第27話 許せない 1/3 【守本視点】

【守本視点】


 バカな男だ、と思った。

 どうやって見た目が大きく変わったのか、それに関してはさっぱり理解できない。だが何にせよ、俺にケンカを売ったことは万死に値する。


 この俺、守本元樹は天才だ。

 勉強も出来て、運動もできる上に実家も太い。欲しいものはなんでも手に入り、ここまで登り詰めてきたんだ。


 対して、コイツはどうだ。

 友達がいない、ぼっち。

 あとは身長が高くて顔がいいだけで、他に特筆すべき点はない。シングルマザーの弱者家系、ってくらいだな。


 そんなヤツが……あの日、俺には向かったんだ。こんな弱者にあの日、俺は敗北したんだ。それが……どうしても許せない。


「テメェが、俺に敵うワケがないだろ!!」

「やってみなくちゃ、わからないだろう?」

「どれだけ変化しても、バカは変わンねェな」

「果たして、バカはどっちだろうな」


 コイツと話すと、やっぱり腹が立つ。

 生意気で、度し難い。ムカつき過ぎる。

 だからこそ──殺してやることにした。


「お望み通り、ブッ殺してやるよ!!」


 俺は腕を広げ、魔法陣を形成した。

 右手に1つ、黄色いの魔法陣を。

 

「な、なんだよ!! あれ!!」

「魔法陣……? 魔法を使えるの!?!?」

「なんだよそれ、魔法って……厨二かよ!!」

「イケメンで実家が太くて、魔法使い!?」

「属性盛りすぎだろ!! 自重しろ!!」

「えってか……殺すつもりなの……!?」


 観客の予想通り、俺はコイツを殺すつもりだ。コイツは俺を殴り飛ばすという、大罪を犯した。いや、そもそも大人しくしていればいいモノを、デカくなって威圧的になった時点で許されざる罪と言えるか。


 つまり、万死に値するのだ。

 絶対にコイツを、許せないのだ。


「《中級の雷撃サンダー・ショック》!!」


 バチバチと魔法陣がスパークし、一筋の雷撃が俺に向かって飛んできた。青く光る雷撃は、俺の胸元へと直撃した。雷撃の直撃の影響で砂埃が舞い上がり、一時的にヤツの姿が見えなくなる。


 やれやれ、つくづく思うが愚かだな。

 何の才能もなく、容姿にも恵まれない。

 せっかくマトモな容姿と人並みの才能を手に入れても、調子に乗ったせいで死んでしまう。こんな哀れで愚かな男、俺は他に知らない。


 だが、同情はしない。

 俺こそが正義、楯突いたコイツは悪なのだ。

 とどのつまり、コイツの自業自得なのだから。


「ハッハッハ!! 無様に死ねェ!!」

「……この程度で、誰が死ぬんだ?」

「……は? え、は?」


 声が聞こえた。感電死したハズの男の声が。

 いや、だが……それはあり得ない。

 それを認めることだけは、絶対にあり得ない。幻聴に違いない。そうだ、そうに決まっている。


「……は?」

「……え?」

「お、お前……ど、どうして……どうして無傷なんだよ!!」


 D級のワイバーンでさえも一撃で屠った、最小の雷属性だぞ。それが直撃して、ノーダメージだなんて……こんなことあり得ない!!


「痛くも痒くも熱くもない。こんなチンケな魔法如きで粋がれるなんて、お前の頭は幸せだな?」


 あり得ないことが起きている。

 砂埃の中から、歩んでいるのだ。

 涼しい顔をした、クソ野郎が。


「な、な、なッッッ!?!?」

「どうした、顎が外れそうなほど口を開いて。金魚の真似か?」

「テメェ!! ゴムで出来てんのか!!」

「んなわけないだろう」

「ゴムゴムか!? ゴムゴムなのか!?!?」

「……人の話を聞けよ」


 確かに俺の魔法は直撃した。

 砂埃の中から現れたことから、それは確実だ。だったら何故、何故生きているんだ。


 理解が追い付かない。

 混乱が脳内を牛耳る。

 何故、どうして、謎が脳内を回る。


「さっきも言っただろう。お前の低級な魔法如きで、俺が死ぬハズがないだろう?」

「て、低級だと!? 俺の魔法は中級魔法の中でも、最強クラスの魔法だぞ!? 普通の中級魔法なんかよりも、威力が高いんだぞ!?」

「口だけは達者だな。次はどうするんだ?」


 次、次だと!?

 コイツ……俺のことをバカにしやがって!?

 これまで全ての敵を一撃で屠ってきた俺に対して、二度目を提案してきやがった。それは俺のこれまでのキャリアを侮蔑する、絶対に許されざる発言だ!!


 ブッ殺す。殺して殺して、殺してやる。

 絶対に許さねェ。唾吐きかけもそうだが、今の発言が一番腹が立った、俺のプライドを傷つけたコイツは、何が何でも殺してやる。


「テメェ……今さら謝っても、もう遅いぞ」

「それはコチラのセリフだな。これまでの行いを反省して、今さら猛省してきたって……俺はお前だけは絶対に許さねェ」


 口だけは達者な男だ。

 だが、何を言ったってムダだ。

 俺はもう、コイツを殺すことに決めた。


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す…………」

 

 魔法陣を展開する。

 最強格の魔法を発動する為。


「ま、魔法陣が5つも!?!?」

「何なんだよ、どうなってんだよ!?」

「俺たち……夢でも見てんのか……?」

「さっきが300キロワットの雷撃だったのに、それと同じような数々の魔法陣。それだけでもスゲェのに……雷撃をモノともしない、霊田はもっとスゲェよ!?!?」


 黙れクソ観客。

 俺だけを褒めろ。クソが。


「《中級の雷剣サンダー・ソード》《中級の雷槍サンダー・ランス》!!」

「……」

「《中級の雷弾サンダー・バレット》《中級の雷矢サンダー・アロー》!!」

「……」

「《上級の雷刃ライトニング・ギロチン 》!!」


 5つの雷属性の魔法を撃つ。

 雷剣は右腕に命中。雷槍は左腕に命中。

 雷弾は右膝に命中。雷矢は左膝に命中。

 最後に雷刃は、ヤツの首に命中した。


「どうだ! 俺の本気の5連撃魔法! いくらゴムで出来てても、さすがに……なッ!?」



 あり得ないだろ。

 どうして……無傷なんだよ!!


「……なぁ、これで本気なのか?」


 俺の雷魔法を受けて、なおピンピンしている。それがどうしても、俺には恐ろしかった。


「お、お前……ば、バケモノかよ……」

「あんなお粗末な魔法を退けたくらいで、そんなに驚くな」

「お、お前……バカにしてンのかよ!!」

「あぁ、その通りだ」


 何が起きた。理解できない。

 コイツは今、何をした。

 どうして、呆れた表情をしているンだ。

 やめろ、そんな眼で見るな。


 俺の心に、1つの感情が去来する。

 小さかった頃、親父に殴られた時と同じ感情が。その感情が“恐怖”や“畏怖”と呼ばれるモノであることに、この時の俺は気付くことができなかった。あるいは気付いていたが、気付かないフリをした。

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