ふぎゃし




 短い石階段、小さな鳥居、短い石畳の参道、拝殿、幣殿、南天を本殿とするその小さな神社は、神職が常駐しておらず、また、生活居住区に建立されているにもかかわらず、住民の足が遠のいて、賑やかさとは無縁の時間が流れていた。






 かのえは公園から小さな神社へと駆け走った。

 時間にして十五分ほど全速力で。

 空を振り切りたかった。


『釣り道具持ってないから無理』


『好きだった』


 告白するまでは本当に平気だったのだ。

 冷静沈着だったのだ。

 けれど、告白し終えた途端、怒涛の如く、緊張と恐怖が押し寄せてきた。

 空からどんな返事があるのか、耳にするのが、とてつもなく、怖くなったのだ。


 断られたとしても、二柱の恋の神様に慰めてもらえばいい。

 そう呑気に考えていた自分はどこへ逃げ去ってしまったのか戻ってこい。

 本気で願うほどに、怖くて堪らなかった。


 だから、表面上は冷静さを装いながら、心中では話しかけるな話しかけるなと念じ続けて、その念が通じたのか。空に話しかけられることはなく、無事に橋へと到着。いち早くスワンボートから降りると、駆け走った。

 空から逃げたかった。

 空の来訪を阻むことができる家が安全だ。

 なのにどうしてか、家には二柱の恋の神様がいるだろうと考えると憚られて。

 空から逃げたい恋の二柱の神様には会いたくないという二心でただ駆け走った結果、この小さな神社に辿り着いたというわけである。











(2024.1.30)



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