#04 勇者がゴリラであってたまるか!
「全力で殴ったら魔族が死んだ。君はそう言いたいわけだな?」
「そうですよ。さっきから何度も答えてるじゃないですか」
「何度聞いても信じられないから質問しているんだ。あの規模の爆発を起こせる魔族が殴った程度で死ぬはずがない」
「そう言われても……」
抜きゲー転生一日目。
俺はエロい先生に質問攻めにされていた。ぱつぱつの太腿や溢れんばかりの胸がエロくて視線が引き寄せられてしまう。よく筆下ろし系の二次イラストをSNSで見かけたなぁ……と場違いに思った。
いや、抜きゲー世界的にはむしろ正解な発想かもしれないが!
「はっきり言おう。我々教師も、君の扱いには困っているんだ。平民出身の入学者は初めてだからな。怪しい動きをされると、疑わないわけにはいかない。他国や魔族のスパイなのではないか、と」
「……それは分かってるつもりです」
『ハセアカ』でも初日から【淫間契約】をしたフリードはこうして取り調べを受けた。結果として入学式に参加できず、後から教室に向かうことになる。
もしや、何かしらの歴史修正能力が働いているのだろうか?
「ですが先生、少し考えてみてください。俺は宣託によって【勇者の卵】に選ばれたんです。その力が無自覚のうちに発揮された――という可能性もありますよね?」
「【勇者の卵】がそんなゴリラみたいな存在であってたまるか」
「ですよね~」
ごもっともすぎる。
つーか、俺もあんまり分かってないんだよな。フリードが【勇者の卵】として持つ力は【淫紋契約】にまつわるものだけだったはずだ。
こういうときは、ステータスを確認してみるに限る。実は『ハセアカ』にもRPGのようなステータスが存在するのだ。まぁ、エロい要素以外はストーリーが進んでもほぼ変わらないので、ゲーム上はあまり意味のない機能なのだが。
――・――・――・――・――・――
フリードリヒ・アレクサンダー 15歳
スキル:【勇者の卵】【1/3の純粋な神気】【無限精力】
経験回数:0回
契約者:なし
淫獣:なし
――・――・――・――・――・――
『ハセアカ』はエロステータスにだけは特化しているため、ヒロインの場合には細かく各部位の開発状況とか好きな性感帯とかまで見ることができた。
流石に自分のエロステータスを見なくて済んだことに安堵しつつ、見覚えのないスキルがあることに気付く。しかも二つだ。
どこぞのアニソンのパクリみたいな名前のスキルと、抜きゲー感たっぷりのスキル。
一応スキル説明が見ることができたはずなので確認してみる。
――・――・――・――・――・――
【1/3の純粋な神気】
1/3くらい神気を授かった証。その魂に呼応し、理をも破壊する力となる
――・――・――・――・――・――
――・――・――・――・――・――
【無限精力】
無尽蔵の生命力。
◇子スキル
・絶対絶倫
・スタミナ∞
――・――・――・――・――・――
お、おう……。
なんか色々とドン引きだ。が、合点がいった。このスキルはどちらも、あのクソ神から授かったものだろう。【1/3の純粋な神気】のほうはクソ神が意図してたわけじゃないだろうが。
『お前に無尽蔵の精力と数多の美少女と出会う
あいつはそう言ってた。
「フリードリヒ・アレクサンダー! 私の話を聞いているのか?」
「えっ……あ、すみません。ちょっと考え事をしてました」
先生にきつく声をかけられ、俺ははっと我に返る。ステータスといつまでも睨めっこしていてもしょうがない。
サクッと自分の中で考えをまとめておく。
どうやら俺は『ハセアカ』のフリードが持っていなかったスキルを二つ所持しているらしい。今回の件はおそらく【1/3の純粋な神気】を無意識に発動した結果だろう。そうじゃなきゃ無自覚ゴリラすぎて怖い。
「よし、考えがまとまりました。話に付き合ってくれてありがとうございます」
「何もまとまっていないが!? 勝手にスッキリした顔で出て行こうとするんじゃない!」
「ぐへっ」
流れに任せて入学式の会場に向かおうとするも、首根っこを掴まれてしまう。
うん、知ってた。何も解決してないですもんねぇ……。
とはいえ、スキルのことは説明しづらい。どうしたものかと迷っていると、こんこん、と扉がノックされた。
「こんなときに誰だ? 今は取り調べ中だぞ」
「そこにいる方に助けていただいた者です! どうしても話を聞いていただきたくて、無理を言って場所を教えてもらいました」
「……入りたまえ」
先生がそう答えると、尋問室と化していた部屋に一人の生徒が入ってくる。
その生徒とは――マリアだった。彼女は俺と違って簡単な事情聴取で済まされ、入学式に出ていたはずだ。
マリアは俺と目が合うと、たったっと駆け寄ってくる。
「先ほどはありがとうございました! 私はマリア・ヴィクトールと申します」
「お、おう。俺はフリードリヒ・アレクサンダーだ。……距離が近くないか?」
「ご、ごめんなさい。少しでも近くであなたを――フリード様を目に焼き付けたくて!」
「ぶふっ!?」
予想外の呼び名に思わず噴き出してしまう。
フリード様、だって……? マリアの眼はキラキラと曇りなく輝いていた。体が触れそうなくらい距離も近いし、マリアのテンションがおかしい。
「だ、大丈夫ですか!? 先ほどの戦いでご無理をなさったから……」
「いや、無関係だ。……俺は平民出身だから、様付けされるような身分じゃない。むしろそう呼ぶべきは俺のほうだよ」
「身分なんて関係ありません! 私はあの場で助けていただいたフリード様だから敬愛しているんです!」
敬愛!? 話が明後日の方向に飛んでいく。いや、飛んでいってるのはマリアのキャラの方かもしれない。
「……仮にそうだとしても、俺は君と対等になりたい。だから様付けはしないでくれると助かる」
「そ、そうですか……? では、フリードくん、とお呼びします」
「ああ。よろしくな、マリア」
「~~っ!?」
「……? どうしたんだ?」
「ごめんなさいっ。フリードくんが耳元で名前を囁いたので、お腹の奥がきゅんとしてしまいました」
「…………」
マジでこんなキャラじゃなかったよな!?
……ここは聞かなかったことにするに限る。俺は難聴主人公だからなっ!
「んんっ。……それで? 君は突然押しかけてきてどうしたのかね? もう入学式も終わった頃だろう。新入生は教室でオリエンテーションのはずだが」
「フリードくんの姿が見えなかったので、抜け出してきました。もしかしたらあらぬ嫌疑をかけられているのでは――と思いまして」
「……ほう」
あー、そういえばそんな展開だったっけ。マリアに助けられ、二人は改めて【淫紋契約】のパートナーとして話をすることになる。
「分かった、そういうことであれば彼を連れて行くといい」
「えっ、そんな簡単に?」
「彼女の様子を見ていれば、君が悪人でないことは分かるからな」
「は、はあ……」
ご都合・オブ・ご都合な展開だった。
まぁ、許されるのであれば余計なことは言うまい。
マリアという身元保証人を獲得し、俺はようやく保釈されたのだった――。
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