#15 魔法ってすげぇー!
「使えるようになった魔法の練習がしたいわ!」
と言い出したのはサニーだった。サニーの言葉を聞いたルナさんが使用申請を出してくれたため、俺たちは授業が終わってすぐに第五魔法訓練場に向かった。
ちなみに、学園の敷地内の存在するのは第一~第三魔法訓練場のみだ。他の魔法訓練場は王国の僻地に用意されており、転移装置を用いて向かう。この国は人が住んでいない土地が多いらしく、訓練場には困らないらしい。
……その辺はスカスカな設定だよなぁ。
ヌけることに特化している分、ザルな設定は多い。その設定を現実に落とし込んでいるからか、『そうはならんやろ』っていう事実もちょこちょこあったりする。
「ぼちぼち人はいるんだな」
「そうね。でも、訓練場での勧誘は禁止されているから大丈夫よ」
「流石にここでお昼みたいに追いかけ回和されるのは危ないですもんね……」
言い出しっぺはサニーだが、もちろんマリアも一緒だ。逆にルナさんは別行動である。〈メイド研究会〉の会長として見込みのある新入生を勧誘しにいった。
……まぁ、この時点でのルナさんが別行動を取りたがるのは『ハセアカ』のシナリオ通りなので不思議には思わない。
「研究会の件は置いといて、今は魔法の練習だな」
俺たちは昨晩【淫紋契約】を結んだ。
ステータスを見れば、それぞれ属性を授かっていることが分かる。魔法能力に関わるステータスだけ改めて確認しておこう。
――・――・――・――・――・――
フリードリヒ・アレクサンダー 15歳
スキル:【勇者の卵】【1/3の純粋な神気】【無限精力】
属性:光
――・――・――・――・――・――
――・――・――・――・――・――
マリア・ヴィクトール 15歳
スキル:【賢者】
属性:水
――・――・――・――・――・――
――・――・――・――・――・――
サンフラワー・コン・ドミネリア 15歳
スキル:【姫騎士】
属性:火
――・――・――・――・――・――
それぞれ授かった属性は『ハセアカ』と同じだ。俺が光でマリアが水、サニーが火の魔法を使えるようになっている。
「光属性……聞いたことがない属性です。これが【勇者の卵】の証なんでしょうか?」
「姫、聞いたことがあるわ。光属性を授かるのは勇者と聖女だけだ――って」
俺のステータスを確認したのだろう。二人は光属性に驚いた様子を見せている。
そういえば、そうだった。光は
「俺は後で試せばいい。まずは二人だな」
「それもそうね。じゃあ、姫が使ってみるわ!」
元気よくサニーが手を挙げる。言い出しっぺはサニーだし、妥当だろう。マリアもそれで問題ないようなので、サニーから始めることにする。
万一のことを考え、俺とマリアはサニーから距離を置いた。今のところ、俺が目撃したことのある有属性魔法はアルファの【ボム】と、あいつが転移するときに使った名称不明の魔法だけ。前者はともかく後者の規模は凄まじかったので、警戒して損はないと思う。
「……行くわね」
「おう」
「頑張ってください、サニー」
サニーは腰から剣を抜く。この前、俺が折ってしまったものとは違う剣だ。剣を両手で構えると、サニーは一瞬瞑目し、小さく深呼吸した。
風が吹く。
制服のスカートが靡き、同時に、彼女の髪が揺れた。
その刹那、
――ちりちり
肌に触れる空気が焼けた。
錯覚か、それとも魔法の兆しか。
確かめるよりも先に、サニーの
「【フレイム】」
ああ、これが本当の魔法か――と。
俺はこの世界の神秘の一端を、真の意味で目の当たりにした。
「っ……これが、姫の魔法」
「そう、みたいだな。……綺麗な炎だ」
サニーの構えていた剣が、青色の炎を纏っていた。じりじりと空気を焼いているのだろう。何かが燃えるときの異臭が鼻孔をくすぐる。
自分が生み出した青炎の剣を見て、サニーはうっとりと吐息を漏らす。その気持ちは俺にも分かる。本当に綺麗な――息が止まるほど美しい炎だった。
「すごく大きな炎ですけど、熱くはないんですか?」
「……そうね。少しだけ熱いけれど、火傷する感じではなさそう。姫の魔法は付与系みたいだわ」
「えーっと、確か魔法にも四つタイプがあるんだっけか?」
本で読んだことを思い出しながら言うと、サニーが炎剣を振りながら頷いた。
「攻撃系、付与系、結界系、特殊系の四つね。付与系はこんな風に魔法を纏わせたり、加護を授けたりするのが得意なタイプよ」
人によって得意とする魔法のタイプは異なる。あくまで得意不得意なので工夫によっては攻撃系の魔法を付与したり、結界系の魔法を攻撃に使ったりすることも可能だが。
最初に有属性魔法を使うとき、人は自然に得意なタイプの魔法を発動するらしい。サニーが今しがた【フレイム】という魔法を使ったのも、自分の意思というよりも半自動的なものだったわけだ。その辺りは【淫紋契約】の詠唱と似ている。
ちなみに、この辺のことは『ハセアカ』であまり語られていなかった。RPG要素はそこまで凝ってなかったからなぁ、あのゲーム。
「姫が憧れている人も――こんな風に付与系魔法を使っていたのよ。だから嬉しいわ」
「へぇ、そうだったのか」
「あの。サニーが憧れている人って……もしかして、王国騎士団の?」
「ええ」
マリアの問いに、サニーが噛み締めるように頷いた。
いや、何を言ってるのか分からないんだが……と思いかけて、『ハセアカ』のサニーを思い出す。そういえば、理想とする魔法騎士がいるって言ってたような……。
「王国騎士団の初代騎士団長――“雷姫”ドンナ。王国史上最も勇者に近かったとされる最強の魔法騎士。姫はドンナ様のような魔法騎士になって、今度こそ平和な世界にするのよ」
そう言ってのけるサニーの姿は、太陽みたいに眩しかった。
“炎姫”、と。
そんな風に呼びたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えた。まだ彼女は道半ばだ。ただ有属性魔法を使えるようになっただけで賞賛すべきじゃない。
だから、喉元まで出かかった二つ名も『かっこいい』という賞賛の言葉も飲み込んだ。
代わりに俺は、精一杯のエールを口にする。
「絶対になれるよ。どうせなるまで努力するんだろうから」
「当たり前よ! 姫が決めたことは絶対だもの!」
――・――・――・――・――・――
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すぐに終わりますので、なにとぞ……!!
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