第2話 囚われの獣人を救う
「本当に、俺は死んで異世界に転生した…… ? 」
空気が美味しい。 前世は仕事がきつかったし、家族もいない。
本当に転生したなら、全力で楽しんでやろう。
仰向けになっているリョウリの横には、剣と鍋があり、鍋には布袋が入っている。
「これは、初期装備ってことか? 」
手に取ってみると、どちらも、なんてことはない、普通の道具に見える。
剣はシンプルな鞘付きの鉄製だ。 布袋にはいくつかの調味料と食材が入っている。
「まさか、これだけでカレー生活を送れ、って訳じゃないよな? さすがに…… 」
調味料はスパイスの入った小瓶に、おそらく市販のカレールゥが数かけ。
食材は玉ねぎっぽい野菜に、大きなジャガイモ? 顔のあるニンジン?
まぁ、食料があるだけいいか……
「鏡は無いけど、どうやら前と姿は変わらずそのままだな」
リョウリは自分の左手を閉じたり開いたりしながら、違和感の無さを確認する。
リョウリが立ち上がって背伸びをした直後
「きゃぁ! 」
ドンという大きな物音と共に、木々の向こうから叫び声がした。
「いったいなんだ?! 」
リョウリは慌てて剣と鍋を掴むと、声のした方に駆けだした。
◆
少し走るとすぐに、木々の無い開けた場所に出た。
「大きなトカゲだ! それと荷馬車に子供?! 」
見れば、荷馬車の上に牢屋が作り付けられており、その中に子供が1人捕まっている。
子供の服はボロボロで、近くには誰もいない。
散乱した荷物を見るに、おそらくこの3mを超えるオオトカゲに襲われて逃げ出したのだろう。 丸飲みされていないと良いが……
「まずい! 牢屋が壊される!! 」
トカゲは子供を狙って、何度も突進し、その度に荷馬車はボロボロと壊れていく。
「せっかく始まったばかり、二度目の人生だが、ここであの子たちを見捨てるなんてできない! 」
リョウリは、剣を鞘から抜き、鍋の蓋を構える。
迷っている暇は無い。
と、リョウリは勢いよく茂みから飛び出した。
「こっちだ! 」
トカゲは声に反応してゆっくりと向きを変え、リョウリに突進してきた。
後ろに避けながら鍋蓋で押し返し、振り上げた剣を、トカゲの首めがけて斜めに素早く振り下ろす。
「それ!! 」
すると、硬そうな皮膚も簡単に剣の刃が通り、ストンと首が落ちた。
「あぁ、よかった!! 怖かったが、ギリギリなんとかなるものだな。 ふぅ、それか、見かけだけ強そうで、実は慌てるほどの奴じゃ無かったとか? 」
それを見ていた、牢屋の子供は「すごい…… 」と呟き、ぼーっとした顔で座り込んでいる。
ガシャン、とギリギリ保っていた牢屋が、自然に壊れて扉が開いた。
リョウリは、子供の近くに行き、手を差し出す。
「もう大丈夫だ。 よく頑張ったな、怪我は無いか? 」
子供は小さな女の子で、異世界らしく猫のような耳が生えている。
「あり、がとう…… わたし、ずっと1人で…… 」
獣人の子供は震える声でお礼を言うと、リョウリの手にそっと自分の手を重ねた。
その子は安心したのか、静かに涙を流す。
(詳しい事情は、今は聞かないでいてあげよう)
◆
しばらくして泣き止むと、その子のお腹からグウウゥと大きな音が鳴った。
「はは、お腹すいたか? よし、カレー食べるか? 」
「…… かれー? 」
「そう、カレー。 すっごく美味いぞ! 」
「……すっごく? 」
獣人の子供はしばらく、もじもじしていたが
「いいの? だいじな食べ物なんじゃ? 」
「良いに決まってる! 子供が遠慮するもんじゃないぞ! 」
「……食べ…… たい!」
獣人の子供が少しだけ元気そうに答えた。
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