演劇部と友達①

「いってきます」


 休みも明け、新しい1週間が始まる。


 週の始まりと言うこともあって電車内もぬぼっとした空気が漂い、今から会社に向かうであろうサラリーマン達もどこか眠そうにスマホを眺めている。


 俺らのような学生が新生活を始めたりクラス替えがあったり、少しは変化がある中で社会人たちは春になったからとて、さほど何かが変わるわけでは無く、変化のない日々に飽き飽きしてしまうんだろうなと勝手に推量してしまう。


 俺が飽き性なだけだろうか。

 Switchでポケモンの新作を購入しても毎回全クリする前に辞めてしまう。

 ポケモンは一通りストーリーをクリアしてからがスタートという話を聞いて理解もできなかった。

 厳選ってなに?みんな違ってみんな良いだろ、選り好みするなよ!


 そんなこんなで入学から1週間少し過ぎ、教室内にも多少のグループがチラホラ生まれている。


 俺の目線の先にいる千羽さんも女子4人くらいで仲良く話すようになっていた。


 そのグループは顔で集めたのかと思わせるほどに美人で構成され、まさに類が友を呼ぶ状態でどこか教室内でもそこだけ輝いているように見えた。


 一方の俺はというとクラスで行き場をなくしていた。

 千羽さんの光り輝いている世界と比べれば俺はジメジメしたナメクジの世界だ。


 1人だと自分の世界に入りすぎてAirPodsの充電が無くなること無くなること。


 友を呼んでいない俺はどの類にも当てはまらない唯一無二の存在なのか、、、ちょっとかっこいいな。


 だから、昼休みは教室を抜け、外にあるベンチでお弁当を広げている。


 解放感があって心地良い。


 桜の木と対話するようにお弁当にありつけ、お花見気分も味わえる。


(ムシャムシャ、モグモグモグモグ)

 そして、なぜか横で脳筋丸がお昼ご飯を食べている。


 どうやらコイツも仲良くなるタイミングを見失い行き場がないらしい。


 打ち合わせをしたわけでもなく、導かれるようにこの場に俺と脳筋丸がいる。

 なんでお前なんだよ。


 脳筋丸いわく、クラスの全員に声をかけたら全員から距離を置かれたという。


 本人は何でだ?と首を傾げていた。


 自分の自己紹介思い返してみろよ、あとムキムキの大男が突然猛烈に話しかけてきたらビビるだろ……。


 積極的にコミュニケーションを取ろうとした男と、コミュニケーションを取らず自分の世界に籠った正反対の俺が同じ結果になったのは不思議なもんだ。


「寒くなったらここで食べることはできねえなー」


 大量にある白米を口にしながら脳筋丸が言う。


「冬になるまで友達ができない想定なの悲しくなるから辞めてくれ、その時は空いてる人気の少ない教室を探そう」


「辞めてくれって言いながら、冬のこと考えてるじゃねえか……」


「でも俺今日部活の入部届出しに行こうと思ってるから、そこで友達ができるかも知れない」


「てっきり帰宅部だと思ってだぜ、、何部に入るんだ?」


「演劇部」


「イメージできないな」


「うるせえ」


 俺もイメージできてねぇよ。

 街角で偶然アナウンサーとぶつかり恋に落ち、なんだかんだあって渡米しビジネスを成功させ、そのままアナウンサーと結婚する。

 そんな妄想を可能にした俺の想像力でもイメージできてない。


「脳筋丸は部活入る予定ないの?」


「俺は筋肉研究部」


「そんな部活があるのか……」


 何でも研究すればいいものでもないだろ、と思うが人が入ろうとしている部活に向かってそんなことは言えない。

 たまにいるだろ?人が好きとか美味しいって言ってるものに対して俺は嫌いとかいうやつ。

 あーゆう人間にだけはなりたくないマジで。


「俺、駿河に呼ばれてる感じで中学の時、脳筋丸って呼ばれてただろ?この学校では筋肉バカって呼ばれてるらしい」


「捻りがないな。あまりにも安直すぎる」


「いや、そこじゃねえんだよ。チラッとそう言われてるのが耳に入ってな……。バカは酷くないか?」


 脳筋丸はよくて筋肉バカはダメなのか、基準がイマイチ分からない。


 ただ、脳筋丸に比べてキャラクター感は無いと言うか、悪口感は少し感じる。


 まあ、まだ学校が始まったばっかりというのもあるだろう、気の毒に。


「気にするな。そんなこと」


 中学時代に湾と呼ばれていたことを気にしていた俺が人に気にするなと言うのは変な話である。


 でも、脳筋丸と話していて本当にそんなこと気にしなくていいだろと思ってしまった。


「おれさ、恋がしてーよ」

 脳筋丸からキャラに合わないセリフが飛び出す。


「友達が出来ていない俺らからしたら遠い話だな」


「ちっくしょーー」

 甲高く出された大きめの声が校舎の間を反響する。


 そうゆうところだぞ?


「脳筋丸って彼女いた事とかあんの?」


「もちろんねえよ」

 もちろんという自覚はあるんだ。


「タイプは?好きな女優さんとか」


「実に良い質問だ、ありがたい。小柄でボブの子がいいな。守りたくなる系って言うか、小動物みたいな感じだな」


 犯罪臭が少し漂うが、きっとまだ大丈夫だ。

 頼むから幼女とか手を出すなよ。


 アニメ好き好き君代表の駿河としては、この特徴の女の子が好きな男はアニメにハマる素質がある。

 少しずつコイツにアニメというものを教えていってやろう。


「小柄な子か……その胸筋で抱きしめ殺したら大変だぞ」


「バッカお前。女の子を抱きしめる時は優しくソフトなタッチで抱きしめるに決まってんだろ!」


 そうですか、そうですか……。


「彼女ができたら何したいの」


「お、お前、そんなこと聞くなよ……そりゃ手繋いだり、キス、とか……」


 大人しめな女の子のように大柄の男がボソボソと話す。

 両人差し指もツンツンもさせている。すまないがキモい。


 もっと一緒に映画行きたいとか動物園行きたいとかゴールドジム行きたいとかそうゆうのかと思っていただけに質問の答えが生々しい。


 しかし、人間というものは案外こうゆうものなのかもしれない。

 見た目では強そうで男らしそうでも中身は乙女だったり、優しさの裏側にはとんでもない悪意が隠れていたり。


「脳筋丸ってかわいいところもあるんだな」


「男に可愛いって言っても喜ばれないぞ?」


「わかってるっつーの。あと、遠回しにキモいって言う意味でもあるからな」


「な、なに⁈」

 お弁当に向けられていた視線が猛スピードで俺に向けられ、その遠心力で脳筋丸の口から米粒が飛ぶ。


 汚えぇ。。

 その筋肉がなければ1発殴っているところだった。

 反撃されたら負けるからしないけど。


「まあまずはお互い部活で友達作ろうぜ!それまではここ集合な」


 元気に、それはもう元気に屈託の無い笑顔で脳筋丸が言う。


「そうだな、頑張るか」


 そう言いながらも、多分お互い自分が先に友達を作り、この場を去ってやると闘志をメラメラ燃やしている。


 風が強く吹き校内に咲く桜がヒラリヒラリと俺に向かって舞い降りる。


 脳筋丸が俺の肩の乗った桜を優しく払い落とす。


「ありがとう」


 そう言って俺は最後のご飯を口に運んだ。


 春はまだ始まったばかりだ。

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