あの料理

@poyopoyo19

第1話

 世間の正月休みが終わった1月4日、私は久しぶりに実家へと足を運びました。


 一人暮らしを始めてから、母の手料理が恋しくなり、この機会に実家暮らしだった頃によく作ってくれていた『あの料理』のレシピを、母に聞こうと楽しみにしていました。


 実家に着くと、母と父、妹が出迎えてくれ、夕飯の準備が始まっているのか、懐かしくて暖かい匂いが漂っていました。

 しばらくして、家族で食卓を囲みながら、私は『あの料理』の事を思い出しました。

「お母さん、よく作ってくれた『あの料理』ってどうやって作るの?自分でも作りたいんだけど」と聞きました。

母は驚いたような表情を見せ「私、そんな料理作ったことがない」とそっけなく答えました。

 

 『あの料理』は私の子供時代の楽しい思い出と結びついており、母が一度も作ったことがないなど考えられないことでした。私は言葉に詰まり、母の顔をよく見ると、さっきまでの穏やかな表情が消え、目には不気味な影が宿っているように感じました。

 父と妹にも、「『あの料理』食べたことあるよね?」と問いましたが、二人とも「そんなもの、食べた事ない」と首を横にふり、『あの料理』について母に尋ねた私を責めるような眼差しを向けてきました。

 

 部屋は静まりかえり、私は気まずさに耐えられず、『あの料理』とは関係ない話題に切り替えました。私の仕事の話や、親戚の話、正月はどう過ごしたなどです。

 そうすると、私以外の家族は、すっと穏やかな表情に戻っていました。


 どうして、私が『あの料理』の話をすると、家族は静まり返ったのか未だにわかりません。こんな思いをするぐらいなら、私は実家に戻らず、一人でいる方が良かったのかもしれません。

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