ひどくない




(ひどい私が何してたってんだ!)


 学校の教室の十分間休憩中にて。

 私は机に額と鼻先を付けては両腕を投げ出して、怒りをぶちまけた。

 もちろん、隣の席の同級生に聞こえないようにとても小さな声でだ。


 こちとら勇気を振り絞って、それこそ、カラッカラの雑巾にそれでも水分はあると信じて振り絞るように、振り絞って、振り絞って、告白しようってのに。

 いつもいつもいつもいつも。

 突然出現しては、拳銃をつきつけおってに。

 何だそんなに私は友達の恋人にふさわしくないってか。

 そうかもしんないよ私だって自信ないもんねそうかもしれないけどさ。

 だからって、告白を邪魔するなんて、ひどくない。

 ひどいよひどすぎるよ。

 拳銃なんて向けられてさ、無条件降伏だよ誰が抵抗するかってんだ。

 もうさもうさ、こんだけ心身削り取られてさ。

 もう、勇気も振り絞れないよって。

 諦めさせるのが魂胆なんだろだーれーがー。諦めるかってんだばっきゃろうい。

 こちとら十年片思いして、告白しようって決めて二年経って、ようやく覚悟を決めたと思ってんだい。


(ふ、ふふふ。見てなさい)


 生物の先生が来たので、顔を上げて、教科書とノートをぱぱっと用意して、授業に真剣に向き合った。











(2024.1.8)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る