第32話 ラストダンジョン 1/3
ラストダンジョンの内装は、これまでのダンジョンと特に何ら変わりは無かった。ごく普通の洞窟のような、薄暗いダンジョンだった。
「ら、ラストダンジョン……こ、怖いけど、が、頑張ろうね……!!」
「そう? アタシはこれまでとそんなに変わらなくて、少し肩透かしを食らったわ」
強気な詩葉だが、その膝は震えている。
……強がりだな。正直になればいいのに。
それは雨凛も同じ様子で、今は小動物のようにピクピクと怯えている。身体は大きいのに、マインドはウサギだな。
「大丈夫、俺たちなら大丈夫ですよ」
「強いわね。アタシも平気だけど!!」
「わ、わ、私も!! 大丈夫だよ!!」
何はともあれ、そこまで緊張することもないと思うのだが。2人はスキル数的に俺よりも劣っているが、それでもSSSランクの中でもトップクラスだ。
彼らは十分に強い。故に緊張は不要だ。
現に俺は全くと言っていいほど、緊張も恐怖も抱いていない。俺1人では攻略が難しかったかもしれないが、心強い彼らがいるのだからな。
「とりあえず、陣形を組もう。俺と詩葉は前衛をするから、雨凛は後衛を頼んだ」
「えぇ、、わかったわ」
「が、頑張るよ!!」
それぞれの装備、そして得意分野を鑑みて考えた最良のフォーメーションだ。武闘系のスキルを多く有する詩葉と俺は前衛に。魔法を得意とする雨凛は後衛に。そして状況を見て、俺は適宜後衛にも回る。
自分で言うのも何だが、これ以上ないほどに優秀で完璧なフォーメーションだ。どんな魔物がやってこようとも、このフォーメーションを維持し続ければ容易く返り討ちにできるだろう。事実、これまでに幾度も俺たちはこのフォーメーションで、ダンジョンを攻略してきたのだから。
と、そんな時だった。
目の前の地面に、白い魔法陣が浮かび上がった。つまり──魔物が出現するサインだ。
「オガァアアアア!!」
牛を彷彿とさせる角を生やした、大鬼の怪物。身長は5メートルほど、皮膚は茶色。
右手には棍棒を持っており、腰にはボロの布切れ。それ以外の装備はないが、筋骨隆々の肉体を見るにそもそも防具の類は不要なのだと、そう感じさせられる。
鼻息を荒くして、女性2人を……いや雨凛を注視している。それは食料として見ているのか、それとも性の捌け口として劣情を抱いているのか、充血した瞳から判断することは難しい。ただ1つ言えることは、極めて不愉快だということくらいか。
「ブラッディオーガ……SSS級魔物だな!!」
「……相手にとって、不足はないわね」
「き、気合い入れないとね!!」
俺以外の2人は、足が震えている。
これまで幾度も倒してきたハズなのに、このラストダンジョンという場所や雰囲気が緊張を生み出しているのだろうか。はたまたブラッディオーガの体高が、これまで討ってきたモノよりも大きいことに日和っているのだろか。
何にせよ……心配は薄い。
これまで2人は、より濃い恐怖にも打ち勝ってきた。故にこの程度の緊張や恐怖だったら、戦えるハズだ。2人は十分、強いのだから。
「倒すぞ!! ここで!!」
そして俺たちは、戦闘を開始した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「《鮮烈虎龍剣》!!」
「《
「《
ゴウッと詩葉の全力パンチが、ブラッディオーガの顔面を撃つ。そして怯んだ隙に、雨凛の放った漆黒の火球と、俺の氷の槍がブラッディオーガの腹部を撃つ。
ダンズダンッと凄まじい爆音が轟き、ブラッディオーガは砂煙に包まれる。その生死は伺えないが、生命力の高いブラッディオーガのことなので……間違いなく死んではいないだろう。
「オォオオ……オガァアアアアアア!!!!」
砂煙の奥から、轟きが聞こえてくる。
そしてブラッディオーガはブンッと棍棒を振り回し、砂煙を振り払った。そこにいたのは、腹部から多量に出血しているブラッディオーガの痛々しい姿だった。
さらによく見れば、その角は片方折れている。俺たち2人は頭に魔法を放っていないので、最初に殴りかかった詩葉のパンチの影響だろう。確かに凄まじい威力を誇る詩葉だが、まさかオリハルコンよりも硬いブラッディオーガの角をへし折るなんて……凄まじい膂力だ。
思ったよりも……ダメージが入っている。
ラストダンジョン補正でちっともダメージが入っていないことを予想していたのに、これは……嬉しい誤算だ。俺たちは自分が思っている以上に、強くなっているみたいだ。
「案外……ダメージが通っているわね」
「わ、私たち、強くなったんだね……!!」
「ラストダンジョンでも、十分通用するほどにな!! 行くぞ、2人とも!!」
そして俺たち3人は、再度攻撃を仕掛けた。
「《殲滅虎龍拳》!!」
「《
「《
強烈な拳、闇の槍、氷の刃。
それぞれがブラッディオーガに命中する。
そして──
「お、オガァアアアア……」
猛攻に耐えきれず、ブラッディオーガは光の粒子と化した。つまり──
「俺たちの……勝利だ!!」
俺たちの勝鬨が、迷宮内に轟いた。
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