#06 ツンデレめんこ
遅れて教室に入った俺たちは当然のように目立ってしまった。
だが、もともとこの展開は『ハセアカ』にもあったので、
「魔族を殴って殺したらしいよ」
「えー、流石に嘘じゃない?」
「でも魔法を使った痕跡もなかったんだって」
「じゃあどうやって倒したの?」
「さあ。分かんない」
「もしかして本当に殴ったとか……?」
「そんなの人っていうよりゴリラだよ。ありえないって!」
――と。
興味を持たれるというより、若干引かれてる感じがするのは気のせいだろうか? 前世のトラウマがぶり返しそうになる。
『でっけー。象みてぇ』
『きもちわりー』
それはまだ、小学生のときだった。その頃はいじめられていたわけじゃないと思う。プールの後に着替えていると、男子たちにゲラゲラと笑われた。俺の男性器は同世代の中で大きかったらしい。
口の中に苦い感情が広がる。
そんなことを考えている間にオリエンテーションは終わった。俺は途中参加だったので2/3ほど聞けていないが、『ハセアカ』のプレイ知識でどうとでもなるだろう。
「では、今日はここまでだ。明日から早速授業を始める。準備しておくように」
と担任が言い、今日はお開きとなる。ちなみに俺が所属しているAクラスの担任は男だ。まぁ後にワケあって先ほどの女教師と交代することになるのだが……それは今はいい。
解散になってもクラスメイトたちはすぐに教室を出て行こうとしない。
が、居残る目的は学生らしい雑談などではないだろう。彼ら彼女らの目的は、担任から言われた
「な、なあロータ! まだ相手が決まってなかったら、俺と【淫紋契約】しないか?」
「……しょ、しょうがないわね。ディルがどうしてもって言うなら契約してあげる」
「いいのか!?」
「べ、別にディルと契約したいわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよね!」
と早くも
こほん、では説明しよう。
『ハセアカ』世界では【淫紋契約】は生涯で一人としかできない。しかも契約相手との相性などが使えるようになる魔法に影響を及ぼすため、多くの生徒が相手を吟味する。
今日はそうした吟味の、一つの期限なのだ。
もちろん、全ての生徒が今日中に【淫紋契約】を済ませるわけではない。特に良家の子息令嬢は優れた魔法適性を持っている可能性が高いため、可能な限り相手を吟味した上で契約をする。しかし、そこまでの適正を見込めない生徒は学園の授業が始まる前に【淫紋契約】を済ませ、授業で有属性魔法の訓練をした方がいい。担任が言っていた
ま、この辺の都合は魔法のためにセックスをするというエロい世界観とヒロインが揃いも揃って未契験という合致しない要素を矛盾なく説明する強引な理屈だと思うが。
ともかく、今日はモブ生徒を中心に数多の【淫紋契約】が結ばれる。
ゆえに校舎内は非常にドエロい空気が充満するのだ!
「くっ、こればっかりはどうすることもできないな……」
本当なら
まだまだ無力だな。悔しさに拳を握れば、爪が掌に食い込む。
「あの。フリードくん!」「そこの平民!」
寮に行こうと思って鞄に手をかけたときだった。
俺を呼ぶ、二つの声が重なる。
「マリアと……サニー?」
「なっ!? 姫をそう呼んでいいのはお父様とお母様とお兄様たちだけよ!」
「そう言われると多く感じるな……『家族だけ』とでも言えばいいのに」
「っ、うるさい! この不敬者!」
びしっ、とその少女が俺を指さす。
彼女と声が重なったのはたまたまだったらしく、マリアが目を丸くしている。そちらの相手もしたいところだが……まずはこっちが先か。
「姫はサンフラワー・コン・ドミネリアよ! よく覚えておきなさい!」
「……どうも。初めまして、ドミネリア王女殿下」
「ええ、そう! 姫はこの国の第一王女なんだから――って、どうしていきなり態度を変えるのよ!」
「私のような下賤の者がドミネリア王女殿下とお話するのに適した態度に変えたまでです」
「っ、あなたのどこが下賤なのよ! 入学早々に同級生を魔族から助けるなんて英雄じゃない! すごくかっこいいと思うわ!」
「は、はあ……? どうも」
「って、何を言わせるのよ! かっこいいだなんて、そんな……っ! と、とにかく、だから敬語なんか使わなくていいってこと!」
「…………」
やっぱりこいつ、面白れぇ……!
彼女は『ハセアカ』のヒロインの一人。太陽のような金色のポニーテールがトレードマークだが、それ以上に特徴的なのは彼女のツンデレ具合である。基本的にはツンツンしており、特に序盤はフリードに突っかかってくる。しかし近年のオタクにツンデレがウケないと思ったのか、速攻でデレを見せるキャラにチューニングされていた。
その結果、SNSで『即堕ちちゃん』と玩具にされるほど面白女に仕上がったのだ。ちなみにサニーってのは物語が進むと主人公が呼ぶことを許可される愛称である。
「なによ、急に黙って。……さっき姫が平民って言ったことを怒っているのなら謝るわ。でも、姫はあなたみたいな平民に危険な目に遭ってほしくないの。分かってちょうだい」
「はあ。……その気持ちは嬉しいけど、俺はドミネリア王女殿下とかマリアみたいな貴族にも危険な目に遭ってほしくないんだ。だから戦いを終わらせるためにこの学園に入学した。だから仲間として扱ってもらえたら嬉しい」
「っ、そ、そう……」
「それで、殿下は俺に何の用事が?」
またペラペラと痛いことを口走ってしまった。
微妙になりかけた空気を誤魔化すように用件を訊くと、サニーは大仰に咳払いをしてから口を開く。
「あなたは【勇者の卵】なのよね?」
「……まあ、そうだな」
「だったら姫と――【淫紋契約】してちょうだい」
「は?」「えっ!?」
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