女性に贈る恋愛小説

青燈ユウマ@低浮上

第一話 色気


「かのちゃん」


 居酒屋の店員さん案内されて個室に入ると、既に来ていた男性――――江野さんが私の顔を見て微笑んだ。長い睫毛から覗かせる瞳には照明のだいだい色が差し込んで、妖しい火を灯しているようだった。高い鼻梁には影が出来ており、控えめに笑う薄い唇と合わさってせるような色気を漂わせている。


 少し緊張しながら個室の扉を閉めた。

 江野さんは腰を上げて、私のコートを預かると手早くハンガーにかける。


「ありがとう」

「どういたしまして。で? 何飲む?」


 座った私の前に江野さんはドリンクメニューを広げた。


「何飲もうかな~。江野さんは何選んだの?」

「俺はジントニック。かのちゃんは酒弱いでしょ? カシオレとかにしなよ」

「うん、そうだね。そうする」


 ボタンを押して店員さんを呼ぶ。ジントニックとカシオレ、それに唐揚げと揚げ出し豆腐も注文した。

 店員さんが部屋から出ると、江野さんはネクタイを手で引っ張って少し緩めた。首元から白く美しい肌が見えた。


「かのちゃんは最近どう?」

「え? まぁ、特に変わったこともなく。普通普通」

「そっか。仕事も順調?」

「うん、キツいこともあるけど、まぁ何とかやれてるよ」

「良かった」


 失礼します、と言って店員さんが入ってきた。お酒と料理を置いた後、お辞儀をしてすぐに部屋を出て行った。

 江野さんがグラスを持って私を見る。


「じゃあ、かのちゃん。かんぱ~い」

「かんぱ~い」


 二人でお酒をあおる。

 仕事終わりの疲れ切った身体に癒やしが染み渡っていく。この快感に身体がとろけてしまいそうだ。


「あ~~美味しい~~」と私は声を漏らした。


 そんな様子を江野さんは頬杖をつきながら優しい瞳で見つめる。


「かのちゃん」

「なに?」


 江野さんと目が合う。その冷静を装った瞳からは、隠しきれない熱を感じた。


「かのちゃんって、本当に美味しそうに飲むよね」

「え? そうかな?」

「うん、そう」

「は、恥ずかしいな……」

「そんなことないよ、可愛いよ」


 江野さんはまだ私から視線を外さない。

 照れくさくなって、私は視線を逸らした。


「か、からかわないでよ」

「からかってないよ。本当に可愛いなって思って」

「もう。ホント口がうまいんだから」

「何言ってるの? こんなこと、かのちゃんにしか言わないって」


 江野さんは、ふっと笑った。

 

 私は恥ずかしさのあまり俯いてしまった。

 こんなこと、面と向かって言うなんて……。

 チャラ男だ。絶対、そうに違いない。

 ダメよ、かの。こいつに飲まれたらダ……。


「かのちゃん」


 囁く声が右耳を覆った。

 心臓が跳ね、火がついたように顔が熱くなる。

 私の身体は固まってしまい、目だけがかろうじて動かせた。

 視界の端に江野さんのスラックスが見える。


(江野さん……私の隣に……)


 私の右肩に江野さんの肩が触れる。男らしい固い筋肉が、服の上からでも私の肌に伝わった。


「かのちゃん? 大丈夫? 具合、悪いの?」

「い、いえ……あの……」

「顔、赤いよ?」


 そう言って、江野さんは私のサイドの髪を手で上げて、掌を私の頬に沿わせた。ヒンヤリとした大きな掌が私の頬の温度を更に上げる。


「……!? あ、あの、止めて下さい!」


 声が裏返りながら、江野さんの目を見ずに言った。


「え? どうして? 俺は心配してるだけなのに。かのちゃんは、俺に心配もさせてくれないの?」

「え、いや、そういうことじゃ……」

「じゃあ、どういうこと?」


 江野さんは頬から手を離すと、その手を私の腰に回した。そのまま私の身体をぐいっと引き寄せ、彼の身体に密着させる。


 彼の顔が近づき、私の耳に、ふっと吐息がかかった。


「ねぇ、俺に教えてよ。かのちゃん」







◇◇◇◇◇


 今回敢えて女性視点で書きました。

 なかなか難しいですね。

 試しに書いてみたのですが、

 もし、あんまりウケなかったら続きは書かないかも

 




 

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