君は当て馬
田中ソラ
第1話 私の好きな人
「
「
私、斎藤日和は中学を卒業し、家から一番近い
学年約三百人ほどしかおらず、同じ中学の子は二十人程度。他に比べて少ないほうだ。
一年を過ごすクラスメイトの自己紹介を聞き流し、私は後ろに座る彼のことが気になっていた。入学式前、ついその横顔に見入ってしまった私は声をかけた。同じ学年で、同じクラス。会話のきっかけなんてなんでもいい。なにがなんでも、私は彼と親しくなりたかった一心でその時は会話を進めた。
そんな彼が、今後ろにいる。私にとって仲の良い友達が同じクラスにいるより幸福なことだった。
「さて。これからの時間はクラスメイト同士の交流を深めてもらう時間です! 周りの子と自己紹介して話してみて~」
先生のその声で周りが騒がしくなる。私の隣の子がこちらを向いたと同時に私は振り返った。
「さっき話した人だよね?」
「ああ! そうだね」
「私斎藤日和って言うの。よろしくね?」
「よろしく! 斎藤さん、でいいかな?」
「堅苦しいよ。日和って呼んでよ」
「えっと……じゃあ日和ちゃんって呼ぼうかな。俺のことはなんでもいいよ」
「じゃあ優吾くんって呼ぶ。私あまり仲いい人クラスにいないの。席も前後だし仲良くしてくれたら嬉しい!」
「勿論だよ。俺だって顔見知り少ないし増えて嬉しいよ」
彼、榊原優吾くんはすごく物腰が柔らかい人だった。とっつきやすい笑顔を私に向け、多少強引になってしまったが仲良くしてくれる確約をしてくれた。私にとってそれだけで十分。今はまだ。
容姿の良い彼はこれからいろんな人に目をつけられるだろう。それでも私が一番だもん。絶対譲らない。それほどに私は彼に惚れていた。
「仲良いじゃん! 俺も入れてよ!」
「えっと」
「俺、
「榊原優吾です」
「斎藤日和です」
「優吾に日和ね! 俺のことは陽太でいいから! 仲良くしような!」
軽い。言動が軽い。これが陽キャというやつか。私とは無縁の存在だ。
中学では所詮、陰キャと呼ばれる分類に属していた私にとって、立花くんのような明るい性格の人には慣れていない。特に仲良くする気もなかったから自己紹介だって聞いていないし。
そうこうしているともう一人、別の女の子が入って来た。
「陽太ばっかりずるい! 私、
「そうなんだ。よろしくね野依ちゃん」
「野依でいいって! 斎藤日和ちゃん、だよね? 日和って呼んでもいいかな⁉」
「うんいいよ。よろしくね」
「よろしく!」
これまた明るい性格の女の子。女の子の友達なんていて損はないし良い子そうだし。
こうして私、優吾くん、立花くん、野依ちゃんの四人で固まることになった。立花くんと野依ちゃんはとても仲良いから二人で話すことが多かったし、必然的に私は優吾くんと話せる機会が増えた。そして私の読み通り、優吾くんは学年で格好いいと噂になった。
クラスは六組しかないけれど、ほとんどのクラスの女子が優吾くんを見にきていた。先輩だって。
見る子見る子全部が可愛くて、私とは違う。不安になって、自信がなくなって。また出会って少ししか経ってないのにもう彼女気分。私ってバカみたい。
恋愛に振り回されて。勝手に傷ついて、辛くなって。どうしてこうなるんだろ。もう、嫌になりそうだよ。
「ねえ日和」
四月のある日。私は野依ちゃんとお昼を食べていると驚愕することを言われた。
「日和っなんでて、榊原のこと好きだよね?」
「え……なんで」
「もう! 分かりやすいよ。陽太が話してるのに視線榊原のほうばっか。流石に気づいちゃうよ」
「……本人にもバレちゃったかな」
「アイツ鈍そうだし気づいてないんじゃない? 女子の視線の意味も分かってなさそうだったし」
「野依ちゃんは、どう……思う? 私の恋」
「いいんじゃない? 最初から日和がぐいぐい行くの榊原だけだったし。頑張ってるじゃん!」
「私、最近好きでいることがしんどいの。女の子と話してるわけじゃないし触れ合ってるわけじゃないのに人気があることに勝手に嫉妬して、ほんとバカみたいだよね」
初めて、自分の想いを口にできた。言葉にすれば随分楽になるようだ。野依ちゃんのお陰で気づくことができた。でも、私がこれで野依ちゃんに嫌われるかもしれない。
でも、それでもよかった。思いを口にできて、聞いてくれて。それだけで嬉しかった。本当の意味で〝友達〟になったようだ。
「日和って恋愛初心者? そんな気持ち当たり前だし、私だってそう思っちゃうよ。日和が最初に目つけたもんね! 仕方ないことじゃん」
「これって、当たり前なの?」
「そうだよ! 誰にでもなる普通の感情だよ。大丈夫。日和が思い込むようなことじゃないよ!」
「野依ちゃん……」
「私協力するし! 二人のことお似合いだと思ってるよ」
野依ちゃんに笑顔を向けられ、私は少し泣いた。初めてだった。女の子とこうやって接するの。こうやって、恋バナするの実は憧れてたんだ。
「あのね、野依って呼んでもいいかな?」
「もちろん!」
私はこの日、強い味方と大事な友達を作ることができた。
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