第5話 食後に森を抜けて

「ふぅ…… ごちそうさまでした」

 俺は空になった鍋を見ながら、いっぱいになった腹をさする。

「二人で全部食べてしまったな」


「な?! カレーは美味いんだよ、メグ! 」

「こんなに幸せなの、初めて…… 」

 メグも下腹部をさすりながら、また頭をコクコクと振って頷いている。

 涙を浮かべているが、満点の笑顔だ。


◆◆

 カレー用の魔法たちで、鍋を洗い、片付け終わったところで、今後の方針を決めることにした。 まずはメグの事情、次にここが異世界のどこなのか、どこに向かうのが良さそうかだ。


「メグ、どうして捕まっていたんだ? 」

「それは…… 」

「いや、無理に話さなくても大丈夫だぞ?! 」

「ううん、ちゃんと話すよ―― 」


 メグの話を整理すると、彼女は自分の村の傍で人攫いに捕まり、奴隷にされる寸前だったようだ。

 メグが聞いた話では、彼女の種族は希少で、悪い奴らに追われる身らしい。


「家族は近くに居るのか? 」

「たぶん少し遠い…… 村を出て、遠くの街を抜けた先がこの森だから」

「なるほど…… 」

 街があるなら、まずはそこに行ってみよう。 それからメグを村に送り届ける訳だが。

 問題は、どうやってメグを守るかだな…… さっきの魔物と、それから逃げ出す程度の人攫いならどうにかなるけど、他の危険にも用心せねば。


「よしっ、俺がメグを村まで送って行くよ、一緒に来てくれるか? 」

「えぇ!! 良いんですか? あんな凄い食事も食べさせてくれたのに…… 」

 と本気で驚いた様子のメグ。

「もちろん! このおじさんに任せておきなよ! 」

「はい! ありがとうございます!! 」


 こうして俺たちは森を抜け、街を目指すことになった。


 荷物は魔法でにしまう。


 出発前、俺は鍋の重さに頭を抱えていたのだが、メグの「すごい魔法使いさんは、魔法で荷物入れを作れるそうですよ」という助言を信じて試してみたが、なんと本当に異空間の収納が出せた。 

 これもカレー用のスキルなのか…… 凄すぎる。

◆◆


  長いこと道を歩いていたら、メグが疲れている様子だったので、背中におんぶして歩く。


 その後は魔物も出ない、なんてことの無い道のりで、俺たちはあっさりと街の入口についた。 

 街は3m程のレンガの壁で囲まれている、魔物避けだろうか?

 入口から見える様子でも、街が活気に満ちていることがわかる。


 メグは背中ですぅすぅと寝息を立てている。


「さて、門をくぐって街に入るか…… 」

 俺が、中に入ろうとしたとき


「おい、そこのお前! 」

 と、いさめるような声がした。 どうやら門番の兵が俺を呼び止めたらしい。


「え、なんですか」

「その背中の獣人はどうした? 」

「え? あぁ、この子は偶然出会った子で―― 」

 俺が事情を説明すると


「なるほど、わかった。 だが最近、ここらで人攫いが横行していてな、疑うつもりは無いんだが、念のため一緒に来てもらおう」

「えぇ…… 」

これ、完全に疑われてるよなぁ…… このまま行って大丈夫なんだろうか?

しかしメグ、さっきからすやすや寝ていて、全く起きる気配が無い、疲れていたんだろう。 起きて事情を話してくれれば、少しはスムーズに議論進むかもしれないが…… この門番、聞いてくれそうもない気がする。


「なんだ? 知られてまずいことでもあるのか? 」

「いや、問題は無いよ」

 俺は堂々と従うことにした。 抵抗して、メグに迷惑がかかっても嫌だしな。

 こういうの、こっちの世界にもあるんだなぁ。 まぁ、いざとなったらカレー用の魔法とかで、逃げられると良いな…… 。


 俺は門番に連れられるまま歩き、

「着いたぞ、この街では冒険者ギルドに、検問所が入っている」


 全くもって、残念な形ではあるが、俺はついに異世界ファンタジーの定番――

 冒険者ギルドに着いた


 



 

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る