#18 手を取り合って

「フリードくん。先にサニーとシてあげてください」


 部屋に入ると、マリアは開口一番にそう言った。だが、その声はすごく辛そうだ。それもそのはす。サニーが『発情:Lv1』なのに対し、マリアは『発情:Lv2』なのだから。

 マナ切れを起こすと、体から力が抜ける。未契験者ならそれだけで済むのだが、【淫紋契約】を済ませている場合、更に発情状態になってしまう。この発情はLv1~3まであり、マナ切れの度合いやマナ総量によって変わる。サニーのマナ切れは軽く、マナ総量もまだ多くないからLv1でとどまっているのだろう。


 一方、マリアの陥っている症状は少し違う。

 マナ切れではなく、マナ暴走。初めて魔法を使ったときや、強大な魔法を使ったときに起こる症状だ。


「いや、マリアのほうが先だろ。……Lv2だろうが」

「マリア、そうなの……!? じゃあ姫より辛いはずじゃない!」

「でも、サニーがマナ切れを起こしているのは私のせいですから。本当ならフリードくんに手伝ってもらう資格もないんです……」


 マリアは俯きながら、ぎゅっと手を握った。

 既に頬は火照っている。息の荒さが『発情:Lv2』の辛さを物語っていた。発情と言ってしまうとエロいだけで辛くないものだと聞こえるかもしれない。

 だが、性欲は三大欲求の一つだ。食欲や睡眠欲と同列の欲求。それが無理矢理高められているのだ。辛くないはずがない。


 それでも、マリアは堪えようとしている。

 ――抱えきれない罪悪感のせいで。


「そんなことない! マリアはちっとも悪くないんだから!」

「悪くないわけないじゃないですか! フリードくんと契約して得た力だったのに、上手く扱えなくて……そのせいで二人に――」

「そんなの、姫も同じよ! 完全には制御しきれなかったもの」

「それでもサニーは誰かを傷つけることはなかったじゃないですか! 私みたいに……守るための力で傷つけることは……」


 サニーの力強い言葉を、しかし、マリアは否定してしまう。

 その声が苦しそうなのは、きっと発情状態のせいだけじゃないだろう。リブラ先輩と約束したところで、マリアの中の罪悪感が完全に消えてなくなってはくれない。


 マリアの気持ちは、少し分かる。

 この前の決闘で俺は、マリアやサニーを傷つけた。どんな意図や大儀があったとしても、その事実は変わらない。


 自分を赦せない――だけじゃないのだ、きっと。

 一度傷つけてしまうと、どうしても頭にとある可能性がよぎる。『もしも自分の力がもっと強かったら、今よりも酷いことになっていたんじゃないか』という可能性だ。

 だから自分のことが憎いし、恐ろしい。

 そう感じてしまっているのだと思う。


「マリアに……それと、サニーにも。聞いてほしいことがある」


 俺は躊躇いながらも口を開いた。

 マリアの蟠りを失くすためにできることは、きっとこれだけだと思うから。


「二人は俺のステータスを見たよな? 俺には【勇者の卵】以外にも二つ、スキルを持ってる。俺が魔族を倒せたのは、【勇者の卵】とは違うスキルのおかげなんだ」


 突然の言葉に、二人は戸惑っている様子だった。

 俺は握った拳に目を落とし、自分が殴ってきたもののことを思い出しながら言う。


「【1/3の純粋な神気】――このスキルのおかげで、俺は殴るだけで魔族を倒せる。他にも使い方次第で魔法みたいなこともできると思う」

「「…………」」

「もう一つは【無限精力】。このスキルを持ってる限り、俺は無尽蔵に動ける」


 あのクソ神は【無限精力】をセックスのために与えたんだろう。途中で体力が切れたり、勃たなくなったりしたら、抜きゲーの主人公失格だから。

 しかし、このスキルはセックス以外のときにも発揮される。疲れを感じることはあるようだから、厳密には『疲労を無視して動ける』スキルなのだろうけれど、同じことだ。


「この二つのスキルがあるから、俺は無敵だ。……魔法や剣術を一生懸命練習してきたみんなからすれば、どう考えてもズルでしかないけど。そんなことはどうでもいいんだ」


 俺の『ズル』という自嘲をマリアもサニーも、揃って否定しようとする。けれど、俺が話したいのはそこではない。今は二人にかぶりを振って応え、伝えたいことを伝える。


「俺は無敵だ。だから――二人がどんなに強力な魔法を持っても、その魔法を上手く使いこなせなくて暴走しても、絶対に止めてやれる」

「そんなのっ……フリードくんに迷惑をかけてしまうだけです」

「迷惑だなんて思うはずないだろ」

「…………それは、フリードくんが優しいからです。迷惑だと思わなくても、実際に迷惑をかけてしまっていることは変わらないじゃないですか。それに……フリードくんだけじゃ手が足りないことだってあるはずです」


 そうだな、と素直に思わらされる。

 迷惑かどうかってことは抜きにしても、俺は今回の件を一人で解決したわけじゃない。サニーも協力してくれたのだ。迷惑を俺だけで背負いきれるとは限らない。


「じゃあ、早いこと強くなって俺を支えてくれ」


 もともと持っていこうとしていた結論を、俺はあっさりと放棄した。

 俺の持っている力はチート級だ。まだ魔法を使っていないし神気も上手く扱えていないが、きっと俺一人でどうにかできるくらいに強くなれる。

 だから何だと言うのか。

 俺は抜きゲーを生きてるわけじゃない。俺だけが賞賛される必要はどこにもないんだ。


「今日はサニーが俺の届かないところに手を伸ばしてくれた。同じように、マリアも俺を支えてくれ。次はサニーが暴走するかもしれないしな」

「そうねっ、姫もまだまだ発展途上だもの! もっと強い魔法を使おうとしたら、暴走させちゃうかもしれないわ」

「そうそう。なんなら俺もまだ魔法を使ってないわけだし、次に事故るのは俺の可能性が一番高いくらいだ」


 努力、友情、勝利。古き良き少年漫画の三原則、大いに結構じゃないか。

 俺は改めて二人を見て、はっきりと言う。


「俺は二人に何かあったら、絶対になんとかする。そうなれるように強くなる。だけど、どうせ手が足りないことなんて山ほどあるだろうし、俺自身がヤバくなることもあるだろうから――強くなってくれ。俺と一緒に、な」

「フリード、くん……っ」


 つーっ、と零れる涙をマリアは掌で拭った。

 そして噛み締めるように、こくこくと頷く。


「約束します。フリードくんを支えられるくらい強くなるって」

「姫は最強の魔法騎士になるから、当然支えられるようになるけど!」


 天から零れる雫みたいに笑うマリア。

 天から降り注ぐ太陽みたいなサニー。

 二人の笑顔はとても綺麗で、絶対に守らないとな――と強く思った。


「…………ごめんなさい、フリードくん。もう、限界です」

「……姫も。早く……気持ちよくシて?」


 少し長々と話しすぎたらしい。

 真剣なことを話していたのに、二人の肌は仄かに赤く染まっている。もぞもぞと身じろぐスカートの中に触れれば、下着の上からでも分かるくらいに潤っていた。


「じゃあ、二人一緒にな?」

「……はい」「うん」



 ◇



――・――・――・――・――・――

マリア・ヴィクトール 15歳

スキル:【賢者】

属性:水

経験回数:2回

S値:3 M値:3

最近したH:対面座位でイチャイチャセックス

      正常位でだいしゅきホールド

契約者とキスした回数:10回

契約者にイカせてもらった回数:15回

契約者:1名(MAX)

◇フリードリヒ・アレクサンダー

淫獣:なし

――・――・――・――・――・――


――・――・――・――・――・――

サンフラワー・コン・ドミネリア 15歳

スキル:【姫騎士】

属性:火

経験回数:2回

S値:0 M値:25

最近したH:喉奥までイラマチオ

      スパンキング後背位

契約者とキスした回数:5回

契約者にイかせてもらった回数:20回

契約者の精液を飲んだ回数:2回

契約者:1名(MAX)

◇フリードリヒ・アレクサンダー

淫獣:なし

――・――・――・――・――・――

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