第6話
淡々とした感じで西田が理由を説明した。 なるほどそれはあり得る話で、一方的に名前を知っていても自然だ。あの時はそんなこと全く考えても居ない。
「あー、あははは。そっか、そうだね」
「俺とひかり先輩はそんなんじゃないってーの」
「うわっ、ひかり先輩だって。やーらしい、木原エッロ!」
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817330669771655983
台詞との関連性は殆ど無い、なのに倉持がそう言うとそんな感じに聞こえてしまう。ひかりは口を結んで眉を下げている、あるあるの光景だ、高校では。
「倉持、お前なぁ、はあ。これから昼飯に行こうかなって話してたんだよ」
何を言っても口では勝てないだろうと見切りをつけてしまう。それは大正解、喋りで男がかなうはずがない。大人しく引き下がって、受け入れて、それで世界は成り立っている部分すらある。
「そうなんだよねー。どうしよっかな」
「それならクランベリーに行かない? 私そこでバイトしてるのよね、サービスするわよぅ」
ふっふっふっ、と怪しげな笑いを浮かべる。ファミレスで近くにあるので、この界隈で知らない奴らは居ない。安価でメニュー豊富、二号店も計画されているらしい。
「あそこの制服凄く可愛いよね。クランベリーかぁ、ね、悠ちゃん行ってみよ!」
「まあ、ひかり先輩がそう言うなら」
倉持の笑いが気になりながらも承諾する、どうにも変な感じがぬぐえない。行くのは別にどこでも良かったので、素直に乗っかっておく。
「じゃあ行きましょ!」
「え、何、お前らも一緒かよ」
言い出したのは倉持だが、西田も隣で頷いている。流れから一緒と言われてもおかしくはないし、普段なら嬉しい。
「そうよ、デートじゃないんでしょ、ならいいじゃない!」
「あー、はあ。わかったよ、強引だな倉持は」
ひかりがそれを見て笑っていた。押されたら嫌と言えない性格なのを知っているから。それぞれが軽く自己紹介をして、商店街にあるクランベリーへ入る。
「いらっしゃいませ、クランベリーへようこそ! って時雨じゃない」
「今日の私はお客ですー。四人ね」
右手を突き出して四を示し、客であることを強くアピールした。アルバイト先だと言ってたのでそういうのもあるだろうと笑う。すると女性店員があからさまに倉持とひかりを見比べて。
「あーこれは時雨、残念!」
などとやり返す。何が残念かは説明をしないけれども、ひかりは苦笑してしまう。
「はあ? おばさん何を残念って!」
「おい倉持、大学生相手におばさんはないだろ。失礼だぞ」
「そうよ時雨、大学生のお姉さん相手に何言っちゃってるのよ。君、今日は局地的サービスデイにしちゃうからね」
いくら何でも暴言過ぎるだろうと木原が口を挟む。すると時雨が振り向いた、女性店員はニコニコで悠に妙なサービスデイをお知らせして来る。
「ふん、アラサーが。さっさと席に案内しなさいよねおばさん」
頑なにその態度を貫き通す、倉持の性格ってそんなだったんだ、と思ってしまった木原だ。
「倉持、そういう態度良くないぞ」
「時雨、いつものことだから。叔母さん席」
「はいはーい、ご案内しまぁす」
あからさまに悪態をつく姿に小言を一つ。それにしても意外だったのは西田だ、こちらはそういうことを絶対に言わないだろうと思っていたのに。
「西田までおばさんって」
「私のは正しい叔母さんだから良いの」
言葉で言われてもまったく意味不明だが、文字にすると一目瞭然。けれどもそんな説明をわざわざすることはなかった。何のことはない、西田母と倉持母は姉妹、それで真琴にとっては倉持母が叔母さんだ。
「まあまあ悠ちゃん、ほらいこ」
四人がけのテーブルに連れて来られる。メニューを広げるとやたらと沢山あった。何ページあるんだろうとペラペラとめくってしまった。
「うわ、随分と一杯あるなこれ!」
「凄いね。こんなにあると何を頼むか迷っちゃうなぁ」
「オススメはBランチのスペシャルよっ、こーれ」
店員がBランチを指差しながら、わざわざ木原の耳元で囁く。 吐息がかかりドキッとしてしまった。ファミレスで真っ昼間から何をしているのやら。
「あれ、スペシャルって何ですか? これってBランチとしか書かれていませんけど」
「秋子スペシャルよ。きっといいことあるわ」
「じゃ、じゃあそれでお願いします」
それぞれがオーダーすると秋子と名乗った店員は裏に行ってしまった。妙に距離が近いし色っぽいなと感じる木原だ。
「ところで、木原と藤崎先輩ってどんな関係? やっぱもうアレかなアレなのかなっ、アレだよね!」
「何だよアレって、ひかり先輩が迷惑してるだろ」
「あははは、僕は別にアレでも良いんだけどな」
店内を見回して、自分達以外にも生徒がいるなぁなどと確認する。別の高校の奴らも少し混ざっていた。
「えーっ。ただのお知り合いって感じじゃないわよねぇ真琴」
「単なる友達でもない。ただの友達は朝夕同伴しないし、仲良く昼食にも行かない」
西田の指摘は半分正しく半分は乱暴な言い方だった。 その友達が同性なら普通だが、異性となると確かにそうかなと思える部分はあるが。
「俺らは先輩後輩の仲だ、そりゃちょっとは仲良さそうに見えるかも知れないけど。それは……」
「それは?」
「うーん、ひかり先輩は俺の師匠だから、かな?」
想定外の単語が飛び出してきた。師匠。何かの技術や伝統を伝える側の呼称。倉持は西田と視線を交わしたけどこれといって適当な何かが見当たらず、木原に視線を戻す。
「えーと、師匠って?」
「俺の料理の師匠なんだよ」
「ははは、僕が中学三年の時に家庭科クラブ部長をしててね、悠ちゃんがそこに入ってきたんだ。そんなわけで師匠といえば師匠だね」
キャスターつきの台に料理を載せて、先程の店員が戻ってきた。なるほどと受け止めると、西田が倉持に顔を近づける。
「味の好みが近いって強敵だよ」
「そ、そうね。師弟関係だってきいてちょっと安心したけど、そうよね」
ひそひそ話をしている間に、秋子が手際よく皿を並べて行く。 木原のスペシャルだけやたらと皿が沢山ついている。そして補助椅子まで持ってきて、そこへ店員が座った。何故?
「スペシャルって凄いですねこれ。ところで何で座ってるんですか?」
「当店のサービスでぇす。はい、秋子が食べさせてあげる。あーん」
スプーンにグラタンを載せていた店員に、ついに倉持が爆発した。立ち上がると腕を掴む。
「もうお母さんはあっちいっててよ!」
「もう時雨ったら、彼氏をとられそうで怖いのね」
「ちっ、ちがーう!」
二重、三重に色々とことが起きすぎて、何から反応して良いのかわからなくなる。背中を押して力任せに追い返して席に戻る。
「お母さん……だったんだ」
「叔母さん、そんなサービス聞いたことないし」
「大体彼氏じゃないし!」
「ははは、悠ちゃんって年上受けするよねー」
バタバタして暫し、ようやく皆が料理に箸をつけ始める。お腹もすいてるし、取り敢えず平常を取り戻そうとして。
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