第26話 度し難い男

「いったい……プレイヤー狩りは誰なんだ」


 教室の自席に座り、考える。

 2人の証言からすると、犯人は俺に恨みのある不良生徒だったらしい。だが俺は万年ぼっちだったので、不良との絡みはほとんどなかった。


 故に恨みを買うことなど、これまで一度もなかったハズだ。そのため犯人を絞り込むのが、極めて難しい。何か見落としていることが、あるのだろうか。


「志苑くん……今日もカッコいいね」

「ただ座っているだけで、スタイリッシュだね!! イケメンが過ぎる!!」

「はぁ……抱かれたいわ……!!」

「付き合ったら……めちゃくちゃイジメてもらおうかしら!!」


「ちッ……調子に乗りやがって!!」

「こないだまで目立たない陰キャだったのに、突然高身長イケメンになるなんて……何かヤバいことしてんだろ!!」

「くそッ……羨ましい……!!」

「俺も……ちくしょう……!!」


 ……いや、恨み自体は買っていてもおかしくはないか。俺がこんな姿になったことで、主に男子生徒たちからの嫉妬の視線が突き刺さる。


 俺を恨んでいるヤツは、思ったよりも多い。

 その中に不良生徒がいても、不思議ではないだろう。2人の証言によれば襲ってきたのは、山優高校の制服を纏っていたらしいので……同じクラスの生徒が犯人でも不思議ではない。


「……お、霊田じゃねェか!!」


 そんな時だった。

 教室の扉が乱暴に開かれ、1人の不良生徒が教室にやってきた。見覚えがあるが、なんだか懐かしい顔。そうだ、守本が久しぶりに学校にやってきたのだ。


 同時に、脳内にハテナが浮かぶ。

 守本はここ最近、登校してこなかった。

 それがどうして、このタイミングで……?

 なんだか線と線が繋がりそうな、そんな気がしている。


「どうだった? 俺からのプレゼントは?」

「プレゼント……?」

「あの2人、傷付いた姿がかわいかっただろ?」

「……は?」


 何を言っている?


「まだわからねェのか? 俺が『プレイヤー狩り』なんだよ!!」


 高らかに宣言する守本。

 だが同時に……意味がわからない。

 こいつはしばらく学校に通っていなかったから、こいつとの接点などほとんどない。故にこいつに恨まれるようなことなど、1つもしていないハズだ。


「どうして……2人を襲ったんだ……?」

「最初はただ山優高校の生徒だったからだ。だが風の噂で、お前の友人だってことが分かってな。それを知った時は嬉しかったぜ!!」

「……俺がお前に、何かしたか?」

「テメェ……忘れたのか……!?」


 どうして激昂するのか、意味がわからない。


「テメェは俺をコケにしただろ!!」

「……なんのことだ?」

「……もういい。テメェ、放課後校庭に来い」

「それは……決闘という認識で構わないか?」


 コクっと守本は頷いた。

 決闘は罪に問われるが……今は気にしている余裕などない。こいつを倒せるんだったら、罪に問われても構わない。


「わかった。逃げるなよ」


 俺の発言に、クラスメイトが沸いた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「よぉ、よく来たな……!!」

「それはこちらのセリフだ」


 放課後、俺は校庭にやってきた。

 相対するのは、憎々しき守本。

 

「それにしても……よくこんなに集めたな」 

 

 俺たちを円状に囲むように、多くの生徒が集まっている。被害が加えられないように俺たちから半径数十メートルの距離を取っているが、その距離でも十分危険だと思う。


 これほどまで多くの観客がいる、ということはつまり多くの人々が俺の敗北を望んでいるのだろう。いや、正確には守本の活躍を望んでいるのだろう。一部の生徒はスマホを開き、配信やらを行なっているしな。


「あぁ、テメェの醜態を晒すためだ!!」

「……愚かなヤツだ」


 何とも救い難い男だ。

 こうして対峙してわかったが、俺と守本の差は歴然だ。保有する魔力量も身体能力も、ずっと俺が凌駕している。おそらくヤツは……D級程度の実力しか有していないのだろう。


 だが、これほど生徒が集まったのは、俺にとっても好都合だ。これだけ観客がいれば、守本は敗北の言い訳ができないだろう。それに守本の醜態を晒して、コイツの心を徹底的に折ることができる。


「守本様!! 頑張ってェーーー!!!!」

「応援しているわ、守本様ァーーー!!!!」

「いけすかねェイケメンを、嬲り殺せェ!!」

「打て!! 刺せ!! 斬れ!!」


「かわいそうね、霊田のヤツ。あんなにイケメンになったっていうのに、待ち受ける未来は変わらないなんて」

「あのイケメンの顔が歪む姿……少し楽しみ」

「そう? 私は惜しいわ。あんなイケメン、叶うんだったら……傷ついてほしくないもの」

「元は陰キャでも、あんなにイケメンになったら……少しは心が痛むわね」


「俺……実はあのイケメンを応援してんだよ」

「わかるぞ。大きな声じゃ言えないけれど、守本の独裁って……正直窮屈で嫌だもんな」

「あのイジメだって、不愉快だったもんな」

「志苑様!! ギッタギッタにしてください!! ブッ殺して、グチャグチャにしてください!!」


 ほとんどが守本への応援。

 ごく一部のみ、俺への応援。


「守本……お前が行なったことを、俺は許せない。万死に値する」

「黙れ!! お前を殺してやるよ!!」


 呆れ、そして怒り。

 その感情が、胸中に渦巻く。


「行くぞ守本、魔力の貯蔵は十分か?」

「ワケわかんねェこと言ってないで、始めるぞ!! 殺してやるよ!!」


 そして、戦いは始まった。


 

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