第37話 最後の戦い 1/2
「《
彼は不穏な空気を切り裂くかのように、ゆっくりと右手を振り上げた。彼の掌からは、炎の剣が現れる。その剣は、夜空を照らす燃え盛る赤に輝き、周囲を圧倒する迫力で炎を纏った。
彼はその炎の剣を、一切の躊躇なく振り下ろした。地面は彼の剣の力に耐えきれず、ズバババンという轟音と共に溶け出し、灼熱の斬撃が直線的に俺に向かって飛んできた。その攻撃の猛威は、まるで世界をも分断するかのような威力を秘めていた。
「《星屑舞踊》!!」
だが、このような世界を揺るがす攻撃など、これまで幾度となく目にしてきた。俺は宙に輝く星々のように、その斬撃を優雅かつ軽やかに避けた。
俺の回避に彼は一瞬驚いたように見えたが、その瞳はすぐに興奮の光を帯びた。彼の目は、戦いの熱に燃える野生の獣のように輝いていた。なんというか……気分はあまり良くない。
「スゴいじゃないか!!」
「……大した自信の攻撃だったんだな」
「もちろん!! 今の技は僕が最初に考えた、お気に入りの技だからね!!」
「そうかい。まぁ大したことはなかったな」
俺の発言に、男は少し眉を寄せた。
「意外と……ナマイキなんだね」
「そういうお前こそ、案外気が短いんだな」
「……で、次は何を見せてくれるんだい?」
「おっとターン制バトルのつもりか?」
「開発者の余裕だよ。プレイヤーの意見はきちんと聞かないとね」
「そうか。だったら──」
俺は両手を前方にかざした。
そして──
「《
部屋はバキバキバキという音と共に、瞬く間に氷に覆われた。突如として現れた銀色の世界は、まるで冬の王国を思わせるような壮大さで広がっていく。彼は氷の牢獄に閉じ込められるように、その冷たさの中で固まってしまった。
その氷は、ただ寒いだけでなく、完璧な美しさを持っていた。まるで彫刻のように男をその中に封じ込め、彼の身体は完全に凍結され、もはや微動だにできない状態に陥っていた。部屋は、この瞬間に永遠の冬に変わったかのように、静寂と寒さに包まれていた。
「やっぱり、トッププレイヤーはスゴいね」
だが、彼がそれほど容易く倒れるはずもなかった。彼は自身の体から炎を発して、一瞬にして部屋中の氷を溶かし尽くした。その炎は凄まじく、まるで太陽のような熱を放ち、一気に氷の牢獄を解放し、男自身もその束縛から解き放たれた。
氷の王国は、男の炎によって太陽の地獄へと変貌した。部屋は灼熱の炉と化し、その暑さに汗が止まらない。しかし、その汗さえも瞬く間に蒸発してしまうほどの熱気で満たされていた。空気は煙るように熱く、息をするのさえ苦しい。
「僕、冬よりも夏の方が好きなんだよね」
「そうか。俺はどっちも嫌いだ」
「あはは、そうっぽいね!!」
「……春と秋だけが好きなんだよ!!」
あまりの暑さのあまり、剣を片手に駆け出す。
そして、男の首筋に向かって──
「《星煌乱舞》!!」
「《黒炎剣竜》!!」
「《星軌跡斬》!!」
「《焔ノ一撃》!!」
「《星屑閃光》!!」
「《怒りの剣》!!」
斬撃、剣戟、斬撃、剣戟、斬撃、剣戟。
斬撃、剣戟、斬撃、剣戟、斬撃、剣戟。
斬撃、剣戟、斬撃、剣戟、斬撃、剣戟。
斬撃、剣戟、斬撃、剣戟、斬撃、剣戟。
斬撃、剣戟、斬撃、剣戟、斬撃、剣戟。
緊迫した空気の中で、俺とこの男の間にあるのは、互いに優劣をつけがたい実力の均衡だった。剣が激しく交錯するたびに、火花が舞い上がり、金属がぶつかり合う響きが周囲を支配する。彼の剣はまるで踊るように俊敏で、俺の繰り出す攻撃を巧みにかわしていた。
だが、俺も容易には退かない。
剣先が彼の制服をかすめるたび、戦いの緊張はさらに高まる。互いの意志のぶつかり合いが生み出す切迫感が、空気を凍らせる。
「スゴいね……キミは!!」
「はは、お褒めいただき光栄だ」
「正直ね、開発者として飽き飽きしていたんだよ。主人公最強ものに憧れはしたけれど、ずっとソレだとつまらないよね。たまには苦戦しないと、面白くないよね」
「主人公はずっと無敵の無双状態だと、高揚感もスリルも何もないからな。つまり俺というライバルが生まれて、嬉しいってことだろ?」
「そうだよ、キミは最高だ!!」
まるで子どものように、目を輝かせる彼。
なんというか……無邪気だな。
「《
彼が次に放ったのは、まるで古の伝説から飛び出してきたかのような炎の竜だった。東洋の龍を思わせるその姿は、蛇のようにしなやかにウネリ、猛然と俺に迫ってきた。熱気を発しながら地面を溶かすその様は、まさに恐怖の化身だった。
しかし、俺もただ立ち尽くすわけにはいかない。このままでは、たとえ俺であっても深刻な打撃を受けるだろう。そこで、冷静さを保ちながら、前方に右手を突き出し、力強く魔法の呪文を唱え始めた。
「
バキバキバキッという音が響き渡り、まるで古城を思わせる堅牢な氷の城壁が、前方に現れた。氷の壁は厚く、透き通るような輝きを放ちながら、炎の竜の進路を阻む。
竜は、その氷壁に激突し、一瞬にして氷の彫刻のように変貌した。そして、次の瞬間、竜は氷の粉々に砕け散り、風に舞い上がる小さな氷のかけらたちが、光を反射して煌めいた。その光景は、恐怖と美しさを同時に感じさせるものだった。
「最高だね……キミは……!!」
男は恍惚とした笑みを浮かべていた。
と、その時──
「志苑!!」
「お、お待たせ!!」
詩葉と雨凛が部屋にやってきた。
「形成……逆転だな」
俺はニヤリと微笑み、男にそう告げた。
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