけることになった。
「優吾くん! これどうかな?」
「優吾くん! 私のも見てよ!」
案の定、優吾くんの取り合いになった。それも佐藤と鈴木の二人で。買い出しもほとんど私達が済ませ、せっせと用意しているのにも関わらず動こうとしない二人。野依もイライラが溜まっているようでピリピリしているし立花くんはそんな二人を連れて来てしまった責任か人一倍働いている。
今日作るのは王道のカレー。具材を切るのは私、火をつけるのは立花くん。お米を洗って火があがるのを待っているのが野依だ。優吾くんたち三人は先生に渡された使い捨てカメラで写真を撮るだけ。
そう、楽な仕事に三人も必要ない。優吾くんにカメラが渡されたと同時に触れるチャンスだと思ったのだろう。二人がたかった。私達はそれに溜息をつき、カレーの準備に取り掛かった。
「あの二人酷いよね。準備もしないで榊原にべったり。嫌になっちゃう」
「仕方、ないよね。女の子と滅多に話さないしいいチャンスだと思ったんじゃない?」
「……日和は、それでいいの?」
「よく、はないけど……割り切らないと仕方ないかなって。ほら、良いところ見せれたら惚れてくれるかなーって」
「さすが日和! この調子で頑張ろ!」
「うん! 私具材切れたし立花くんのほう見てくる」
「了解! 火が出来てたら呼んで!」
私は小走りで一人頑張る立花くんのところへ向かった。細かな木を入れ、一人息を吹きながら頑張る彼の背中は逞しくて、どこか寂しそうだった。
首にかけているタオルで汗を拭う彼の肩を指先でつつく。
「うわ! びっくりした!」
「頑張ってるね。どう?」
「俺不器用なのか上手くいかなくてさ。どうしようか困ってたところなんだよ」
「それは困ったね。貸してみて。私やってみる」
「危ないからいいよ! これは俺の仕事だし、女の子にやらせられないよ。それに……」
立花くんは優吾くんたちの方に視線を向けた。今だ騒ぐ彼女たち。その姿は悪目立ちしていて、いつの間にか沢山の女の子に囲まれていた。そんな姿を見たくなくて、私は立花くんに視線を戻した。そんな私に気づいたのだろう。立花くんは更に顔を歪めた。
「気負わなくていいよ。立花くんだけの責任じゃないし……ね?」
「だけどさ、こんなに迷惑かけてるのに悪びれてなくて……これじゃ優吾の責任になっちゃいそうで」
「二人とも悪くないよ。ただ、目立った容姿って大変だよね」
「アイツと話したい女子なんて山のようにいるし。でも、それでも俺は日和とお似合いだと思ってるから」
「え?」
「ごめん。ホントは前から気づいてた。でも言うタイミングなくて……」
「そっか。気を遣わせてなんかごめんね? でも今回のことは誰も悪くないから」
「日和って可愛いのにめっちゃ優しいよな! 優吾やめて俺にしない?」
「ふざけたこと言わないの! 榊原と日和がお似合いって言ったのに?」
「いってぇ! 野依なにすんだよ!」
いつの間にか野依が来ていて立花くんの頭を叩いた。結構な力だったのだろう。頭を抱えて痛がってる。そんな姿に私は笑う。二人の会話はテンポが良くて聞いていて飽きない。
嫉妬でどうかしそうなときには、丁度よかった。
「まだ火ついてないの⁉ あんたどうすんのよ!」
「だってつかないし仕方ねぇだろ! 俺だってこうなる予定じゃなかったんだよ……」
「まったく。ちょっと待ってて。榊原呼んでくるから」
「え? でも、どうやって」
「任せて!」
野依はここから大声で優吾くんを呼んだ。優吾くんたちは驚いたかのように一斉にこちらを向く。女の子は嫌そうな顔をしているが優吾くんは一人、疲れきった顔をしていた。野依はそんな優吾くんに向かい、満面の笑みでこちらに来るように言った。
そうすれば優吾くんは女の子に断りを入れ、こちらへ小走りでやってきた。佐藤さんと鈴木さんは悔しそうな顔をしてこちらを見ているだけだった。
「助かったよ。どうも抜け出せなくて……」
「言い訳はいらない。仕事してないし私が呼ばなかったら一生あそこにいたわけ?」
「それは……」
「まあまあ。戻ってきてくれたしいいんじゃない? ね?」
「もう日和は甘いんだから……榊原、陽太が火を起こせなくて困ってるの。助けて」
「お安い御用ですよ」
そこからは早くて。優吾くんは立花くんが何度挑戦しても成功することのなかった火起こしに一発で成功した。私は驚いて、立花くんは少し悔しそうな顔をしていた。野依はお米を持ってきて火の上に置く。私はカレーの具材を急いで持ってきて他の班に追いつくように急いで作った。
佐藤さんと鈴木さんは戻ってこず、結局別の班の方で食べるようだった。六人分作ったので立花くんが律儀に班の場所へ持って行ってあげたみたいだが、カレーだけ受け取りお礼も言わず追い返されたようだった。そのことに野依は怒り、先生が注意したことでこの件は収まった。
私と野依、佐藤と鈴木は別部屋だったので特に会話することもなく夕方にあるキャンプファイヤーまで部屋で休憩時間を過ごした。
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