すだつってほしい




 きこきこきこきこ。

 ちゃぷんちゃぷんちゃぷんちゃぷん。


 かのえと空は今、スワンボートに乗って誰もいない公園の湖を早く進んでいた。

 告白したい。

 そう電話越しにかのえに言われた空が、かのえよりも早く、けれどロマンチックに告白したいと素早く考えた末の、スワンボートであった。


 きこきこきこきこ。

 ちゃぷんちゃぷんちゃぷんちゃぷん。


 かのえは並んでペダルを漕ぐ空の言葉を待った。

 かのえの告白を言うより先に俺の告白を聞いてくれ。

 そう言われたからだ。

 きっとどうでもいい告白なのだろうから、もったいぶってないで早く言ってほしい。

 ちらちらと、かのえは強く念じながら空を見るも、空はなかなか口を開かなかった。

 もう待たないで、先に言ってしまおうか。

 それなりに大きい湖を三周したころ、しびれを切らしたかのえが口を開いた時だった。

 スワンボートの速度が急に上がったかと思えば、空がかのえを見ないで言ったのだ。

 すごく早口で。


 すだつってほしい。


 釣り道具持ってないから無理。

 かのえは素早く返すと、間髪与えず、好きだったと、空に告白したのであった。











(2024.1.23)



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