第36話 ラスボス
白いレンガが敷き詰められた、どこか神秘的で異様な部屋。その中心部分に、その男は立っていた。
「やぁ、待っていたよ」
ニコッと微笑み、その男は片手を振る。
その男の特徴は……特にない。
170センチほどの身長、細身……と言うわけでもない普通の体型。イケメンでも不細工でもない、普通の顔つき。中肉中背、どこまでも特別感のない男がそこにいた。
「お前が……ラスボスか?」
「そうだよ。同時にダンジョン・サバイブの開発者だよ」
「……つまり、お前がこのアプリを開発したのか?」
「うん、その通りだよ」
人は見かけによらない、という言葉がある。
この男も見た目に違わず、極めて非凡な才能を持っていたのだろう。あるいは特殊な能力を持ち得ており、その能力を駆使してこのアプリを開発したのだろう。
だからこそ、警戒する。
見た目に惑わされることなく、警戒する。
こういう男こそ、危険なのだから。
「お前に聞きたいことは──」
「僕の正体はもちろん、アプリの開発動機や開発方法。あとはキミにだけレベルアップシステムを付与した動機、とかかな?」
「……思考が読めるのか? 変態め……」
「心外だな。その程度のこと、予想なんて容易いよ」
気持ち悪い男だ。
だが説明がハブけて、少しありがたい。
「まず僕の正体だけど、キミと同じ学校の生徒だよ。それも同級生だよ」
「え、そ、そうなのか……?」
「まぁ隣のクラスだし、キミとは学校では関わったことがないけどね。だから、僕のことを知らないだろ?」
「あ、あぁ……その通りだ」
確かに俺の高校は比較的偏差値が高めだが、こんなアプリを運営するような天才がいただなんて。それも隣のクラスに、こんなモブっぽいい見た目のやつが。……意外を通り越して、衝撃だな。
「次にこのアプリを作った同期、及び方法だけどね……。そうだね、キミはネット小説は読むかい?」
「あぁ、ある程度は嗜むぞ」
「だったら知っているとは思うけれど、ネット小説の主人公は基本的に最強だよね?」
「あぁ、そうだな」
「僕はそんな最強の主人公たちに憧れたんだ。そして主人公たちのような力を得たくて、自力でその力を身につけたんだよ!!」
「……は?」
思わず、口からマヌケな言葉が出た。
「筋トレによって最強の筋力を手に入れ、未発見の元素を発見し、それを転用することで……魔法の力を手に入れたんだ!!」
「……めちゃくちゃだな」
「だけどね……最強の主人公がそれたり得るには、敵の存在が不可欠なんだ。現実世界には強盗や犯罪、戦争などは溢れかえっているけれど……それは違うんだよ」
「つまり、ファンタジー感のある敵が欲しかったんだな?」
「その通りだよ!! そこで僕は魔物、そしてダンジョンの開発に着手したんだ!!」
未知の元素の発見、そして転用。
それに加えて、ダンジョンや魔物の開発。
間違いなく……コイツは天才だ。
「それらの開発は成功して、僕は毎日のようにダンジョンに潜った。最初は魔物を討ったりダンジョンを攻略することに高揚感を抱いていたんだけど、徐々に……虚しくなってきたんだよ。物語の主人公は仲間と一緒に敵を倒すのに、僕は1人で挑んでいることに悲しくなってきたんだよ」
「……それで仲間を作るために、アプリを開発したと言うわけだな。だが……だったらどうして、配信やSNS上での発信を制限したんだ?」
「人が増えすぎると、民度が悪くなるでしょ?」
「あぁ……それだけの理由か」
なんだか、少しだけガッカリだ。
もっと高尚な理由があると思ったのに。
「それで……俺にだけレベルアップの機能を付与したのは、いったいどういい動機なんだ?」
「キミは最初のプレイヤーだよね?」
「あぁ。そうだが?」
「だからこそ、ちょっとしたプレゼントだよ」
「……つまり、最初のプレイヤーだったから、その感謝の気持ちとしてレベルアップの機能を付与したってだけか?」
「うん、その通りだよ!!」
……意外としょうもない理由だったな。
「おまえがこのアプリを開発した目的や方法は理解したが、1つだけ釈然としないことがある」
「なんだい?」
「俺たちをここまで誘った通知、ラスボス云々についてはどういう意味だ? 説明しろ」
「単純な話さ。サービス終了しようと思っているんだよ」
「……は?」
唐突な話に、再度マヌケな返事をしてしまう。
「アプリの人口が増えすぎちゃってね、ダンジョンでの死者の数が増えてきているんだよ。今は不審死や神隠しだなんて言われているけれど、いつかはこのアプリの存在が公になってもおかしくないでしょ? それにこのアプリの存在に各国が気付いて、軍事利用されるのは嫌だしね」
「……だったらラスボスが顕現する、なんていう話は?」
「嘘だね。その日になったら、アプリを強制終了するつもりだったよ」
それは困る。
同時に1つ疑問が浮かぶ。
「どうせサ終するのなら、黙って行えばいいんじゃないから。大事にしたくないのなら、こんなラスボスダンジョンなんて作る理由はないだろう?」
「そうだね……自分でも不思議な感覚だよ」
「と言うと?」
「理性では即刻のサ終をしないといけないことはわかっているんだけど、本心ではせっかく作ったアプリを残したいと思っているんだ。だからこそ、僕は賭けたんだよ」
「俺たちが勝てば、このアプリを残すという意味か?」
男は首を縦に振る。
「だったら……アプリの存続のためにも、勝つしかないな」
「その先にあるのが、軍事利用だとしても?」
「それは嫌だが……アプリを失う方が、嫌だからな」
「ワガママだね。だけど、嫌いじゃないよ」
そして俺たちは、同時に駆け出した。
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