彼女と彼女④
良い休日を連続で迎えた。中学の俺では考えられない生活だ。
もちろん高校に進学する上で友達を作って遊びたいと言う目標は掲げていたが、それにしてもうまくいきすぎている。
まだこれから高校生活は続いていく、楽しみが尽きないな。
しかし、そんなことも言ってられないことが一つある。
ロミオとジュリエットの劇を成功させることだ。
毎日部活に顔を出し、千羽さんや瞳から教えてもらってるとは言え、まだ人前で自信を持って演じれるほどの仕上がりではない事は実感している。
もうすぐ5月になり、本番まで1ヶ月半ほどである。
来週からは動きをどんどんつけながら本格的な練習していくだろう。
その練習にくらい尽き俺はロミオにならなければならない。
台本は毎日何度も読み、休みの日もしっかり覚えるために自宅でひっそり練習した。
それだけにセリフは完璧に覚えている。
暗記は文系と言うのもあって割と得意な得意な方なのだ。
あとは俺なりの好きをジュリエットにぶつけていく、その勇気と自信だ。
千羽さんとデートし、瞳ともデートをした。
もちろんロミオは現代を生きたわけではないし、全く同じ感情を持つ事は無理だろう。
しかし、2週間の休日を通して俺の中に今まで無かった感情が生まれた。
きっとこの感情がロミオとして大切なものになるだろう。
今ならロミオとジュリエットの台本を読んでロミオがかっこいいと思える。
千羽さんにどうゆう形でロミオを見られたいか聞かれた時にかっこいい系と言っておいて良かった。
駿河論16歳の挑戦はこれからだ。
5月からの毎日は驚くほど速いスピードで駆け抜けいった。
部活動はもちろんのこと、高校初めての中間テストが俺に迫った。
決して勉強が苦手というわけではないが、勉強せずに点数が取れるほど頭がいいわけでもない。
最初のテストなのだから難しい内容は少ないだろうとは思っていたが、そんな甘えた根性を高校生活では許さないよ、と言わんばかりに数学から難易度が上がった。
テストの1週間前から部活動は休みになったので、勉強の方はなんとかなる雰囲気があるがその分劇の練習に焦りが表れる。
なんとかそれまでに部活で練習した内容を家でこっそりと練習し、たまに心愛監督に見てもらい心愛なりの指導をしてもらった。
普段やる気のかけらも無い心愛が、どこから引っ張り出したか分からないサングラスをかけ、台本をクルクルと丸めて「そこはもって大袈裟に!」とえらく張り切って教えてくれた。
演劇の経験はなくとも観客側の意見として受け入れ、出来る限りの練習に励んだ。
5月に入り、千羽さんまで俺をサトシと呼ぶようになったのは1番の変化だ。
瞳とデートをしてから最初の部活でお互い下の名前で呼び合っているところを見て、
「なんで2人下の名前で呼び合ってるの⁈私も駿河くんと呼び方変えたいなって思ってたのにズルい!」
「じゃあ、下の名前で呼び合う?」
「うん!」
千羽さん……じゃないや、心の笑顔の方が俺からしたらズルく見えるほどに毎回輝いていた。
目元でタブルピースをしながら「いぇい!」と言ってくる。
喜びたい気持ちは俺の方が絶対強いはずなのに、もしかしたら俺よりも喜んでくれてるんじゃないかと錯覚するほど楽しげな雰囲気を纏っていた。
そんな心もテスト前の部活休みからは頭を抱えるようになっていた。
もちろんロミオとジュリエットに関する懸念ではない、中間テストだ。
心に何度か勉強を教えてと言われ、問題を解いているところを見たが、酷かった。
理数系全般が無理らしい。
四則演算はできるんだね〜くらいのレベルだった。
俺も理数系は苦手な部類であまり教えられなかったが、心の周りを囲むようにして友達が必死に教えていた。
普段からみんなに好かれていることがこの場面を見るだけで分かる。
ちなみに国英は俺よりも得意にしていてそれにはビビった。
キャラ的に全強化ダメなタイプだと思うじゃん……。
そんなこんなでテストを終え、俺は平均で85点を取り、クラスで4番目に成績が良かった。
一方の心もなんとか赤点を免れる数学43点で、しばらく喜んでいた。
何度も何度も「見て」と裁判で勝訴した時のように43点の答案用紙を見せつけてくるくらいだ。
俺も数学は苦手ながら大健闘し80点を取ったが、心の喜んでいる姿の主張があまりにも激しすぎて、それを見てしまうとなぜか自分の点数が低く見えた。
クラスが違うこともあって瞳のテスト具合はほとんど知らなかったが2教科で赤点を取り、補習組になっていた。
いつもの屋上で待てど待てど瞳が来ず、「ごめん、補習あるの言い忘れてた」と放課後になって告げられた。
だから、瞳と屋上で一緒にお昼を食べるのは少しの休憩となり、その間俺は脳筋丸と共にお昼を食べていた。
脳筋丸と言われるほどなのだから勉強ができるはずもなく、きっとこいつも補習組だろうと思っていたが、地味に平均65点を取っており補習組とは無縁の存在だった。
補習組だったらタイプと言っていた瞳と仲良くなる機会もあっただろうに。
「やっぱり文武両道は大事だからな!」
脳筋丸は誇らしげに言っていた。
お前筋トレ研究会だろ?それは武に入るのか?と言わずに「確かにな」と肯定する俺は実に大人な16歳だ。
そんな5月もあっという間に過ぎ去り、今日から6月に差し掛かる。
もうこの高校に新鮮味なんてものは無い。
美少女2人と仲良くなっていなければ俺も妹の仲間入りしていたかもしれない。
朝起きて、また今から学校かよ……という気持ちの毎日だ。
自分が社会人になって同じ会社に何十年と通うようになるかもしれないと思うとやっていける気がしない。
それほどに毎朝腰が重くなっている。
これから梅雨にもなるというのにどうなっているんだ全く。
今日も校門に足を踏み入れる。
すると、横で女の子2人組がやかましく話し始めた。
コイツらは……俺が初めてこの高校に登校した時にもうるさかった奴らだ。
「〇〇君さ最近2組のリカに告られたらしいよ」
「は?私もまだなのに?」
お前がまだだから何なんだ。じゃあ早く告れよ。
もうすぐしたらお前に精一杯のロミオ見せてやるから、そこから積極性というものを学んでいけ。
「でも最近同じクラスの××君にも言い寄られてるんだよね〜」
「マジ?」
「サッカー部だしアリかな〜って」
コイツ、サッカー部というだけで付き合う男を決めるようなハイブランド女子予備軍か。ボールと間違って蹴られろ。
そう悪態をつきながら自分の教室へ向かう。
ロミオとジュリエット本番までもうあまり時間はない。
部長や他の先輩の指導もあり、最近ではかなり固さが取れてきたと思う。
しかし、まだ不安が顔を覗いてくることを止めない。
自分が演技している動画を見ると、不自然な箇所が随所に見られる。
リズムが悪いとでも言うのだろうか、どこか動きに人間らしさを感じることができない。
そんな俺を見かねたのか、今日部長から昼休み部室で一緒にご飯を食べようと言われていた。
昼休みの始まるチャイムが鳴り、お弁当片手にいつもの部室まで向かう。
俺の下手さ加減に呆れて今から戦力外通告を受けるのではないか、タコ殴りに合うのではないかと頭の中をよぎる。
部室に着き、ゆっくりと音をたてず空き巣犯のように扉を開ける。
「やあ」
そこには既にキラキラと輝かせた雰囲気で俺を待っていた部長がいた。
「お待たせしました」
先ほどまでのゆっくりな動きとは裏腹に部長が座る椅子の前にささっと腰掛ける。
「演劇部きてどう?困ったこととかない?」
「そうですね……、演技したこととかなくて、下手で、どうしたらいいだろうとは毎日思ってます」
「今この演劇部の先輩のほとんどが演技とか未経験で入ってきてるし、最初は不安だと思うけどドンドン上手くなっていくと思うよ。実際駿河くんもどんどん上手くなってるし」
「上手く……なってるんですかね?自分ではよく分からないです。千羽さんと烏丸さんとかと比べると特に」
「あの2人は特殊だよ。ホントにすごい」
やっぱりあの2人は部長からもここまで言われるほどに上手いのだ。
ただ、今回烏丸さんは男性の役演じる。
ならばロミオも烏丸さんで良かったのではないかという疑問がずっと頭から離れない。
普通に考えればそうだろう。
上手い2人が主役の2人を演じた方が自然だ。
「それなのに何で僕をロミオ役にしたんですか」
「その方が面白そうだと思って」
面白いってなんなんだ。
俺があたふたしている姿が見たいということだろうか。
「それに駿河君の成長が千羽さんや烏丸さんをさらに成長させると思ったから」
俺の成長があの2人の成長にもなる?
いまいちピンとこない。足を引っ張るならいくらでも想像できるのに。
「あの……部長ってモテますか?」
「何その質問、普通くらいじゃないかな?」
うわっ、絶対モテてるわこの人。
「女の子から好かれるにはどうすればいいんですかね」
「ほう、好かれたい相手がいるんだね」
「ち、違いますよ!ほら男なら誰しもモテたい生き物じゃないですか、それだけです」
この妙に察しがいいあたりからも部長がモテる片鱗がうかがえる。
YouTubeに出てくる『彼氏にしたい男の特徴は?』みたいな街頭インタビューをみても、出てくる答えは優しいだとか、面白いとかそんな抽象的なものばっかりだ。
フワッとしたものではなく、これをすればモテる!という具体的なものが欲しい。
「好きな子の好きなものを好きになるとかじゃない?例えばジャニーズが好きならジャニーズをいっぱい調べて好きになる努力をしてみる。そうすると、話をしていて面白いと思ってもらえるし、会話がスムーズに進むとこの人とは価値観が合うなって思ってもらえる」
分かりやすくて説得力のある説明だった。とても理に適っている。
心とカフェに行った時もカフェの名前すら分からず、メニューに書かれている食べ物もよくわかっていなかった。
瞳とカラオケに行った時もカラオケで盛り上がりようなレパートリーを持ち合わせていなかった。
要するに俺は自分が興味あること以外の知識が極端に乏しいのだ。
だから会話が上手く続かないし、何言ってんだこの人状態になる。
「手始めに部長の好きなもの教えてもらっていいですか?」
「え?俺のこと口説こうとしてる?」
「あいにく雄には興味がないです」
「雄っていうな」
そんな事を言いながらも部長は恋愛リアリティショーにハマっていると教えてくれた。
部長ってそうゆうの見るんだ、と思うと少し鼻で笑ってしまい、軽く横腹に突きをもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます