第2話 バケモノ

 私はこの街が大嫌い。欺瞞と侮蔑に満ちた汚泥のような街。それでもここに住むしかない。私の大事な場所はみんな人間たちに荒らされてしまったから。あいつらはいつからあんな傲慢になったのだろう。私をバケモノと呼ぶ自分たちの方がよほどバケモノだろうに。昔はあんなんじゃなかった。共に野山を駆け巡り共に夜空を見上げたあの頃は。彼らもいつかは自分たちが何か大切なものをどこかに忘れてきてしまったことに気付くのだろうか。まぁいい、私もずいぶん変わってしまった。


 でもこの街のいいところがひとつだけある。それは食べ物に困らないってこと。さて、今日の夕餉は何にしよう。


「あ……」


 凄まじい血の臭いが私の足を止める。どこから臭ってきてるんだろう。ああ、あそこだ。見れば路地裏にいかにも怪しげな店。そういえば昔、この辺りに金さえ出せば何でも売る店があると聞いたことがある。きっとあの店のことだ。店主は夥しい数の人間を屠りその血に塗れているに違いない。血に染まった肉は……大好物だ。


「いらっしゃい」


 ニタリと嗤う店主らしき男を見て確信する。この男だ、と。何て美味しそうな臭い。


「このお店、何でもあるって聞いて」


 店主は舌舐めずりしながら近寄ってくる。


「ああ、そうさ。たっぷり楽しませてやるよ」

「まぁ、嬉しい」


 私は店主の言葉通りたっぷり楽しませてもらった。彼の方はどう思ったかわからないけれど。満足した私は「ほぅ」とため息をつき店を出ようとして足を止めた。


「あら、いけない」


 彼にお別れの挨拶をしていなかった。足を止め真紅に染まった店内を振り返る。


「ごちそうさまでした」


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ばけもの 凉白ゆきの @yukino_s

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