スキル『最強』の使い方 ~女神からスキル『最強』を俺は貰ったが、その使い方がさっぱり分からなかった~

アキナヌカ

スキル『最強』の使い方 ~女神からスキル『最強』を俺は貰ったが、その使い方がさっぱり分からなかった~

「今年で成人となる貴方たちに女神さまからスキルが与えられました、特別なスキルを与えられた方はどうぞ前に出てきてください」

「………………」


 俺の名はアクシオン、黒髪に黒い瞳を持つ普通の男だった。両親はごく普通の農家で俺はその七人兄弟の末っ子だった。俺が耕作できる土地など他に六人も兄弟がいたらあるわけないので、俺は成人したら街に出ていって冒険者になるつもりでいた。そうして成人になると受ける儀式があった、俺は今年成人になる連中と一緒に女神からスキルを授かる儀式を受けた、中にはここで珍しいスキルが出て人生が変わる者もいるとは聞いていた。


「スキル『最強』?」


 その成人の儀式で俺は『最強』というスキルを授かった、でも何が一体最強なのか? どういう基準で最強なのか? 俺にはさっぱり分からなかった、だからといって珍しいスキルです。そう言って簡単に村のお偉いさんに申し出る気はなかった、何故なら平民にとってお偉いさんから目をつけられても、良いことは何も無かったからだ。


「なぁ、アクシオン!! どんなスキルだった? 俺は『剣術+1』だったぞ!!」

「………………奇遇だな、俺も『剣術+1』だったぞ」


 問題事を起こしたくなかった俺は、話しかけてきたそんなに仲が良くもない幼馴染、そのスキルを全力で模倣することにした。それから成人するまでの僅かな間に、俺はその幼馴染が木剣を振り回すのを見て学んだ。そうしてその幼馴染と勝負することもあった、すると俺には幼馴染の無駄な動きが良く分かった、そうしていつでもその幼馴染に勝つことができたが勝敗は互角にしておいた。


「それじゃ、父さん、母さん。俺は街に行くからお元気で」

「何かあったら村に帰ってきてもいいかもしれん、お前一人くらいの食料くらい何とかなるかもしれん、しかしどうにもならんかもしれん!!」

「本当に死にそうな時だけ帰ってきてね、うちに無駄飯を食べさせる余裕はないから!!」


 俺は両親の温かい言葉を胸に街に向かう旅に出た、その途中で魔物や狼に襲われたりもした。しかし、俺がそれじゃ殺すかと持ってそいつらを見ると、魔物や狼はすぐに逃げ出してしまった。俺はこれもスキル『最強』のおかげなのかなと思った、ちなみに例の『剣術+1』のスキルを貰った幼馴染は、街に行く道の途中で狼に襲われて死んでいた。


「天国に行けるといいな」


 俺は一応は『剣術+1』を模倣させてもらった礼として、その幼馴染の遺体を埋葬しておいた。それから彼の荷物から役に立ちそうな物を貰っておいた、彼は両親から本物の剣を貰っていたので俺はそれを使うことにした。そして俺はようやく狩りをするコツをつかんでいた、最初から殺そうと思うと魔物や動物が逃げ出してしまうが、それを許さないくらいの速さで彼らを捕まえれば良いのだった。


「うさぎの丸焼きを一羽丸ごとなんて、家じゃ兄さんたちに盗られて食えなかったな」


 兄弟が七人もいる食卓なんて戦争だった、自分の分をできるだけ早く食べ終わって、他の人のものを狙うのは当たり前だった。俺はいまいちこの戦争に弱くて、よくお腹を空かせていたものだ。こんなに生存能力が弱くては今後は生きていけないだろう、俺は今度からは自分のご飯を狙われたら、それを誰にも譲らないことにした。


「ここがハンデルの街、通行料は銅貨一枚か。それじゃ、さっさと冒険者登録をしよう」


 俺は無事に村から一番近いハンデルの街に着いた、そうして冒険者ギルドで冒険者登録をしたのだが、スキル欄にさすがに嘘を書くわけにもいかずに何も書かずに空けておいた。そうしたら冒険者ギルドの受付をしているお姉さんに、スキルを教えてくださいと言われた。俺は戦闘の役にも立たない恥ずかしいスキルだから、そう言ってスキルのことはとりあえず誤魔化した。


「それじゃ、冒険者ギルドの説明をします。冒険者のランクは銅が新人、鉄で一人前、銀で熟練者、金は相当の実力者、白金はそれ以上で幾つかの功績を修めた者になります。まずは銅の冒険者として、堅実にどこかのパーティの荷物持ちでもすると良いでしょう」

「なるほど、それはそうですね」


 こうして俺は臨時の荷物持ちとして働き始めた、いろんなパーティがいてスキルのことを何度も聞かれた。恥ずかしいスキルで戦闘では使えないと言うと、大抵は大笑いされたが馬鹿にされたりはしなかった。何故ならスキルには本当にいろんなものがあって、『美肌』とか、『努力』とか、『水泳』とか役に立つのか立たないのか分からないものも多かった、俺はきっとスキルを授ける女神とやらは暇なんだろうと思っていた。


「お前どんなに大荷物を持たせても、よく遅れずに俺たちについてこれるな」

「村では鍛えていたので、重い物を運ぶのには慣れていますから」


 そうして俺は荷物持ちとして有名になっていった、戦闘には絶対に参加しないが荷物を必ず運ぶと評判になった。俺としてはダンジョンなんかに入ってモンスターに出合っても、俺がそのモンスターを見たと思った瞬間にはそのモンスターが逃げ出すか、俺以外の他の人間に襲いかかっているだけだった。俺は荷物持ちとして順調に成長してそこそこ稼いでいた、一人で慎ましく暮らすのならこれで俺は十分だった。


「俺たち勇者パーティの仲間になって欲しい!!」


 そうして荷物持ちだけして銀の冒険者にまでなった俺は、勇者パーティから仲間になるように誘われた。俺はその報酬の良さにつられてそのパーティの仲間になった、だけどすることは大して変わりなかった。俺はいつものように荷物を確実に運ぶだけ、モンスターなどの敵は勇者パーティが倒してくれた。それでも俺は高い報酬が貰えた、そしてこの勇者パーティはなかなか個性的だった。


勇者ホープは金髪に蒼い瞳の男性で聖剣を使い、ありとあらゆる魔物を斬り倒してみせた。


賢者デュークスは蒼い髪に同じ色の瞳を持つ男性で、数多くの魔物を魔法で倒してみせた。


聖女カミラは銀の髪に緑の瞳をしていて、回復の魔法でどんなに深い傷でも治してみせた。


シーフのイディルは白い髪に金色の瞳を持つ女性で、罠の察知や罠解除を得意としていた。


 そして俺たちは旅をしてとうとう魔王城に辿り着いた、勇者パーティから聞いた話によるとここの魔王ヴィズエルが、勇者たちの祖国のイーゲル国との戦争を起こそうとしているという話だった。俺はいつもどおりに荷物持ちとして彼らについていった、でも魔王城の敵は彼らにとって少しばかり強すぎた。だから俺は重い荷物を持ったままそれを軽やかに運びながら、小さな石礫を拾い指で強く弾いてこっそりと敵を倒していった。


「イディル、大丈夫か?」

「正直に言うと、全く大丈夫じゃない!?」


「だろうな、えっと二百二体目っと」

「ここの敵は強すぎるよ!!」


「俺もそう思う、少し休憩をしてから皆で話し合いが必要だな」

「そのとおりだよ、早く休みたいよ!!」


 俺は休憩をすることになってここから引き返すように俺は勇者パーティに進言した、どう考えてもここの敵はまだ彼らには強過ぎた。俺が助けていなかったらもうとっくに、おそらく全員が死んでいたはすだった。でも勇者ホープはそれを自分の実力だと勘違いした、賢者デュークスもそれは同じだった。そして聖女カミラはそんな二人を信じていた、ただ一人だけシーフのイディルは俺の進言に対して賛成した。俺はイディルとは結構仲が良かった、彼女だけが俺の言葉に耳を傾けてくれた。


「大丈夫さ、アクシオン。俺のこの聖剣で魔王を倒してみせる!!」

「アクシオンは少しばかり心配症ですね、この賢者デュークスがいますから心配はいりません!!」

「そう何も心配なことはないわ、アクシオン。何が遭っても私が、皆の傷を癒してみせるわ」

「………………いや、あたしはここから引き返した方が良いと思う。アクシオンの言うことは信用できる、それだけの修羅場を彼は経験している」


 魔王退治に賛成は三、反対は二だった。でも俺はただの荷物持ちだったから、反対票としても数えられていなかった。そうして俺たちは魔王ヴィズエルのところに辿り着いた、そうしてすぐに俺以外の四人は嫌というほどに理解した、この魔王ヴィズエルがとても大きな力を持つ強者であると分かった。俺以外の四人は怯えて息をすることすら難しくなった、俺はこれはとりあえず交渉してみようと思った。


「突然お邪魔して申し訳ない、魔王ヴィズエル。俺たちにもう戦う意志はない、だからここから無事に帰して貰えないか?」

「われの魔王城を散々に荒らしておいて、それはちと図々しい願い事だな」


「それじゃ、俺たちはどうしても戦うのか?」

「そのとおりだ、勇者よ。われと潔く戦って、そして無様に死ぬがいい!!」


 俺は話しかけたことで勇者と勘違いされてしまった、それはともかくそこまで言われると俺の命にも危険があるのだから、俺は魔王ヴィズエルに向かって殺気を向けてみた。魔王は黒い肌に金色の髪と赤い瞳を持つ逞しい男性だったが、俺が一睨みしたら急にガタガタと震えはじめた。俺のスキル『最強』はきちんと仕事をしているようだった、俺はどうすればこの魔王を倒せるのかそれをすぐに感覚として理解した。


「これでも俺と戦うのか? 魔王ヴィズエルよ」


 俺は魔王ヴィズエルを更に殺意を持って見つめた、そうしたら魔王はガタガタと震えながら押し黙ってしまった。彼にもいろんな事情があるのだろう、だったら少しくらい考える時間を与えようと俺は思った。俺が黙っている間に魔王ヴィズエルはいろんなことを考えていたようだ、そして最終的に考えをまとめたのか俺にこう懇願してきた。


「お前とは戦いたくない、だがイーゲル国が攫った我らの民を奴隷から解放して欲しい。そしてその後は相互不可侵としようじゃないか、どっ、どうだ。この提案を受けて貰えるか? 勇者よ!!」

「イーゲル国が魔族を攫って奴隷にしているのか?」


「そうだ、何も知らないのか。あの国はわれの国民の攫って奴隷にして酷使している、だからわれは戦争も視野に入れてあの国と交渉していた」

「それは胸糞悪い話だな、それじゃあその交渉を成功させたら、俺にいくらか報酬が欲しい」


「金でも宝石でも宝物庫から好きに持っていくがいい、大事な物だがわれの国民たちの命とは代えられん」

「それじゃ、分かった。俺がイーゲル国に直接行って交渉してこよう、この国の民である奴隷を一月以内に無事にこの国に返還すること、それにその後はお互いの国を相互不可侵にする魔法契約書を用意してくれ」


 そう俺が頼むと魔王ヴィズエルはすぐに部下に命じてその魔法契約書を作らせた、俺は魔法契約書を受け取り中身をしっかりと確認した。確かにこの魔国の民である奴隷を一月以内に無事に返還すること、それにその後は両国は相互不可侵とすることが書かれてあった。もう魔王ヴィズエルのサインまでしてあった、あとはイーゲル国王のサインを貰うだけだった。


「それじゃ、行ってくる。『転移テレポーテーション』」

「待ってあたしも行く、アクシオン!!」


 それから俺は荷物持ちをしていた間に賢者から見て覚えた魔法を使った、それは『転移テレポーテーション』の魔法で俺とイディルをイーゲル国の謁見の間に運んでくれた。当然現れた俺に国王やその側近それに兵士たちは驚いていた、そして俺は国王らしき者を中心に殺すと強く願い殺気がこもった威圧をした。そうしたら国王もその側近も、兵士たちも泡をふいて気絶してしまった。


「うーん、ちょっと殺気が強すぎたか」

「隠そうとしてたけどアクシオンは規格外なんだよ、普通の人間にアクシオンの殺気は強すぎる」


 俺は面倒だったので国王だけを起こして、勇者パーティのイディルに確かに国王本人であることを確認した。そして俺は国王との交渉を開始した、要は俺の要求をのまないと殺すと脅したのだ。イーゲル国の王はガタガタと震えながら俺の持ってきた魔法契約書にサインした、俺はそれを持ってイディルと一緒にまた『転移テレポーテーション』の魔法を使って魔王ヴィズエルのところへ戻った。


「ほらっ、魔王ヴィズエル。これが魔法契約書だから確認してくれ、あんたの民は一月もしないうちに解放される」

「おお、なんと有難い。宝物庫はこっちだ、好きなだけ何でも持っていくといい」


「そっか、そうだな。もうイーゲル国の近くには居られないし、金貨を二千枚くらい持っていくかな」

「そっ、そんな少額でいいのか!? 戦争になればもっと多くの金が失われたのだが」


 俺にとっては金貨二千枚でも大金だった、平民が働かないで暮らして一年に金貨二十枚はかかる、だから金貨二千枚もあれば俺はこの先の百年は働かなくてすんだ。それと俺は交渉に協力してくれたイディルのことを思い出した、だから魔王ヴィズエルにイディルにも報酬をやってくれと頼んだ。魔王ヴィズエルは快諾してくれた、だからイディルもいくらかのお金を貰うことができた。


「それじゃ、金貨を入れておこう。『魔法マジックの箱ボックス』」


 こうして勇者パーティの誰も死ぬことがなく、魔王ヴィズエルも自分の命は無事で目的だった民の解放と、これからはイーゲル国との相互不可侵という魔法契約を結べた。俺はこれまで倒してしまった魔族に哀悼の意を示して、これで全て上手くいったと思っていた、そうして勇者パーティの三人は『転移テレポーテーション』でイーゲル国へと送り返した。でもイディルは俺についてくると言いだした、理由を聞いたら彼女は真っ赤になって黙ってしまった。


「まぁ、いいや。イディルの罠を見分ける力は確かだからな、これから俺の役に立ってもらおう」

「魔王を倒せたのに倒さないで、これからどうするつもりだよ?」


「いや、そろそろ俺も荷物持ちを卒業してみよう。だから、いろんなダンジョンに行ってみたい」

「それならあたしがとっても役に立つよ、だからあたしはアクシオンについていくからね!!」


 そして俺はとうとう荷物持ちという役目を卒業することにした、荷物持ちだけで銀の冒険者になったのだから普通の冒険者でもどうにかやっていけるはずだった。それにイディルという心強い仲間もできたから、だから俺は安心して普通の戦う冒険者になることにした。それから俺とイディルはいろいろと伝説を作るのだがそれはまた別の話だ、いろいろと片付いた今の俺はうーんと体を伸ばしてこう言った。


「やっぱり、人間は平凡な人生が一番だな」

「いや、お前がそんなことを言うなつーの!! アクシオン!?」


 俺は少しも痛くはなかったが何故かイディルから足を蹴られた、俺はそれを不思議に思ったがイディルが楽しそうに可愛く笑っていたので気にしないことにした。そうどんなスキルを女神から貰っても、やっぱり平凡に自分らしく生きるのが一番なのだ。そうして俺はなんだか可愛いと思いはじめたイディル、そんな彼女と一緒に楽しそうな冒険の旅に出たのだった。

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スキル『最強』の使い方 ~女神からスキル『最強』を俺は貰ったが、その使い方がさっぱり分からなかった~ アキナヌカ @akinanuka

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