第33話 END 喜遊曲(ディヴェルティメント)ひかり
◇
宣告を明かされて後に悠は、柚子香と夏希にひかりを選んだことを告げた。ショックはあったが、それでも笑顔で受け入れてくれる。もう一つ大切なこと、とひかりの余命の話を伝えると、より以上の衝撃で言葉を失った。
「ひかり、色々調べたんだけどさ、医学ではやっぱり無理、みたいだ」
腹が目立ってきた彼女に力及ばなかった現実を知らせる。
「うん、解ってるんだ、仕方ないよ。せめてこの子が産まれるまでって思ってる」
「一つだけもしかしたらってのがあった」
「えっ、でも先生は手がないって」
真剣そのものの悠、もしかしたらと思わせる何か。ひかりは全てを彼に委ねた。
「悠ちゃんがしたいこと、僕は全て受け入れるよ」
「ありがとう、ひかり。治療でも何でもないんだけど、幾つか実例が残ってるんだ」
「それって?」
「環境の激変による人の生きる力を刺激する方法。結果から言うなら、楽しい旅行に暫く出掛けないか」
「イイね!」
ひかりとの想い出を残したい、そう意味なのだろうと受け止めた。悠の言葉なら何でも構わない、そんな心境だ。
「よく聞いてくれ。理由は全くわからないけど、癌が後退したり、難病が緩和したり、そんな報告が確かに存在しているんだ。共通しているのは今が最高に楽しい、そう毎日思えてたことだよ」
「悠ちゃん、奇跡を本気で起こそうとしてくれてるんだ! 弱気になったらダメだよね。僕はいま、毎日が幸せで最高だよ!」
弾ける笑顔で応えた。なにせ本当のことだ、人生絶頂期は常に今。そう感じられている。
「春休みの間だけでもって、柚子香と夏希に声かけてみる。あの旅館にも行こう!」
「二人とも、来てくれるよね」
「絶対に来てくれるさ! だから行こう!」
「うん、そうしよっ!」
大学受験を諦めて静養と治癒に全てを傾ける。春休みが始まると同時に、四人は旅立った。悠はひかりを選んだ、それでも彼女達は悠に付き合ってくれた。悠が彼女達に一生を捧げて付き合うと言ったのを信じて。
学校が始まり彼女らが去っても、悠はひかりと旅を続けた。出産が近付き出歩くのを控えるようになった頃、ようやく自宅に戻ってくる。
「悠ちゃんはちゃんと学校行ってね」
「わかった。しっかりと卒業して、家族を養わないといけないからな!」
◇
「結婚おめでとう!」
「おめでとうございます」
花嫁姿のひかりを柚子香と夏希が祝福した。出産後に暫く危険な状態が続いたが、奇跡的に持ち直したのだ。
「うん、ありがとう!」
小康状態が続いている、それだけであり長くはないと榊医師も言っていた。それでも、式を迎えてひかりは輝いている。孫を抱いて参加しているあかりも涙を流していた。大歓声でも腕の中のゆかりはすやすやと眠っている。
「俺達、これからが始まりだから!」
「僕、毎日が最高に幸せだよ!」
大切な人たちに見守られながら、二人が口づけを交わした。いつか定められた別れを惜しむかのように。
彼と彼女の嬉遊曲END
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