第五話:ノエルの心(ルミ視点)②
部屋に戻ると、うつろが出迎えた。さっさと寝てしまったと思っていたが、起きたんだろうか。ノエルはと確認すると、まだ眠っている。
「どうした、うつろ」
「……ノエルの心について話をしようと思ってな」
「ほう」
そうか、うつろにはノエルの心がある程度わかるのか。悪魔は人間と契約したとき、人間の感情をエネルギーに変える。それを自身の活動にも充てながら、魔法の力として還元することで対等な契約としているという話を父から聞いたことがある。その影響で、互いに互いの心がある程度わかるらしい。どれほどわかるかは、繋がりの強さと魔法の影響の強さによるとか。
私は自分のベッドに座り、うつろを隣に座らせる。
「お前もこれまでノエルの魔法をいくつか見てきただろう」
「ああ。炎と水と土をよく使っていたな」
「だが、ノエルの魔法で一番強いのは闇だ」
「闇……?」
「炎は怒り、水は悲しみ、土は恐れ、闇は絶望だ」
「どれもネガティブな感情だな」
怒りも悲しみも、よくわかる。突然父親を殺されれば、誰だってその感情が強くなるだろう。それにしても、恐れと絶望か。ノエルの深層心理に影響しているんだろうか。
「私は父親が殺される前から、ノエルの影に潜んでいた」
「ああ」
「そのときからほとんど変わらないんだよ。ノエルの絶望の深さが」
「そうなのか?」
「父親の死で強くなったのは怒りと悲しみと殺意だ」
「殺されてしまったわけだからな……」
殺意がわくのも、当然だ。私にも、父に対する殺意が無いかと言われれば、ゼロではないだろう。事実、私は父を一度殺したのだから。
「だが絶望は変わらない。影に潜んだそのときから、強く強く感じていた」
「ノエルは死にたいと言っていた。昔からずっと、理由はわからないけどそう思っていたらしい」
「私が寝ていた間に、そんな話をしていたのか」
「酒を飲んでな。泣いていたよ」
うつろが俯いている。表情がないせいか、何を考えているかまでは私にはわからない。想像すらも、つけにくい。その仮面の、仮初めの姿の奥でうつろは何を思うのだろう。
「良かったら、ノエルのことを見ていてやってくれ」
うつろが、ぽつりと雫がこぼれるような声で言った。
「ああ、もちろんだ」
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