第2話 囚われの獣人を救う

唐井からい料理りょうりが目を覚ますと、そこは森の中だった。

「本当に、俺は死んで異世界に転生した…… ? 」

空気が美味しい。 前世は仕事がきつかったし、家族もいない。

本当に転生したなら、全力で楽しんでやろう。


仰向けになっているリョウリの横には、剣と鍋があり、鍋には布袋が入っている。

「これは、初期装備ってことか? 」

手に取ってみると、どちらも、なんてことはない、普通の道具に見える。


剣はシンプルな鞘付きの鉄製だ。 布袋にはいくつかの調味料と食材が入っている。

「まさか、これだけでカレー生活を送れ、って訳じゃないよな? さすがに…… 」

調味料はスパイスの入った小瓶に、おそらく市販のカレールゥが数かけ。

食材は玉ねぎっぽい野菜に、大きなジャガイモ? 顔のあるニンジン?


まぁ、食料があるだけいいか……

「鏡は無いけど、どうやら前と姿は変わらずそのままだな」

リョウリは自分の左手を閉じたり開いたりしながら、違和感の無さを確認する。


リョウリが立ち上がって背伸びをした直後

「きゃぁ! 」

ドンという大きな物音と共に、木々の向こうから叫び声がした。

「いったいなんだ?! 」

リョウリは慌てて剣と鍋を掴むと、声のした方に駆けだした。



少し走るとすぐに、木々の無い開けた場所に出た。

「大きなトカゲだ! それと荷馬車に子供?! 」


見れば、荷馬車の上に牢屋が作り付けられており、その中に子供が1人捕まっている。

子供の服はボロボロで、近くには誰もいない。


散乱した荷物を見るに、おそらくこの3mを超えるオオトカゲに襲われて逃げ出したのだろう。 丸飲みされていないと良いが……

「まずい! 牢屋が壊される!! 」


トカゲは子供を狙って、何度も突進し、その度に荷馬車はボロボロと壊れていく。

「せっかく始まったばかり、二度目の人生だが、ここであの子たちを見捨てるなんてできない! 」


リョウリは、剣を鞘から抜き、鍋の蓋を構える。

迷っている暇は無い。 

と、リョウリは勢いよく茂みから飛び出した。

「こっちだ! 」


トカゲは声に反応してゆっくりと向きを変え、リョウリに突進してきた。

後ろに避けながら鍋蓋で押し返し、振り上げた剣を、トカゲの首めがけて斜めに素早く振り下ろす。

「それ!! 」


すると、硬そうな皮膚も簡単に剣の刃が通り、ストンと首が落ちた。 

「あぁ、よかった!! 怖かったが、ギリギリなんとかなるものだな。 ふぅ、それか、見かけだけ強そうで、実は慌てるほどの奴じゃ無かったとか? 」


それを見ていた、牢屋の子供は「すごい…… 」と呟き、ぼーっとした顔で座り込んでいる。


ガシャン、とギリギリ保っていた牢屋が、自然に壊れて扉が開いた。


リョウリは、子供の近くに行き、手を差し出す。

「もう大丈夫だ。 よく頑張ったな、怪我は無いか? 」

子供は小さな女の子で、異世界らしく猫のような耳が生えている。


「あり、がとう…… わたし、ずっと1人で…… 」

獣人の子供は震える声でお礼を言うと、リョウリの手にそっと自分の手を重ねた。

その子は安心したのか、静かに涙を流す。

(詳しい事情は、今は聞かないでいてあげよう) 



しばらくして泣き止むと、その子のお腹からグウウゥと大きな音が鳴った。

「はは、お腹すいたか? よし、カレー食べるか? 」

「…… かれー? 」

「そう、カレー。 すっごく美味いぞ! 」

「……すっごく? 」


獣人の子供はしばらく、もじもじしていたが

「いいの? だいじな食べ物なんじゃ? 」

「良いに決まってる! 子供が遠慮するもんじゃないぞ! 」

「……食べ…… たい!」


獣人の子供が少しだけ元気そうに答えた。








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